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額縁の効果

絵や写真を展示するとき、現代ではパネル加工やプロジェクター投影等々方法が様々にありますが、それでもやはり額に入れる方法が一般的なように思います。そして額に入れると、作品に額縁がつくわけですが、額縁にはいろんな効果があります。

まず、額縁は視線を作品の奥に引き込み、構図の力を高めると言われています(※1)。写真の構図に額縁効果というものがありますが、人は囲われているものに注意を向けるため、額縁があることで周りと分断した意識が向けられるというわけです。そして注意をひくため、作品のイメージに対する理解度が高まり、構図が引き締まって見えるのだと思われます。

また、額縁の色も重要です。フレームの色が黒なら作品の白が強調され、金なら青の響きが増すと言われています(※1)。これは補色の関係として有名です。また、黒は収斂色、白は膨張色であることから、作品をしまった感じにしたり、あるいは広がりのあるイメージにしたりということもできます。もちろんこれは一般的なルールであってそれに縛られる必要はありません。赤い作品に赤の額をつけるということもあります(図2)。

図1 青が強調されています(※1より引用)
図2 赤い作品に赤の額縁の例(レイチェル・フレミンガー・ハドソン『無題』)

色と同じくらい重要なのが、額縁の形です。特に写真の場合はオリジナルファイルの形状が四角形(フィルムのネガであってもデジタルセンサーから出力されたイメージであっても)であることが非常に多いため、必然的にプリントが四角形になることもあり、提示されている額縁の形も四角形が多く見られますが、これにも効果があります。Oyama T and Haga Jによると、角があり尖った硬い図形(含む四角形)は心理学的に「良い、安定している、充実している」という意識を与え、物をより大きく力強く見せる効果があります(※2)。このことから、四角形の額縁で囲むことにより、心理的に作品の存在感が上がると言えることがわかります。
丸の場合はどうなのかというと、丸は快さや好ましさを上げるため、丸の額縁にすると親しみやすさを上げることができますが、存在感は四角と比較して低下する傾向があります(※2)。家族写真を入れるロケットが丸いのは、丸くすることでより親しみやすさをあげ存在感を下げることで、いつでも身につけていたくなるものにしているからかもしれません(図3及び図4)。

図3 丸い額縁の例(参考文献1より引用)


図4 家族写真を入れたロケット

そして、複雑な形にするとどうなるかというと、活発さが上がる(※2)ので、作品にエネルギーを伝えることができると言えます。しかし、実際に額縁を複雑な形(下記図5のb)にすると作品に対する理解度が下がるということが報告されており(※3)、「なにか複雑な形の額があったことは強く覚えているのだが、中身を覚えていない」になることが実験で証明されています。

図5 実験に使用された額縁(※3より引用)

最後に、作品と額縁は、時に「完璧なマリアージュ」と言われるような効果が得られることもあります。しかし、この表現は対等な関係ではなく、額縁は常に従属的なものです。作品に対して額縁がしばしば取り替えられて捨てられてきた理由のひとつは、額縁が絵だけでなく部屋にも合うようにデザインされなければならないからで、額縁はアートの歴史でもあると同時に家具の歴史でもあるのです。作品に対して真っ赤な額縁がいいと思っても、それを家で飾れるかどうか考えなければいけない。さらに、「完璧なマリアージュ」になっている作品と額縁は、周りの作品と相性が悪いかもしれない。作品は一点だけど、額縁は作ることができるので、ことに額縁の旅というのは、終わりがないのです。

あなたの作品に合う額、探してみませんか?


(※1)
Frames (National Gallery Pocket Guides), Nicholas Penny, National Gallery Publications London, 1997

(※2)
Common factors between figural and phonetic symbolism., Oyama T and Haga J, Psychologia, 6, pp.131-144, 1963

(※3)
絵画と額縁の組み合わせ効果における理解度の影響, 栗山直子, 日本感性工学会論文誌, 2014

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