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【障害者雇用】オープン就労のほうがクローズ就労より全然辛くてさっさと辞めた話

半年ほど特例子会社でオープン就労(障害があることを職場に公開して働くこと)をしていたが、辛すぎてさっさと退職してしまった。はっきり言ってクローズ就労(障害があることを職場に伝えずに働くこと)をしていた時のほうが全然楽だった。障害者はオープン就労で働いたほうが合理的配慮を得られて働きやすい、とさもまことしやかに言われているが、そうとは限らない。オープン就労に期待しすぎて後悔する人が出ないように、私の経験を投稿しようと思う。


私の障害について

私は双極性障害2型(うつ状態と軽い躁状態を繰り返す病気)の診断を受け、障害者手帳を取得している。また、これはつい先日診断が下ったばかりだが、ASD(昔はアスペルガー症候群と呼ばれていた)という発達障害を持っている。
なぜ発達障害の診断を受けたかといえば、特例子会社(以下、A社)で勤務しているうちに感覚過敏がどんどん悪化していき、検査を受ける必要があると思われたからである。
結局、先述の通りA社を退職してしまったので、今回の検査にどれだけ意味があったのか少し疑問ではあるが…。現在はクローズ就労で一般企業に転職済みである。

オープン就労に至った経緯

私は仕事が長続きせずに悩んでいた。
新卒で入社した職場は労働条件、人間関係ともに環境が悪く、入社2か月でうつ症状を発症して退職。その後しばらく体調が安定せず就労できない状態に。療養とともに資格取得の勉強を進め、行政書士その他の資格を取得した。
念願かなって資格を生かせる職場に就職することはできたものの、最終的には上司のパワハラが原因で退職することになってしまった。この上司には障害のことを伝えていたがあまり理解されず、「思ったより普通に見える」という理由で過大な仕事を任されるようになり、大変な思いをした。

これに懲りてもう少しのんびりした社風のところにクローズ就労で転職。周りの人は暖かく、のびのびと楽しんで仕事をすることができた。ところが運悪く会社の業績不振が発覚。5年後、10年後を見据えたときにこの会社がどうなっているのかわからない。そしてその時私は、年齢の面で転職活動がもっと不利になっているのが明らかである。

今後も安定して働くためにはどうしたらいいのかを考えたとき、思い浮かんだのが「オープン就労で障害者雇用を行っている企業に転職すること」だった。障害者の働き方についてインターネットや書籍で調べると、「障害をオープンにしたほうが安定して働ける」「合理的配慮を受けて働けるから、オープン就労にしたほうがいい」という意見が多数派だった。
そのため、私も安定して働くにはオープン就労を【しなければならない】と思うようになっていった。

特例子会社・A社での仕事

私が入社した特例子会社・A社は事務のアウトソーシングを行っている企業だった。社員の7割が障害者で、その大半が精神障害者である。A社の母体は誰もが名前を聞いたことのある大企業で、グループ企業から様々な事務系業務を請け負っていた。
私はこのA社で、データ入力事務の業務を担当することになった。幸い、私は事務経験が長かったため、すぐに仕事を覚えることができた。同期の中で一番早く研修をクリアし、すぐに実務を担当。データ入力のミス率はほぼ0%を達成し、業務の正確さを高く評価【されていたように思っ】た。

このように、仕事は一見順調に進んでいたため、この後辛い思いをすることは全く予想できなかった。

独特の人間関係の距離感に翻弄される

同じ障害者同士ならお互いのことが分かり合える。なんとなくそう思っている人は多いかもしれない。また、障害者同士のほうがお互いに共感できて、人間関係を構築しやすいのではないか、と考えている人も多いと思う。私もその一人だった。
実際は違う。障害特性上、人間関係の構築に困難を抱えている人がたくさんいるのだ。そして私はそういった人との独特の人間関係の距離感に翻弄されて、強いストレスを受けてしまった。

例えば入社初日、とある同期の社員(B子さん)から「よかったらお昼を一緒に食べませんか?」と誘われた。その日から毎日、お昼休みはべったりとB子さんとランチをとる日々が続いた。会社にいる時間のうち、1人で休める時間がほとんどなくなってしまい、私は疲弊していった。
しかもB子さんがランチ中に話す内容ははっきり言って楽しいものではなく、親族関係のかなりディープな悩み事などを話されることも多々あり、(これは入社数日しか経ってない同期入社の相手にする話題だろうか…?)と困惑してしまった。

B子さんはいわゆる「空気が読めない人」だったのだろう。だんだんとB子さんだけではなく、ランチをとる休憩スペース自体にも苦手意識ができてしまい、私は理由をつけてお昼休みは外出するようになった。
意識的に距離を置いたおかげで少しは楽になるかなと思ったが、今度は業務中にもB子さんから悪い影響を受けるようになってゆく。

