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集合知とコミュニティの力がたすけてくれたこと

Winter Intensiveは“徹底的に”プロセスワーク心理学を学ぶ場である。「ダイバーシティグループの変容をコンフリクトを使って促す」体験的な学びも重要なテーマでありつつ、理論の習熟と実践の習練、Art and Scienceの両面のバランスを強く意識している。学びのデザインが見事だった。グループでの学習プロセスは、その時、その場所に集まったメンバーによる化学反応が全てであり、偶発性が高いことや心理的に負荷がかかりすぎる危険にも、丁寧な配慮がなされていた。

Intense! ぎゅっとつまった学びの時間割

期間中、ウィークデーは金曜を除いて毎日朝9時半から17時半まで講義があり、週ごとに学ぶテーマが異なる。

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1週目はFundamentals(基礎)、2週目はBodywork/Symptoms(身体と身体症状)、3週目はRelationship Work(関係性)、4週目はMovement and Altrered States(動作と変性意識状態)、5週目はIntegration(統合)だ。

上述の講義の合間には、32名のグループを3つにわけた小グループでのミーティング1時間半を9回、アートクラスのInnerwork and Creativitiy(内省と創造)が3回、経験と理論を結びつけるPW Lab.(プロセスワークラボ)が3回。その他、創始者夫妻の特別講義やコミュニティパーティーもある。時間割表には書いていないが、週末や夜間には希望者と一般参加も受け入れる特別クラスが開催されていて、ランチタイムには、企業や紛争地域など社会に実践の場を持つ講師のプロジェクト紹介をする、ブラウンバッグミーティングも行われていた。

盛りだくさんだが、どこまで頑張るかは自分で調整できる。ランチに2時間の休みがあるのは気分転換になりありがたかった。

多様なファシリテーションスタイルを体験できる設計

講義はコンテンツ別に講師がペアで担当する。この講師陣がまたダイバーシティだった。出身国のバラエティが豊かで、おそらく半数以上がノンネイティブ。もとはグラッフィックデザイナーやダンサーだという人もいて、元々の職業も多様なら、理知的なタイプから感覚的だったり繊細な人がいたりと性格もバラバラ。そして、ゲイを公表している人が多かったのが(参加者にも)、コミュニティのオープンさを体現している。

各々の個性がくっきりとしている講師陣の様子は、タエがプロセスワークを「個人の内側にある資質をファシリテーションに活かせる」メソッドだと話していたことと付合する。

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グループ対話をファシリテーションする講師は、頻繁に参加者からファシリテーターアタックに遭う。これは、対立する意見それぞれの声を等分に聞かずに偏重して聞いていたり、対立項以外に漏れ出した小さな声やシグナルに気がつかなかったりすることが原因だとされる。

しかし、完璧な人間がいないようにファシリテーターにも完璧な人間はいない。講師のイングリッドも「人には偏りがあるし、どうしても感じたり見たりしづらいブランクを持っているものなの」と認めていた。だからこそ、自分自身の強みと弱み、言動に自覚的になることが、ファシリテーターのトレーニングでは重視される。つまりは、トレーニングを積んだ人ほど、「ファシリテーターらしく」なるのではなく「個性化が進む」のである。

判断のスピードが早すぎて魔法を使っているみたいに見えてしまうマジカルでちょっと好戦的なゲリーや、気遣いが細やかでとても繊細なアレックス。いつも元気でカラフルなスーザンと知的でお茶目なベックのペア、優しくて穏やかなヘレーンとソフィア。5週間で多様なファシリテーションのスタイル(関わる講師は総勢20名を超えるのでは)を体験できた。

ファシリテーターとしてのスタイルに自分との共通項があったという意味で、強く印象に残ったのは私と同じ名前のアヤさん。日本人独特の几帳面さとしなやかな優しさが彼女のスタイルで、アヤさんのファシリテーションを見たことで、自分の内にあるものの活かし方をイメージできた。

クラスに並走するチューターの存在

講義の補佐役であるチューターは、ユダヤ系アメリカ人で普段はニューヨークで暮らしているイリーナが勤めた。チューターの役割は、諸事とトラブルの相談を受けること。クラスでなにか困ったことがあって講師に相談しづらい時や、誰かとぶつかって言い合いになった時などが出番だ。イリーナは全ての講義に同席して、金曜の朝には希望者のためにチュートリアルを開催してくれた。

スキルフルな彼女は、いつも落ち着いた様子で話を聞いてくれ、その時々で何が起きているか、心理のプロフェッショナルとして構造を解説してくれる。感情が揺らいでいる時でも、状況や状態の理解ができれば、それだけで不思議と心が穏やかになるものだ。保健室の先生のような存在として、イリーナの支えは心強かった。

