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人工タンパク質繊維を本藍染めできたら可能性めちゃくちゃ広がると思うんです。


今日、蜘蛛の巣から糸つくって藍染めしてみました。


どこにでもあるこんな巣を、撚り合せて糸風に。(未精練)

藍に浸す。

絞れないので、水中酸化で数回。

薄〜く、部分的に染まりました。


・・・さて、なぜこんなことをしたかというと、

人工タンパク質繊維を本藍染めできたらいろんな世界が広がるはず。

ということ。

今回は遊び的に本当の天然繊維(クモフィブロイン)だけど。

本題としては、

人工タンパク質繊維の実用化に向けて取り組んでいる企業への羨望。


Spiber株式会社さん

www.spiber.jp

慶應義塾大学発のバイオベンチャーで、

人工的にクモの糸(QMONOS)を合成し、一般流通に向けて取組んでいる。

ゴールドウィン(THE NORTH FACE)やトヨタ自動車(LEXUS)とのコラボを実施中で、未だ流通商品は出来上がっていないにもかかわらず時価総額が上がり続けている
とても興味深い会社。

初めてこの取り組みを知った時から、絶対コラボしたいと思い続けている。

なぜそう思えているのか。3つ。

①「タンパク質」繊維であること

QMONOSは、人工合成のタンパク質。この事実が天然染料を染める人間にとってはとてつもなく嬉しい。

なぜか。天然染料は一般的に天然素材にしか染まらないと言われてきたから。
ポリエステルやナイロンには染まらない。染まったとしても堅牢度(色の強さ)に欠け、色落ちがしやすい状態になるし、染めてみたこともあるが美しい色にはならない。

染まる理由としては、
染料が定着する隙間があるかどうか。というのがざっくりとしたもので
ポリやナイロンは密度が強すぎて入り込む隙間がない。だから表面に薄くついただけで洗うとさっと落ちちゃう。

一方、綿や麻は単純に繊維が液を吸いこむ際に藍が入ってくれる。
絹には構成されるタンパク質の一種であるフィブロインの部分に入り込んでくれる。

ということは、

QMONOSはきっと染められるし、良い色を出してくれるかもしれない。

そう思うとやってみたくなる。

ちなみに、色落ちについて。
草木染めは一般的に化学染色に比べ、色落ちしやすいと言われている。
「色が落ちるのが自然なことならそれでいいじゃん」
現在の捉え方の変化の中で、そんな考えもあると思う。
でもそこは結構こだわりたい。いろいろあって。
そう思う一方で、一般的に売られているジーンズは色落ちするって表記があっても何も言われないのに、藍染めになると急に色落ちの心配をされる事実については違和感を覚えてしまう。
この差はおそらく一般人に無意識に根付いてしまった「知識と認識」の周知の問題があるので、段階的にお互い歩み寄っていかなければならない。

②「廉価」で「丈夫」であること

Spiberさんは、とてつもなく面白い繊維を作っている。
鋼鉄の300倍以上の強度を持つものを、廉価で。

人類がタンパク質を使いこなす時代が来る

実際のところ、クモの糸のような繊維は業界で割とホットなテーマで。
農研機構さんとかとImPACTというチームを作り、連携して進めていたりする。

あとはリケンさんとか。

『化学的手法でクモの糸を創る』

この事実が糸を扱うものに関して、どう興味深いのか。
大きく分けると価格と耐久性がある。

『価格』については、まだ一般流通していないのでわからないが、
これまでよりも圧倒的なコストダウンを実現しているとのこと。

ざっくりいうと、天然繊維の価格帯は

 綿 < 麻 < 絹 

綿麻は植物、絹は動物(家畜)であるという点に加え、

糸を創るまでの手間の部分でも、綿麻もかなりの手間はかかっているけれど、それ以上に絹の方が高くなる。

その分用途は限られてしまう。

しかし、QMONOSの流れとしては、結果的に「安くて良い」品がつくれる。

その可能性が高い。

『耐久性』は「糸切れ」という問題に対して非常にメリットが大きい。
織物に使う糸は非常に細いものが多く、ある程度の耐久性や伸縮性はあるが、どうしても糸が切れることがある。
糸が切れると、つなぎ直す作業が出る。
つまりその度に作業が滞るため、効率は下がる。
これは手織りも機械織りも、それより前の染めや加工の工程においても一緒。
QMONOSがどれだけの伸縮性を保持しているのかはわからないけれど、耐久性が抜群だとすれば、少なくとも糸切れの心配はない。
となると、これまで作業を中断せざるをえなかった心配がひとつ減る。

