ギャラリスト修行での失敗談
最初に務めたギャラリーBunkamura Galleryには、スタッフが10名ほどおり、毎回誰かとペアになり、ひとつの展覧会を担当させてもらいました。
ギャラリスト修行の日々
作家との打ち合わせから広報物(DM)の発注・発送、プレスリリースの準備、設営・撤去の段取り、そして会期終了後の購入者とのやり取りから納品まで。
担当二人で相談しながら進めていくわけです。
準備から会期終了まではおよそ3ヶ月。担当の展覧会が終了すると、また次の展覧会の準備がスタートするという塩梅でした。
おかげで、展覧会にまつわる業務の一連の流れを繰り返し経験させてもらえ、今思えばとてもよい修行であったわけです。
作品や作家に詳しくなくとも、展覧会企画に関わるギャラリーの方が設営後にレクチャーをしてくれたり、美大出身でアーティストでもある先輩が、美術史の知識を披露してくれ、ぐんぐん吸収することができました。
2週間おきにやってくる展示設営の作業も、楽しかったことを覚えています。作品を展示する方法やライティングのコツなど、繰り返し実践しながら覚えることができました。
特にこの頃は、納品前の作品梱包の仕上がりの美しさにこだわっていて、作業前にはさみを綺麗に拭き上げて、梱包材の切り口がガタガタにならないように事前準備をするなど、工夫を凝らしていました。おかげで、のちに務めた銀座の画廊でも絶賛される腕前になりました。
いまでも、納品前の梱包作業は楽しいひとときです。
外商カードの意味がわからない
そんな修行の場、Bunkamura Galleryで新米ギャラリストの私がしでかした最大の失敗は、「外商」の意味がわからなかったことでした。
ある日、藤田嗣治の版画の前で、上品なお婆さんが佇んでいることに気がつきました。
「お手伝いしましょうか?」
と声をかけると、そのお婆さんは、
「わたくし、外商のカードを持っておりまして」
というのです。
恥ずかしながら、中流階級出身で、社会人なりたてほやほやだった私は、上顧客に特別な接遇をする「百貨店外商」なるものの存在を知りませんでした。
そのお婆さんは、自分は東急百貨店本店の外商顧客なのであるといいたくて、「外商カードを持っている」と言ったのでしょう。
けれど、私はよくわからずに、
「こちらで使用できるカードはビザとマスターと…」
などど、使用可能なクレジットカードを案内したのでした。
もちろん話はかみ合いません。
「外商カードが。。。」というお婆さんと、「こちらで使用可能なカードは」と説明する私は、同じやりとりを三往復ほどして、何かが通じないと悟ったのか、お婆さんは帰っていきました。
そして、外商担当にチクったのでしょう。後日、外商担当者から怒りの連絡があり、私は事情聴取をされて、使用可能なクレジットカードの案内をしたことは間違いではないが、そもそも外商を知らないとは何事だと、たっぷりと説教をされました。
結局、その藤田の版画は、外商担当者がギャラリーまで取りにきて、お婆さんの自宅まで運んで行きました。受け渡した作品を車のトランクに積み込み、トランクの扉を力任せにバタンと閉める外商担当から、「チッ」という舌打ちが聞こえてきたのは、聞き間違えではなかったことでしょう。
今ならことの次第と自分の無知さを理解できますが、そのころはひたすらに身を縮めて叱責と舌打ちに耐えていました(笑)
いやでも、外商のことなど、学校でも新人研修でも教えてもらっていないよ? とは、当時の私の心の声。まあ、若い頃というのは、無知が不運を呼ぶものです。
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