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フードエッセイ | 理想のかにたま

今晩は焼き魚にしようと決めていた
帰り道にあそこの魚屋さんに寄って
鯖の西京漬があればそれを買って・・・
なんてぼんやり考えながら電車に揺られ
最寄駅につくころ、ふと
かにたま・・・
かにたまが食べたい・・・
頭の中で沸き起こる突然のかにたまコール
こうなってしまうともう完全に
私の頭と舌は融通が効かなくなってしまう
魚屋さんへ向かう足を止め
夜の献立をかにたまに変更

頭の中にぼんやり浮かんで
舌の上にそっと想像しているそのかにたまには
どうしても春菊が必要だった
見た目は悪くとも具がたっぷりのものがよかった
卵は形をなしていないとろとろのものがよかった

せっかくお家でつくるのだから
お店のかにたまじゃなくていい
レシピ通りのかにたまじゃなくていい
自分が食べたい
自分の理想のかにたまをつくればいい

スーパーで買い物を済まし
そそくさと家路につく

たっぷりのにんにくに、生姜、玉ねぎ、椎茸、春菊、カニカマをさっと炒め
コシがなくならないように軽くかき混ぜた卵に具材を加えて軽く合わせる
フライパンにたっぷりの胡麻油を熱して
卵液をじゃっと流し込む
おたまでさっくり、ふわっと大きく混ぜて仕上げ
お皿によそったら
最後に甘酸っぱい餡掛けをとろ〜り

いただきますをするや否や
早くその味に辿り着きたくて
慌てて頬張る
どこにも消えていきやしないのに

仰天な美味しさだった
今すぐみんなに振る舞いたいと思った

とにかく不思議だった
なんせこれまでの人生でかにたまが好きだと思ったことは一度もなく
中華料理屋でかにたまを頼む人の気が知れず
自ら積極的にかにたまを頼んだことなど当然一度もない

なのに今日という日は
かにたまじゃないとだめだった
しかも春菊のはいったかにたまじゃないと
だめだった

そして辿り着いたそれがすごく美味しかった
ほわほわした卵に抱かれているような優しい気持ちになった
焼き魚にするつもりだった朝には
とうてい想像しなかった展開をとても幸せに受け入れている
とにかく不思議だった

歳をとると
それまで好きでなかったものを突然好きになることがあったりして
好きなものはだいたいきっと好きなままで

人生を終えるころには
この地球上の愛のこもった食べものすべてを
一つ一つ心から愛していたらいいな
たぶんそうなるのだろう

ああ、なんて素晴らしい人生
にやにやとかにたまを頬張る

かにたまひとつで人生の終わりまで妄想を繰り広げる自分もなかなかである

みんなの理想のかにたまはどんなものだろう?
私のかにたま探訪がはじまる予感

ご覧いただきありがとうございました
今日も、美味しい人生を

菅原 彩

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