糸切れは織物作りのほとんどの工程においても起こりうる課題であるため、現場にとってこの解決は非常に大きい。

となると、こんな面白い繊維が入ったら、一気に幅が広がるんじゃないかと。

そう思っています。


③ 単純に染めてみたい。そしてもっと可能性を追求したい


結局は好奇心で。
そもそも自分が藍に惹かれたきっかけは「絹糸」が本藍に染まる瞬間で。

その「変化」と「美しさ」が源にある。


「じゃあこれはどう発色するんだろう?」
「どの色が一番好きだろう」
「こうすればもっと良くなるんじゃないか」

そのために原理を知りたくて、化学ではなく科学としていろんな仮説を立てて、考えてる。


細かい物質とかはわからないけど、大まかな理論では理解できる。
しかもQMONOSは大量生産の過程で微生物の発酵原理を用いていると。
藍も仕込みの過程で微生物の発酵原理がなければ成り立たない。
それならそこから何か関係があるんじゃないか。
お互い発酵のしすぎも良くないとすればどういった感覚で調整しているのだろうか。
発酵同士だと色の違いが出るのだろうか。経年変化は出るのか
利用した過程を知ればもっと藍の詳細解明の一助になるんじゃないだろうか。
お互いに刺激を受けるんではなかろうか。
そもそも人工タンパク質が染まるのか
堅牢度はどうなのか
そもそもクモフィブロインには光沢があるのか


全部やってみないと判らない。
失敗したら「ごめんなさい」しか言えない。

でも、やりたい。

ただやるだけじゃなくて、その先まで、いろんな可能性を追い求めたい。

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では、どのような可能性が見込まれるか。

もちろんいろんな可能性はあるのだけど、

今は自分が「こんなのあったらいいな」と思うものをピックアップ。

※うちで本藍染めして使いたいので、それをベースに箇条書きで。


A「本藍染めアウトドアウェア」としての新たな可能性

これまでの課題:天然素材の吸水性
 →天然繊維は汗を吸って重くなるから(特に綿)、体温調節がカギのアウトドアには大敵。

QMONOSを使う:吸水性の問題は解決される可能性がある
 →初めはMOON PARKA のようなアウターから、場合によってはインナーまで、藍染めウェアを纏える。用途が広がる。

結果:藍染めが身近になる。着たくてもきれなかった環境で身に纏えるようになる。


B「旅するアウトドア着物」としての可能性(Aから派生)

これまでの課題:価格・場所・手入れの解決策がポリ製品しかない。
着物は高い → ポリの着物はある
どこで着ていっていいかわからない → 京都とかでレンタル
扱いが難しい → ポリの洗える着物
ナイロン・ポリ系は藍染めできないので、一般的に本藍染めの着物は纏えない。
つまりは選択肢が限られすぎていたし、持つメリットがあまりなかった。

QMONOSを使う:「アウトドアウェアとしての着物」が実現するかも。
→ 廉価で丈夫な糸を藍染めするので、耐久性もある。藍染めできるはず。
  手入れも気にする必要はないので、気楽に身に纏うことができる。
形は工夫して制作すればいいだけ。最初はハッピとか作務衣でも良いかもしれない。
  機械織りの方が最適なはずなので、コストも浮く。
  そして何より最先端×藍染め×デザインの「世界観がカッコ良い!」

結果:着物で世界一周旅行ができる。普段着として身につけやすくなる。
長く使えるので、10年単位で考えれば結果的に安くもなる。

なんか着物で世界一周している男性がいらっしゃるということで、その際は是非これを身につけてほしいなと。


C「一本の糸からできるプログラミングニット」の可能性

これまでの課題:洋服は和服と違い、型に合わせて裁断するから無駄が出る。(和服はそもそも生地をほとんど無駄にしない)

最近普及している技術:ホールガーメント(和歌山 島精機製作所発、一本の糸からニットを編み上げる技術)

実現してみたいもの:QMONOS × 本藍染め(二上) × 島精機さん × MAITOさん(ホールガーメント技術を使いこなす若手の草木染めブランド) のパーマネントウェア

究極の理想を言えば

QMONOSやその他繊維が、

ホールガーメントで無駄なく1枚の洋服を作る段階があって

そのあと更にその技術を発展させて3Dプリンタみたいに一本の糸からプログラミングでどんな服でも立体的に作れるようになった状態になれば

糸一本とパソコンがあれば自分好みの服が作れるようになる世界がくる。

それを実現したい。
結果として、
そうすれば糸に対する認識も高まるから(現状としては糸よりも布で捉える人が多いイメージ)

逆に編み物、織物はきちんと価値づけできるし

根源である糸や繊維そのものの価値がきちんと見直される世界がくる。

現状は3次の人が1次や2次の人を買い叩く世界が続いている。

1次や2次がいなければ3次は何もできないのに。

逆に1次の人を支えるはずだった財団法人の人たちも
絹糸や綿糸の価値を間違った伝え方をしてきた反省をしなければいけないし(これは別でまた書きたい)

もう一度土台を作っていかなければいけない。
絹糸に関しては自ら価値をつくっていきたい。


でもこのことに関しては、ユニクロがホールガーメント技術に取り組み始めたり、

筑波の落合陽一研究室の学生が

シルクプリント(No.17)っていう作品を作ったり

思った以上のスピードで流れが加速している気がする。


イノベーションは未来の当たり前を創ることだ

っていうセリフを何かで読んだ。

その当たり前に関わる人間になれるよう努力します。

勢いならある!


・・・が、これを書きながら思いついたのが、

カイコはゲノム解析されてるから、

シルクフィブロインを吐くのではなく

クモフィブロインを吐くように組み換えできるんじゃね?

という話。

だけど、これはまた今後の宿題!


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