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Little Diamond 第4.5話


第4.5話(Side story)  魔法の作り方

4.5-1

目覚まし時計と同時に起き、二度寝しないように窓を大きく開け放つ。

ああ。
今日もいい天気だ。
……寒いけど。

布団で温まった体が冷え切らないうちにうちに着替えを済ます。
テキパキと魔法装備をピックアップし、持ち物を確認する。


今日は「仕事の日」だから。
普段ならギリギリまで寝てるし、自慢じゃないがオレは二度寝肯定派だ。

つまり、今日は特別に気合が入ってるってこと。


なんせ「魔法使い」としての仕事だ。
……まぁ、言い方を変えれば道具屋のバイトだが。

既成のアイテムに魔法を書き込んだり、MP(魔法力)をチャージして、いわゆる「魔法アイテム」を作る業務。

とくに危険はないけど消耗するから、体調は万全を期さねばならない。


月1~2くらいの頻度で突然呼び出され、低賃金でノルマのきついブラックな仕事だが、定職についていないオレにとっては貴重な収入源なのだ。

オレの名はユウト。

幼年から魔法都市グランピオで育ち、高等部で魔法医療を専攻。
LOVE&PEACEな「インテリ系」魔法使いさ。

卒業後、首都で仕事を探すために上京してきた。

だが首都は家賃がバカ高く、無職のオレには残念ながら手が届かなかった。

町から一歩外に出れば、モンスターや盗賊が獲物を探して徘徊しているご時世だ。

商業ギルドで運輸の護衛チームに参加すれば、手っ取り早くそこそこのお金がもらえるが、そういう野蛮な仕事はお断りしている。

なぜならオレは、ワイルド系ではなくインテリ系の魔法使いだからだ。

そんなわけで首都からほど近い、このククルの町に落ち着いた。
夫婦経営の酒場で住み込みのウエイターをしながら、就活中ってことでお世話になっている。

人のよいマスターのご厚意により、宿代や食事代は実質「出世払い」になってしまっているのが心苦しい。
少しでも稼がなければ申し訳ない。

だから今日も不本意ながら「便利な魔法使い」として出かけていく。

マスターの作ってくれた朝食をありがたくいただき、素早く身支度を整えた。

「行ってきまーす!」
カウンターの奥で新聞を読んでいるマスターと、窓辺の鉢植えの水やりをしているおかみさんに声をかけて、宿屋の玄関の扉を開けた――が。

――そこには、見慣れない少女が立っていた。


とつぜん音もなく空間に浮き出たかのような、透明感のある静かな佇まいで。
一瞬、時が止まったかのような錯覚。

こう見えてオレは、女性の顔は1度見たら忘れない自信がある。

だがこの時ばかりは、脳内の美女リストと照合するまでもなかった。

美少女ではあるが、逆にどこか洗練されていないラフさ。にもかかわらず、鋭いというかクリアでシャープな凛とした雰囲気。

見たことがあるわけない。
あったら絶対忘れないハズだ。

放ってはおけない、見逃したらいけない。
オレはそんな焦燥感に駆られた。

とりあえず声をかける。
「あ……あの、お客さん?」
彼女と視線が合う。
燃えるような深いオレンジ色の瞳。

「ここは、酒場ですか?」
意思を宿した、よどみのない真っ直ぐな声。

「うん、そうだよ。どうぞ」
絞り出したはずの自分の声は驚くほど軽く、どこか遠くて実在感がない。

自動応答のように味気なく返し、扉を開けてやるのに精一杯だった。

彼女は静かに「ありがとう」と言って入っていく。
扉が閉まるその瞬間まで、オレの脳は動作を停止していた。

愕然とした。
このオレとしたことが。
気の利いたセリフが何も出てこなかった。

まるで魔法にかかったように、動けなかったんだ。

しばらくそのまま、立ち尽くした。
手の震えと意識の拡散を落ち着かせるのに、必死だった。

だが急に思い出した。
仕事に出かけるところだったことを。

「やっべ、遅刻する!」

とりあえず小走りで道具屋に向かいながら、さっきの感覚を分析する。

不思議な感覚だ。

いつか学校で習った、魂の共鳴というものか?
前世での縁が深いと共鳴するとかしないとか。

いや、ちょっと違うような?

パズルのピース……。
歯車が、カチッとはまるような感じ?

