ゆで卵の殻むきはロバート・デ・ニーロで
平日の朝、私はゆで卵をふたつ作る。
ダイエット中の彼氏からお米の代わりにお弁当に詰めてほしいと言われて、かれこれ1年は経つだろうか。すぐに根をあげると思ったら、意外と続いていて密かに感心している。
作ると言っても、「レンジでらくチン!ゆでたまご」という文明の利器を手にしているから、全く手間ではない。ゆで卵ヘビーユーザーには全力でおすすめしたいくらい便利なツールだ。※ただし固茹でに限る
さて本題だが、出来上がったゆで卵の殻剥き。日によってキレイに剥けたり、白身まで取れてデコボコしたり、意外と心が振り回される作業じゃないだろうか。
実はとある方法に辿り着いてから、ゆで卵の殻剥きがむしろ快感になっているから、後世に残しておきたいと思う。
その名も、ロバート・デ・ニーロ法。
僭越ながら、私が勝手に命名した。
この方法と出会ったのは、『すき焼きを浅草で』というグルメエッセイ本の中でのこと。著者は「エンゼル・ハート」というミステリ映画で、ロバート・デ・ニーロが扮した謎の紳士のゆで卵の殻の剥き方に目が釘付けになったそうだ。
ゆで卵を横にして持ち、皿の上にぶつけて一か所を崩す。皿から離さず、卵の上に掌を当てたまま、力を入れて押しつけながら一回転させると、周囲の殻がじゃりじゃりと割れ、殻が外れる。
著者と同じく、そんなやり方があるのかと驚いた。読んでしばらくはいつも通り、ゆで卵を流水に当てながら不器用に殻を剥いていたのだけど、ある日、ちょっとした気まぐれで上の方法を試してみた。
キッチンの台にゆで卵を横に置き、その上に右の手のひらを置く。そのまま少し力を入れて、奥に手のひらをスライドさせる。
えもゆえぬ感触がした。人の手ではなしえない、細かなひびがミチミチッと入っていく。ぐるっと1周して、さらに手のひらを微妙にずらしながら、未だ無傷の殻の部分まで粉砕していく。
水を張ったボウルにひび割れだらけのゆで卵を入れる。すでに殻が剥げ、白身が見えた小さな隙間からカリカリ剥がすと、一気につるんと剥ける箇所がある。細かなひびに反して、殻は塊のまま卵から離れていく。
この方法は万能ではないので、日によってはちょっと形が悪くなることもある。が、あの手のひらの下でミチミチとひび割れていくゆで卵の殻の感触。めちゃめちゃ気持ちいい。
コツはあまり力を入れず、最小限の圧でやさしく転がしていくことだ。他のことに気を取られ、思わず力を入れたら、ゆで卵がびしゃって潰れてしまったことがある。
(さあ、今日もロバート・デ・ニーロみたいにしっかりやるのよ)
私の密かな朝の楽しみ。これからもこっそりキメます。
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