感覚過敏が突然、一気に悪化

業務中にもB子さんの雑談が響いてくるようになり、私は日に日に疲れを感じた。初めはB子さんの席は私の近くだったが、業務中の雑談があまりに多く、集中できないため上司に相談して席を変えてもらった。
それでもB子さんの雑談は耳に響いてくる。B子さんは相変わらず、親族間のトラブルなどの業務に関係無い話を業務中に続けているほか、他の同期社員に誤った知識で仕事のアドバイスをしていた。それがどうしても気になって業務に集中することができない。
さらに困ったことに、彼女に注意する人は誰もいなかった。周りはいわゆる「過集中」な人が多かったのである。自分がいま行っている作業以外は何も目に入らず、周りで無駄話をしている人がいても気づいていない。

B子さんの雑談をきっかけに、私は次第にそのほかの物音や刺激にも過敏になっていくようになった。
人の話し声だけではなく、蛍光灯やPCの明かりがまぶしすぎると感じるようになり、ディスプレイの明るさをほぼ真っ暗にして作業していた。また、常にオフィスの中が暑いと感じるようになり、苦しくて思わずマスクを外すと、煙草を吸ってきたらしい社員のにおいに気持ち悪くなることもあった。

今まで生活してきて、こんなにひどい感覚過敏に襲われたことはなかったのに、B子さんの雑談から何かがおかしくなってしまったように感じた。

合理的配慮の正体

私は定期面談の場で、感覚過敏があること、そして周囲の雑談が気になって業務に集中できないことを上司にたびたび訴えた。その際に必ず返ってきた言葉は「何か配慮できることはありますか?」というものだ。
要するに雑談をする社員の存在ではなく、雑談に刺激を受けてしまう私の感覚過敏のほうを問題視しているのである。私に配慮する前に一言「業務中は私語をやめて静かにしなさい」とB子さんに注意するほうが先だと思うが、そうではなく私が雑談から刺激を受けないように自己対処する努力が求められた。

私が発達障害の検査を受けた理由はこういういきさつである。上司達は、検査を受けて私の発達特性がわかれば、何に対して合理的配慮を行えばいいかはっきりするだろう、という考え方をしていたのである。なぜそこまでして「B子さんに雑談を控えるように注意する」という選択肢を敬遠していたのか。今思えば上司が何を考えていたのかさっぱりわからない。

上司との話し合いの結果、私は「業務中に耳栓の使用を許可する」というありがたい合理的配慮をいただいた。いや、先にB子さんに注意してくれよ、と何度も思ったが、上司もまた「空気が読めない人」だったのかもしれない。

できない人のミスの修正に追われる毎日

入社から数ヶ月して、私の業務内容が少し変わった。私のチームには受け取ったデータをシステムに入力する一次作業担当者と、その内容をダブルチェックする二次作業担当者がいる。私は一次作業担当を離れ、二次作業担当者に任命された。一応、私の業務スキルが評価され、ちょっとした出世をすることになったのである。ところがこれが更なる苦痛の始まりだった。

一次作業担当者が作業し終えたデータを見て驚いた。あり得ないほどぐちゃぐちゃなのだ。どのようにマニュアルを解釈したらこういう入力になるのだ?と首を傾げざるを得ないものばかりで、中には無駄な改行や空白がそのままになっていたり、文字化けの修正がなされていないものも多数だった。ミスが起きないようにチェックシートを配布していたが、それもやたらめったら適当にチェックを入れているのが明らかだった。

普通なら一次作業担当者にデータを差し戻して入力し直してもらうものだと思う。だがそれは「一次作業担当者の障害特性に配慮して」行われなかった。修正指示を出すと障害特性ゆえに混乱してしまうから、というのが理由だった。代わりに二次作業担当者がぐちゃぐちゃのデータを修正しなければならない。こんな風に一度壊されたデータを直さなくてはいけないくらいなら、最初から全部自分でやるのにと何度も思った。

ミスが発生したときは一次作業担当者にミスの指摘とフィードバックを行うが、その際も「前は【多分】この方法で合っていた【気がする】ので、ミスでは無いと思う。どこがミスなのか教えて欲しい」と理不尽な反論をされるので、ミスの指摘をするのも嫌になっていった。実際に、他の二次作業担当者はそれを恐れてこっそりミスを指摘せずに修正する「ミス隠し」を行っているようだった。

なぜこんなことが起きるのかといえば、やはり採用基準が「勤怠の安定」が第一になっているからだと思う。障害者雇用では持っている資格やスキル、学歴よりも、勤怠が安定しているかどうかが一番に重視されるのだ。その結果、業務内容に見合わないスキルの人材が採用されてしまうのである。
実際に一次作業担当者の中には、パソコンの基本スキルすら怪しい社員が何人もいた。私はこういう社員たちの尻拭いに追われてますます疲れを溜めるようになった。

