夏、窓、汗、リボン

暑い。暑すぎる。気休め程度に窓から吹いてくる風も、生ぬるい。
7月14日、15時40分。窓際の席で日誌を書く。

「ねぇ、まだ終わんないの〜?」

彼女は言う。

「君が手伝ってくれないと終わんないよ」

僕が答える。
ちぇ、つまんないの〜、早く終わらせてね、といいながら、前の机を僕の机にくっつけて席につく。
目の前にいる君。汗が滲む、君の前髪の端。

高校一年生の夏、君に恋をした。
二年間、揺らぐことは無かった。
出席番号順で回ってくる日直で、君と仕事が出来るのはあと何回だろうか。

「そういえば明日、誕生日じゃんね、あんた」

明日、7月15日。僕の誕生日。
覚えてくれていたのか、と驚く。
そのすぐ後に、もう3回目だからそりゃそうか、と納得する。

「日曜、暇?お祝いで水族館でも行こうよ」

今、なんて言った?水族館、お祝い?
いいよ、なんて素っ気ない返事をする。
頭が追いつかない。
君はスマートフォンで好みの水族館を探している。
胸元で揺れる細くて赤いリボンから、目が離せない。
二年間、恋をしていた君から、デートの誘い。
いや、デートなんて考えすぎだろうか。

「あ、ちょっと、どこ見てんの」

ぐっ、と距離を詰められる。
彼女の顔まで、あと7cm。

暑い。暑すぎる。気休め程度に窓から吹いてくる風も生ぬるい。
7月14日、15時54分。窓際の席で君にキスをされる。
僕と君の間で、胸元の細くては赤いリボンが風になびく。

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