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『前日から食事をしないでくださいね』の意味って?

『前日の夜21時以降は食事をしないで来てください』

『朝は食事をしないで来てくださいね』

病院で検査の指示を受けて説明を受けたり、学校や職場の健康診断の時などに、こんなことを言われたことがあるのではないでしょうか?

病院で検査を担当していると、しっかりお願いを守って来てくださる方が多いなと感じつつ、誤解をされている方が一部いらっしゃるのも事実です。

この記事では、採血や検尿に関して「食事しないで来てくださいね」等、色々とお願いしている理由をお伝えしたいと思います。

なぜ「朝、食事をしないで」検体検査を受けるのか?

私たちは、日々様々な時間に食事をしたり、眠ったり、運動したりと、一人一人が違う条件で過ごしています。

検査結果を評価する上で重要なことの一つは「できる限り条件を同じにする」ということ。

過去記事である『基準範囲の真実  その2』(リンクはコチラ)に書いた通り、ヒトには「揺らぎ」と「ホメオスタシス」があり、検査の値は常にある程度の幅の中を動いています。

例えば、日常生活を普通に送る中で、のんびりと休んだり、活動していたりするわけですが、体温を一定時間ごとに測ると小数点第一位の部分が上下していることがわかります。

食事をすれば血糖値は急激に上がり、インスリンの働きで食後2時間後には食事前の血糖値付近まで下がっているといった、ダイナミックな動きを示します。

『基準範囲の真実 その3』(リンクはコチラ)の中で「ある集団の中の基準範囲」の話をしていますが、一人一人が違うサイクルで日々を過ごしているため、ただ好きなタイミングで採血や検尿などの検体を採取して測定しても、病気以外の検査値が動く要因が多く、検査値を正しく評価することが難しくなります。

そのため、あらかじめ一定の条件を決めて採血・採尿をする必要があるのです。

検査値が変動する要因は様々ありますが、一番影響があるのは「食事」です。もちろん激しい運動などで大幅に値が変わってしまう項目もありますが、激しい運動を日常的に行う方は多くないはず。

老若男女誰もが日常的に行うのが「食事」という生命を維持するために必要な活動ですので、この「食事」による検査値への影響を極力抑えるための条件を決めているのです。

個人差も含めて「食事」による様々な影響がなくなり、いわゆる「平常状態」「安定状態」となるのが、大体食後12時間です。血糖値は通常2時間以上経つとベースに戻りますが、下がりきらない方もいますし、項目の中には安定状態に戻るため10時間くらいかかるものもあります。

日中に食事を12時間以上あけて採血でも良いのですが・・・睡眠中はお食事をすることはありませんので、眠っている間に「安定状態」になっていますよね。

そのまま「朝、食事をしないで来てくださいね」という指示に従って検査を受けていただくことで、ご自身の安定した状態での検査値を出すことができます。

そして、万が一気になる検査値が出た場合、「食事」という一番大きな影響を取り除いた状態での検査値ですので、医師が検査値を評価し次に何をすべきか指示を出していくのもスムースになります。

外来では「食事」への条件を守っていただくようにお願いしていますが、診察や健診のスケジュールの関係で、午後の採血など様々な事例がありますから、採血の際に食事をした時間を尋ね、施設によってはカルテへ登録するところもあります。

入院中は原則「早朝空腹時採血」ということで、基本的には起床時間から回診・検温・食事配膳の間に臨床検査技師や医師・看護師が採血をしに病棟・病室を回っていきます。

一番良いのが、起きてすぐの横になった安静状態ですので、寝起きを襲いにいく感じで(笑)採血をしにいきます。

『食事をしないで』は飲食全て禁止ってこと?

さて、「食事しないで来てください」と指示を受けると、前日夜から飲まず食わずで検査を受けられる患者さんもいます。

しっかりと真面目に取り組んでくださって、とてもありがたいのですが、そこまでストイックにならなくても大丈夫です。

今は、消化管造影や内視鏡などの検査前説明で、「食事は前日夜の21時以降はとらないでください。水分は取っていただいて結構です。」といった説明をしている施設がほとんどだと思います。

これは採血や検尿の検査を受ける際も同じです。

先ほど「食事」の影響がとても大きい、というお話をしましたが、カロリーのない水分は取っていただいても影響はありません。

というか、逆に水分はこまめにとってください

私たちは睡眠中も汗や呼吸で水分が失われています(不感蒸泄:ふかんじょうせつ)。寝ている間は水分をとりませんので、体調の変化を感じなくても朝起きると軽い脱水を起こしているという方も多いです。

実は、脱水が強いと血液が濃縮してしまい、検査値にも影響が出てきます。

お水、お茶、コーヒー、紅茶など、カロリーのないものであれば、血液検査等に影響することはありません。

コーヒーや紅茶に砂糖やミルクを入れるのはNGですが、ブラックやストレートであれば大丈夫です。

ただし、カフェインが強いものは逆に脱水を促しますので(トイレが近くなりますでしょ?)、とりすぎに気をつけてください。

我々は検査値を見れば「脱水の影響もあるかな?」と予測はつくのですが、正しい検査値の判断のためにも、そしてご自身のお体に負担をかけないためにも、水分はしっかりとるようにしましょう。


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