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ファイターズファンで良かったよ

新庄剛志の引退試合は、2006年の日本シリーズ。最後の打席に向かった新庄は、目の前が見えないほどの涙を浮かべていた。フルスイングで空振り三振。彼の入団前には想像すら難しかった「満員の札幌ドーム」は、ファンの歓声と拍手で包み込まれた。

実況アナウンサーの「新庄は涙をこらえることができませんでした」という言葉に、解説者はゆっくりと言葉を探し、絞り出すように答えた。

「みんな、同じ気持ちだと思います」


その解説者が再び北海道に降り立ったのは、それから6年後の話になる。今度は、北海道日本ハムファイターズの監督として。

就任初年度は、不動のエースだったダルビッシュ有がメジャーリーグに挑戦した翌年にあたる。誰もがチームの行く末を不安がったそのシーズン、彼は若手選手を巧みに起用してペナントを戦い抜いた。そしてファイターズは、見事にリーグ優勝を果たした。

それから今日に至るまで、ファイターズは12球団でも一番、波乱万丈なチームだったと思う。人気選手の流出、若手選手が台頭。チーム順位はシーズンごとに目まぐるしく入れ替わった。それこそ、リーグ最下位から日本一まで。

ファイターズは、どの球団よりも選手をシステマチックに、ドライに入れ替える球団だった。極端な結果が出たときは、ファンも驚くようなシビアな決断をする。FA宣言をした選手を強く引き留めることもしなかった。そんな状況のなかで彼は、どの監督よりも選手を愛する人だった。

ときに、数字には表れなくとも、期待と信頼を込めて選手をグラウンドへ送り出す人だった。結果が出なかったときは「俺が悪い」と、絶対に責任から逃げなかった。

ファンを長いことやっていると、ポジティブな気持ちだけが続くということはなくなってくる。応援していた選手は北海道を去っていくし、札幌ドームの人工芝か気候のせいか、怪我も決して少なくない。ときに一軍と二軍が入れ替わったかと疑うようなスタメンが揃うこともある。それでも懸命にチームを動かし続け、選手一人ひとりの気持ちを大切にする監督の姿を見ると「ファンが信じなくてどうする」と思えた。

2019年、2020年とリーグ順位は5位だった。今シーズンも最下位争いが続いた。そうでなくとも10年の長期政権。この時が来るのは仕方がないことかもしれない。それでも信じたくない気持ちでいっぱいだった。

次の監督には、あのとき満員の札幌ドームでバットを振った、新庄剛志が決まった。そのニュースは至るところで取り上げられ、大きな話題となっている。僕自身、新庄剛志の影響でファイターズのファンになったのだから、とても嬉しいし、両手をあげて喜びたい。でもその前に、彼への感謝を書かないといけないと思った。

栗山監督へ。あなたの人生を北海道に注いでくれて、ありがとうございました。あなたのおかげで、ファイターズのことが大好きになりました。プロ野球が大好きになりました。どれだけ感謝しても足りないくらいです。この10年、ファイターズのファンを辞めようと思ったことは一度もありません。僕の人生に大好きな球団をつくってくれて、ありがとうございました!ファイターズファンで良かったです。きっと、みんな同じ気持ちだと思います。

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