そうでなければ――……。

4.5-2

仕事は必死で集中して全力でこなした。
朝の少女が気になって仕方なかったが、運命を感じた以上、また会える予感もしていたからだ。

作業場は薄暗く埃っぽい。
道具屋の奥の、倉庫を兼ねたアトリエ。

作業場・道具屋倉庫


淡々と黙々と、心を無にして作業を進める。

道具屋にある魔法アイテムの多くは、魔法が使えない人が魔法を使うためのもの。
単機能に限定することで、誰でもスイッチ一つで魔法を使える。

作り方は3ステップ。
① 魔法の構造を正確にイメージする。
② それを回路図として媒体に転写し記憶させる。
③ さらに発動するためのエネルギーであるMP(魔法力)もチャージしておく。

たとえばスイッチを押せば火がつくライター。
これも魔法アイテムのひとつ。

書き込んだ魔法回路にチャージしたMPが流れ、自動的に魔法が発動するしくみ。

普通の使い方なら2~3か月くらい持つと思う。
MPが切れたらまたチャージする。

これは魔法の使えない一般の人向けの商品だ。


それ以外に、数は少ないが魔法使い向けの商品もいくつかある。
魔法回路を書き込んだだけのタイプだ。
ある程度難しい魔法も使用可能だが、その代わりMPは自腹。

このタイプは「複雑な魔法構造をイメージする」という難易度の高いプロセスを省くことができる。

ただし複雑な魔法はMP消費も大きく、チャージではすぐ底をついてしまうから、使用者のMPを糧にして魔法を発動する必要があるというわけだ。

つまり、アイテムに自分のMPを流し込める程度の魔法適性がなければ使うことができない。

仕入れたばかりの空の媒体に、納品すべき商品リストをチェックしながら、ひとつづつ魔法を書き込んでいく。

骨の折れる作業。
だが魔法使いにしかできない大事な仕事だ。

なのになぜこんなに低賃金……?