個人カウンセリングの時間

義務としてはひとり1度、希望すれば割引料金で、期間中は何度でも3名の専任カウンセラーに個人カウンセリングを受けられる。内容は「心の癒し」よりも「コーチング」に近い。ダイバーシティグループで自分の持つ資質をどのように活かせるのか、深層心理から紐解いてくれた。

お願いしていたミッシェルは話しやすく、カウンセリング以外でも、お茶やおしゃべりに付き合ってくれて、期間を通じて良き相談役になってくれた。人によってはグループ対話で言葉にできない違和感や苦しさを抱える場合もあるので、講義を受け持たないカウンセラーの存在は、必要な救済処置でもある。

コミュニティのバックアップ

期間中には数回コミニティイベントが企画されていた。こうしたイベントには、直接今回のWinter Intensiveとは関わっていないコミュニティのメンバーも顔を出してくれた。「今年はどんな人が集まったんだろうか」と、様子を見に来てくれるわけだが、先輩として折々にアドバイスをくれる貴重な存在でもあった。

特にアヤさんは、POCグループでの対話をボランティアで助けてくれたり、後半に向かうほど深く激しくなっていった私たちの学びの経過を心配して、何度も食事に誘ってくれ、最後は自宅にまで招いてくれた。慣れない英語とグループ対話でのストレスで、気持ちがぐちゃぐちゃになっていた頃に、母国語で話を聞いてもらえる時間は、本当にありがたかった。

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こうしたコミュニティのあり方は、試練にさらされる学びの場に飛び込んだ、ヒヨコみたいな私たちを、幾重もの網を張り巡らせて守ろうとする、真摯な思いに満ちていた。

参加者から学ぶ姿勢

学びの設計には期間中に2度、講義の主催者へのフィードバック時間が設けられている。このオフィシャルな時間以外にも、講師陣は参加者の様子を注意深く見守っていて、常に聞く姿勢で接してくれていた。こうして得られたフィードバックは、毎年のカリキュラム設計やコミニティビルディングに丁寧に反映しているされていることが伺い知れた。

例えば、ノンネイティブに対する配慮から、講師陣は「ゆっくり話すから、わからなかったら言ってね」と、口を揃えて表明する(とはいえ、夢中になってくると皆、早口になる 笑)。そしておそらく毎年のようにセクシャル・マイノリティが参加する中で、英語独特の人称代名詞の男女二元論についても早い段階で手が打たれて、どんな人称代名詞で呼ばれたいのか、自己申告できる時間が作られていた。これらの細やかな配慮は、経験の積み重ねと講師陣の参加者から学ぶ姿勢により培われてきたものだ。

多様なニーズの参加者たちが有機的につくる学び

どんなに丁寧な設計がなされていたとしても、最終的に学びの豊かさをつくれるのは、参加者それぞれの貢献と関係性である。

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一個人の中にもダイバーシティがあると指摘するプロセスワーク心理学の理論を前置きしつつ、参加者のニーズはいくつかの傾向に分けられる。

ファシリテーションやカウンセリングをはじめ、ビジネスやラーニングコミュニティなど、自分の所属する場で学びを生かそうというニーズが主流で、次に自国にプロセスワーク心理学の学びの場をつくりたいニーズ、そしてファシリテーターやカウンセラーになるための学びという順だろうか。生きづらさを抱える自分自身を見つめるために参加している人もいれば、人生の転機における自分探しや、新たな出会いを求めている人もいる。

すでにひと通りの理論や実践を学び済み、他の心理学は学んだがプロセスワークは初めて、心理学の学び自体全く初めてという人まで、学習レベルにはかなり差があった。

ついでに添えておくと、参加者の年齢は24才から60代後半までと幅広い。既になんらかのキャリアや経験豊かな大人が集まる。

参加者の学びのスタイルにおけるニーズは大別して2つあり、理論的学び重視派と経験的学び重視派である。期間中、この派閥は常に静かな対立関係にあり、どちらかといえば経験重視派の意向が優先された形に落ち着いていたが、この種の対立は毎年の定番でもあるようだ。

それぞれにそれぞれのニーズと志向がありながら、初日には知らぬ者同士だった私たちは、講義で教わる概念や理論を手がかりに、グループの関係性を育てていった。クラスで学んだことは即、共有財産・言語化する。教室以外でも、得たばかりの共通言語を足がかりに、休み時間や夜の自由な時間に意見を交換しあうことで学びが深まっていった。互いの事情や文化、感性やスタイルを知れば、思いやりあえる態度が芽生えてくる。そしてグループは、最終日が近くなるほど、何かあれば自然と互いに互いの状態をケアしあうようになっていた。

ダイバーシティグループで信頼と安心の器を育てるために、共通の知識が手がかりになったのは間違いない。アートや非言語的なコミニケーションが余白を与えてくれた一方で、理論や幾重にも気遣いがある学びの設計は、前にすすむためのしっかりとした足がかりになった実感がある。

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