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”夢がかなう場所”にいても、夢は叶わない

19歳の時、ディズニーでアルバイトをしていた。

憧れのコスチュームを身に纏い「いってらっしゃーい!」と笑顔で手を振る。人気アトラクションのため大変なことも多かったが、ゲストの笑顔を見るだけで幸せな気持ちになれた。

ある日私は、キャスト仲間の一人が身長を計測するため、外国人の男の子を止めているのを見かけた。そのアトラクションには身長制限があり、残念ながらその男の子は少しだけ身長が足りなかったようだ。

アトラクションで遊べず、その男の子は泣いていた。「お前のせいだ」と責められていたのか、「泣くな」と怒られていたのはわからないが、お母さんは子供に対して激怒していた。

「せっかく海外から来ているのに、悲しい思い出にしてほしくない」と私は思った。

実は、今は廃止されてしまったのだが、当時ディズニーには、「フューチャーライドカード」というものが存在した。
これは規定の身長に満たずアトラクションに乗れなかった子供を対象に、残念な気持ちをリカバリーする目的で渡していたカードで、身長が大きくなった時に持ってくれば、それがファストパスチケットとして使える。

「この素敵なリカバリーサービスは、こういう時にこそ使うべきものではないのだろうか?」

英語は得意ではなかったが、私は勇気を振り絞って、駆け出した。

「は、ハロー!」

男の子は泣きながらも横目で私のことを見てくれた。私はすかさずしゃがみ込んで彼に目線を合わせ、カードを見せる。
おもちゃを渡すのとは違い、ただ絵が描かれたカードでは子供の気を引くことはできなかった。

しかし、ここで諦めるわけにはいかない!

私はしゃがみ込み、この子に話しかけてしまったのだ。どうにかしてこの男の子に話を聞いてもらわなければ、という一心で!

「アイム アヤノ!アイ リブイン トーキョー!エンド ユー?」

そのつたない英語が、口から出てきた精一杯の言葉だった。するとその男の子が、目に大粒の涙を溜めながらニッコリ笑顔になった。

名前こそうまく聴き取れなかったが、フィリピンから旅行に来たこと、初めて来たディズニーがとても楽しいことなどを英語で話してくれた。
私は、その話を聴けるのが嬉しくてただ笑顔でうなずいた。そしてカードを渡すため、身振り手振り説明をした。

「ネクスト カム ヒア,  ディス カード キャン ライド」

どうやら通じたらしい。さっきは見向きもしなかったカードを嬉しそう受け取ってくれた。

「また来るね!お姉ちゃんは僕の家に遊びにきてよ」

大切そうにカードを持ち、男の子は去っていった。お母さんも笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。男の子は離れたところから振り向き、また手を振ってくれた。

「つたないカタコト英語でも、人を笑顔にすることができるんだ! 心を開いてくれるんだ!」

私は衝撃を受けた。

「きちんと英語が話せたら、どれだけ楽しいのだろうか? 何ができるのだろうか?」
考えただけでワクワクが止まらなかった。やりたいことや夢がないことが悩みだった私に、初めて目標ができた瞬間だった。

「英語を学んで、世界中の人と話がしたい」
「広い世界を自分の目で見てみたい」

私はその後留学する機会にも恵まれ、世界中に友達ができた。
さらに、自由気ままに世界60カ国以上を放浪した。

かつてディズニーの自己紹介シートの「将来の夢は?」の欄に思いつきで書いた「自由気ままに海外放浪」が、アルバイトから6年後に現実のものとなった。

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10代の多感な時期にディズニーで働いていなければ、そしてこの親子に出会わなければ、今頃はどうなっていたのだろうか。

「やりたいことがない」と適当な会社に勤め、仕事後のビールだけを楽しみに生きていたかもしれない。

しかしあの時勇気を振り絞り英語で話しかけたことで、自分の道は良い方向に開けたように思う。
ただ”夢がかなう場所”にいても自ら行動しなければ、やりたいことや夢なんて見つからない・叶わない。
一歩踏み出すことが重要なのだ。

夢をかなえる場所・東京ディズニーリゾート。
叶える側として働いていたはずが、夢をもらえたのは私の方だった。

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