とても理不尽な気がするが、もはややるしかない。
魔法アイテムがないとみんなが生活に困る。

トントン、と小さくノックする音。
「おーう、そろそろ休憩すっかー」
とドアの向こうから雑っぽく声をかけるのは、道具屋の店長。

集中したいから、作業中は立ち入り禁止にさせてもらっている。
彼はふざけた人だが、そこはわきまえている大人だ。

彼は元トレジャーハンター。
ワイルドだが目利き、損得勘定に秀でた抜け目のない人物。

容赦なく人をこき使い、ガラも悪いが、決して鬼ではない。

その証拠にほら、お昼ご飯を出してくれた。
呼ばれるままに食卓に着く。

安っぽいファストフードだが、オレはこれが大好きだ。

喜んでがっついていると、彼は言った。
「ユウトさ、おめぇ彼女いねぇの?」

この人は常に直球しか投げない。

「見て分かるでしょ、オレは作らない主義なんすよ」
「へぇ、童貞か」

……ほんッと直球。泣きそう。

悔しいから反撃する。

「店長だって適齢期っスよね!そろそろ身を固めたりしないんすか」

この国では20歳前後が結婚適齢期と言われている。
この人はもう25だ。

「俺はさー。どうでもいいんだよ女なんて」
そういいつつ、たびたび連れている彼女が変わるのはなぜだ。

彼は余裕の表情でニヤリと笑う。
「俺が本当に愛しているのはレアアイテムだけよ。探し求めていた伝説のお宝に出会えた時は、正直、今の彼女より興奮したぜー」

うっとりと妄想の向こう側を見つめるその姿は、すがすがしいまでに変態丸出しだ。

でも……夢中になれるものがあるって幸せなことだと思う。

オレには……それがない。

4.5-3

頭痛が痛いので仮眠をとってから、午後の作業に取り掛かる。
これはいつものことだ。

オレはMP容量がそれほど大きくない。
原因は分かってる。

学生時代、退屈で地味な基礎トレが嫌で、ずっとサボっていたからだ。

そのことに気づいてからは寝る前の瞑想を習慣にした。
だがまだまだ足りない。

魔法を使い過ぎると頭痛と眠気に襲われるから厄介だ。

それでも真面目に集中し、残るタスクも数えるほどになった。

次は……なになに?……ああぁ……。

仕様書を見ると、面倒くさいタイプのやつだった。

ヒーリングロッド。
体の中をスキャンして悪い場所を特定し、さらに治癒魔法をかけるという短い杖。

……って、これ完全に医療アイテムじゃね?
良いのか?こんなん道具屋で売っても。

ひとまずこれは後回しにして、先に他のをやっつけることにしよう。

一般的なペンライト、ウォーターボトル、フローティングカート。

その辺の単機能アイテムは特に何のひねりもない。
淡々とやるのみ。

こないだ店長が言っていた。
「ユウトは仕事が丁寧だから好きだぜ。お前に頼むようになってからクレーム来なくなったわ」

だったらもっと賃金上げてくれ、と思わないでもないが、褒められるのは素直に嬉しい。

単純なものでも最後の1つまで丁寧に仕上げる。
それが職人(?)のこだわりだからな。

そんなことを考えながら、最後に残った厄介なアイテムに着手した。


ヒーリングロッド。
簡単に設計をメモってみる。

---------------

損傷箇所をスキャン(ディテクト)
 ↓
位置を相対座標で特定 (マーキング)
 ↓
優先度を判定?
(あ、ここ難しいな……)
 ↓
生命力を活性化 (リカバリ)
 ↓
細胞の記憶を参照して組織を復元 (リマインド&リペア、ヒール)

---------------

優先度は使う人にまかせた方が良いな。
判断基準が複雑すぎる。

仕様書にその旨を伝える一文を添える。
【治癒したい部位に向けて使用してください】と。

さらに追加する仕様をメモする。
・ 発見した損傷部位を光らせる効果を付加。
・ 治癒魔法の効果範囲をすこし狭めに設定。
・音声コマンドで「スキャンモード」と「リペアモード」を切り替え。

……よし、これならいけるだろ。
使用者の判断で、ピンポイントでの治療が可能な仕様だ。

だけどこんなん使えるのはかなりの魔法力容量のあるやつだけだ。
仕様書に書いとこう。
【推定消費MP20程度】

「さて、と」

目をつぶって、深呼吸。
すぅぅ――はぁぁ――。

深く深く、イメージの海に潜る。

青く透明な空間。
座標の目安となる縦横高さを表すグリッドが走っている。

無限に拡がるイメージ空間を自由に使って、魔法の構造イメージを創造し組み立てて、それらを繋げて回路を形成する。

魔法力が無理なく無駄なく、自然に流れていくように。

鮮明に精細に描き出したら、それを媒体に写す。

……。
……よし。
できた。間違いないはずだ。

ヒーリングロッド

……あ。
怪我人がいないからテストができない。

どうしようかな……。

その直後。急激な頭痛と眠気に襲われた。
「うぅ……いでで」

どんどん重くなるまぶたを必死で開けるが、もう時間の問題だ。
ダメだ、ちょっとやりすぎたかも……もう帰ろ。

店内で鼻歌を歌いながら、商品の陳列をしている店長に声をかけた。

「店長~、終わった~。あの治療用のロッド、テストだけできなかったんスけど、もう眠いんで勘弁してください~」

「おう、あのロッドよくできたな。まぁ、お前にはちょっと難しいかなって思ってたんだわ実は」

ちょ、そういうの先に言ってくれぃ……。

「テストはこっちでやっとく。ありがとな!お、なんだ、顔色悪いじゃねーか。クマすごいぞ?……そこにあるトマトジュース飲んどけ」

トマトジュースで頭痛が治るとか、聞いたことない。
でもくれるっていうなら、とりあえず飲も。

ゴクゴク……。

「はい、今日の報酬な」
現金の入った封筒を受け取る。
いつものように、中身をその場で確認する。

「おぉ?いつもよりちょっと多い!?」
「評判良いから、今回は多めにいれといた」

「あざ――す!!」
嬉しい!期待してなかっただけにマジ嬉しい!

「あ、それから……」
と、店長はレジカウンターの奥から何かを取り出した。

メダルのような形と大きさ。
飾り気のない、シンプルなデザイン。
シルバーの金属光沢。
ひもが通せるような小さな穴が開いている。

……何だこれ?アクセサリー?

謎の魔法アイテム

「これ、仕入れ先の商人からオマケでもらったんだけどよ。お宝の匂いはぷんぷんするのに、何だかわからねぇんだわ。たぶん魔法アイテムだろうから、お前にやるよ」

「え、お宝かも知れないのに、いいんすか?」

「だ~って俺、魔法使えないし。価値は高くても使い道わからんアイテムは萌えん」

手に取ると冷たい。金属の重量感。
普通にメダルを模した「ペンダントヘッド」に見えるけど……?

まあいいや。後で調べてみよう。
謎アイテムはちょっとワクワクする。

「ふぅん。そういうことなら遠慮なくいただきまぁす!」

てかもう眠い。帰らねば。
「じゃ、オレはこれで。オツっす~」
「おう、おつかれ!また頼むわ」

オレはそそくさと道具屋を後にして、夕焼けの中を宿へと急いだ。
店長と話している間も、実はすでに寝落ちそうだった。

眠い……!ひたすら眠い。
必死にまぶたをこじ開けて、脚を前へ踏み出す。

やっとのことで酒場の、つまり宿の玄関へ滑り込んだ。

すると、そこにはなんと。
後ろ姿だが、もちろん雰囲気でわかる。

今朝会った、あの少女が――!

眠気が吹っ飛び、一気にテンションが上がった。
よっしゃ!今日のオレはついてる!

勢いのまま声をかける。
「やぁ、こんばんは。また会えて嬉しいよー!」

こういうのは軽率に行った方がいい。

彼女が振り返る。

あぁ、やっぱりそうだ。この独特の愛らしさ……。

ニヤけそうになる口元を引き締めて、ダンディーに自己紹介する。

「朝、入り口であったよね。オレはユウト。君は?」

彼女は緊張しているのか、少し堅い笑顔。
「……ジュリア、です」

西洋系の名前だ~。素敵だな~。

「ジュリちゃん、これからよろしくね!」
握手をしようと手を出すが、彼女はちょっぴり怪訝そうに眉根を寄せるだけだった。

あれぇ……?

あ、そうだ。
帰ってきてまだ手を洗っていなかった。
あたた……こりゃいかん。

疲れてて頭が回っていないようだ。

そうこうしているうちに、彼女は客に呼ばれて行ってしまった。ガッカリだ。

酒場ではすでに何組かの客がにぎやかに飲んでいた。

ジュリアは慣れない手つきで料理を運んでいる。
もしかしたら、新しく入ったバイトの子かもしれないな。

……あ、ヤバい……。フラフラする。
テンションが落ち着いたとたん、急にまた睡魔に襲われた。

ぐぬぬぬ……オレの精神力め……!
もう少し粘れ~!

もう一度彼女のそばに行って、声をかけたかったが、厳しそうだ。
一瞬だけ彼女と目が合ったので、すかさず投げキッスを送った。

よし。想いは伝わったはずだ。

本来ならすぐにでも店の手伝いに出るべきだったが、ちょっと無理だ。

おかみさんに声をかける。
「おかみさん、ゴメン。
ちょっと寝てから出るね。もう限界」

「はいよ。お疲れさま~」

何の説明もできなかったが、いつものことだ。おかみさんはわかってくれたと思う。

最後の力を振り絞って2階へ上がり、手を洗ってから自室のベッドに倒れこむ。

そしてそのまま秒で眠りに落ちた――。

4.5-4

あれから2~3時間。
仮眠をとって顔を洗ったら、かなり気分がスッキリしていた。

さっきの場面を思い出す。
「ジュリちゃん……」
エプロン姿も可愛かった。

洗面所の鏡にニヤけた自分が写っているのに気づき、慌てて表情を引き締めた。

いかん、仕事仕事。
新人に初日から任せきりなんて、先輩としてカッコ悪いからな。

両手で頬をぺちん!と打って気合を入れる。

店のユニフォームである茶色いエプロンをつけ、1階へ降りて行った。

「おぉ、今日も盛り上がってんなー」

いつもの喧騒と熱気、おいしそうなにおい。
馴染みの顔が揃ってる。

頃合い的にはちょうどいい感じでみんな出来あがってるようだ。

そして階段の上から見ても目立つ、彼女のオレンジ色の髪。
引き締めたはずの顔も一瞬で緩む。

しかしよく見ると。
ん……?なんか、フリーズしてない……?

ホールの中ほどに立ち尽くしたまま、動かない。
誰かと話している様子でもない。

「……なんだ?」

ヤな予感がしたオレは小走りで階段を降り、声をかけようとした瞬間。
ジュリアの膝から力が抜け、ふわ、と身体が沈む。

「おわぁ!」

スライディングして、何とかキャッチ!
危なかった。完全に脱力している。

抱きとめた彼女を見ると、ちょっと苦しそうな表情。
血の気が引いた白い顔をしていた。

何があった……?

状態を素早く観察する。
呼吸は……ある。外傷はなさそう。

額に手を当てる……うん、特に熱もない。
魔法の形跡も、感じない。

疲労か?貧血か?
バイト初日で真面目にやりすぎたのかもしれない。

「ジュリちゃん……無理しすぎだろ」

酒場のホール業務は結構大変だ。
不真面目なこのオレでさえ、初めのうちはツラかった。

休ませてやらないと。

おかみさんが気付いて慌てて駆けつけた。
「ジュリア!あぁ……お医者さん呼ばないと!」

「おかみさん、落ち着いて。医者(自称)ならここにいるだろ、免許ないけど」

いつもはドンと構えているおかみさんも、さすがに気が動転しているみたいだ。

「たぶん疲れたんだと思う。一応どっかに寝かせて、他に異常がないか確認してみる」
「あぁ、そうね。私も一緒に行くわ」

マスターに声をかけて、ジュリアを大事に抱えて2階へ上がる。
こっそり重力魔法で荷重を軽減しているのは内緒だ。

おかみさんはマスターキーで空き部屋のカギを開ける。
オレの部屋とは通路を挟んだ、向かい側。

部屋の様子

……ん? なんか荷物置いてある?
おじゃまします。と声をかけて部屋に入るおかみさん。

「あれ?ここって空き部屋じゃ……」
しばらく誰も、泊り客はいなかったはずだ。

「彼女、ここに泊まることになってるのよ。今夜から」

ぬ、ぬおわ――!マジか!おお……。
嬉しいけど急すぎて心の準備が……!

「あ、そうなんすね」
ニヤける口元に力を入れ、必死で平静を装いながらジュリアをベッドに横たえる。

落ち着け……。

これから彼女を簡易的にでも「診察」するのだから。
集中しなければ。

深呼吸。
すぅぅ――はぁぁ――。

足の先から手をかざし、全身を診ていく。

気の流れというか、生体固有の波動を感知する。
何もなければ穏やかで規則的な波動。
何かある部位は、ざわついた感じがするはずだ。

頭に手をかざした時、炎症に似た反応をみつけた。
さらに詳しく見てみる。

……うん。これだな。

原因が特定できた。

他人に言うとアホだと思われるから言わないが、脳の中の人が「パニクって右往左往している感じ」というのか……。

「てんやわんやしている感じ」というのか。

とにかくそういう事態になっている。

……つまり、オレは説明が苦手だった。

だからあえて詳しく言わずに、簡単に報告する。

「やっぱ慣れない環境で疲れて目が回ったみたいっスね。回復魔法かけときます」
おかみさんはホッとした様子でうなづいた。

中の人をパワーアップ……いや体の回復力を高める魔法をかけた。
それに、悪い夢を封印してゆっくり眠れる魔法も。

明日にはきっと元気になるはず――。

4.5-5

オレとジュリちゃんとの出会いは、そんな感じだ。

そして。そしてそして。

回り道はあったけど。
色んな誤解もされたけど。

なんと今では!
じゃじゃーん!

オレの部屋にジュリちゃんが遊びに来るまでの仲に!!

彼女はというと……。
さっきから眉間にしわを寄せながら、机に向かって紙とペンで黙々と図形を描いている。

ううん……、と唸ってから描いたものを見せてくる。
「これで合ってる?アレ、なんか違うかな……?」

彼女が描くものは丁寧だけれど、まだ線や文字が安定しない。

イメージが弱いのかもしれない。

頭の中のイメージさえ鮮明に描くことができれば、あとは自動筆記のように紙に描き写すだけだ。

「あーここの線が、並行になってないな。この文字はもう少し真ん中に……ちゃんと頭にイメージしながら描いてな?」

実は昨日、ジュリアが「魔法教えて」なんて言い出したのだ。

頼られるのは嬉しいから二つ返事で引き受けたものの、彼女はほとんど魔法適性がないらしい。

どうしたものかと考えた。

媒体にあらかじめ魔法回路を書き込んで、MPをチャージしておくしかないなと思ったが、それだとただの魔法アイテムだ。

自分でやったことにはならないなぁ、と。

だから魔法力を補って、イメージの手助けとなる「護符」の描き方を教えた。

護符だけで発動できるのは簡単な魔法に限られる。
でもちゃんと描ければ、護符自体が周囲の空間に漂う微弱なMPを集めるので、使用者のMPは消費しない。

魔法回路も文字と図形を使って指定するので、あとは力を感じることさえできれば魔法を発動できるはずだ。

取り組んでいる課題は初歩の初歩、ファイアの魔法。
ライター程度だが火が出る。

魔法学校では幼年課程で習うやつだ。

まだまだ時間はかかりそうだが、きっとジュリアにもできる。

なぜなら彼女は決して諦めないからだ。
夢中になっている横顔は見てて飽きない。

今日は武術大会の合間の休日。

オレにとってはそりゃもう、楽しすぎるひとときだ。
願わくはこのまま、平和で穏やかな時を重ねていきたい。

そのためにだったら、オレは本気出そうと思う。


◆◆第4.5話 魔法の作り方 終わり

あとがき


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今回はサイドストーリーということで、ユウトの視点で書きました。
男心ってこんなかな、と想像するのは楽しいものですね。

一部、言葉遣いや文法の乱れがありますが、ユウトの思考言語をイメージしているので勘弁してくださいww

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