同僚の過集中と待ちぼうけ

先程少し書いたように、障害者雇用ということで周囲には「過集中」を起こしてしまう社員が多かった。そのせいで私の業務がたびたびストップすることがあった。

例えば業務に関する質問などはチーム内チャットで行い、口頭での質問は原則禁止、返信が返ってくるまで作業はしないというルールがあったのだが、この返信がいつまでたっても返って来ないのだ。
周囲の様子をうかがってみると、皆自分の作業に集中しすぎており、周りの様子が全く見えていないようだった。「空気が読めない」特性の人も多いので、私が困っている様子もまるで伝わっていなかっただろう。

長いときは20分ほど返信が返ってこないこともあった。20分もただ座って待っているだけで、しかもいつ返信が来るのかわからないので休憩にも行けないのは、かなり辛かった。こういうことが続くと「もしかして周りはわざと自分のことを無視しているのではないか」と疑心暗鬼になってしまう。とても辛い待ち時間だった。

異常に厳しい勤怠管理

A社へは片道1時間半かけて通勤していた。長い通勤時間に加えてフルタイム勤務をするのに不安があったため、合理的配慮として時短勤務が認められていた。ただ、それだとアルバイトと変わらない給与になってしまうため、私は勤務時間の延長を上司に申し出た。
すると上司は「勤怠が安定していないから勤務時間の延長は認めない」と私に伝えた。安定していない、というのは何も無断欠勤をしたわけではない。発熱のため勤務日当日に有給休暇を取得したことがあり、それをもって勤怠が不安定と判断したというのだ。

この上司の判断には納得できなかった。熱を出しても仕事に来いというのか、それとも絶対に熱を出さないように体調管理をしろというのか…どちらにしても無理難題という他ない。もうここで働くのはだめかもしれないと思い始めたが、上司は「勤怠以外の業務スキル面の評価は別枠で行っているので、給与はちゃんと上がっていく。安心して欲しい」と言うので、ひとまずは様子を見ることにした。

A社では有給休暇は1週間前に申告しなければならなかった。それだけならよくあるルールかもしれないが、出勤簿の「ウラ帳簿」的なものが存在していた。当日に体調不良などで有給休暇を取得すると、ウラ帳簿上の出勤率からマイナスされるのだ。本来、法律上は有給休暇を取得した日を欠勤扱いするのは許されていないが、このウラ帳簿上では当日有給を欠勤扱いとしていた。そして出勤率が100%にならない場合は、先程の勤務時間延長の件のように、労働条件で様々な不利益をうけることになるのだ。

昇給、月額750円 〜期待を込めて★3です〜

あれこれ苦しい中働き、契約更新の時期が来た。
苦しいながらもやれることはやったし、業務のミス率もほぼ0%をキープしている。二次作業担当者の仕事もすぐに覚えられたし、きっと査定では高い評価を受けられるだろうと思っていた。

査定の結果に私は目を疑った。
昇給は月額1000円。そこからさらに時短勤務分が引かれて、750円だった。
ざっくり計算すると……時給換算で約6円の昇給。アルバイトでも10円とか、50円くらいは時給が上がっていくものなのに、これはあまりにも酷い。

契約更新面談の席では、上司がニッコニコ顔で座っていた。査定について「本当によくやってくれていて、仕事でもかなり高い成果を出してくれている。だけど、【もっと伸びしろがあると思うので】、敢えてこの評価にしました!」と上司はニッコニコ顔で説明した。冗談じゃない。そんな「期待を込めて★3です」みたいなノリで人の給与を決めるな!

上司はさらに、今後は一次作業と二次作業の両方をバランス良く行ってほしいこと、更には指導者として新人の指導に当たってほしいこと、そしてマニュアル整備などの業務に当たってほしいことなど、まるで夢みたいな業務計画を私に提案してきた。私は上司の話を止め、そんなにたくさんの業務はできないし、そもそも二次作業の仕事からも外れたいと伝えた。

一次作業担当者にミスの指摘をすれば的はずれな反論をされるし、結局尻拭いのような形でこちらが代わりに直してあげなくてはいけない。「障害特性に配慮」という理由で、ミスを繰り返す一次作業担当者に厳しく注意もできない。通勤時間の長さも周囲の無駄話もストレスで、かなり疲れが溜まっている。それでも業務で結果を出せば査定でいい結果が出ると期待して努力して来たが、こんな生活できないレベルの給与を提示されて落胆している。過大な業務に対して給与があまりに見合わないし、勤務時間を増やして給与を上げようと思っても、その条件となる勤怠管理が厳しすぎて無理に思える。それだったら自宅の近場で障害者雇用に拘らず仕事を探した方が楽だし、クローズ就労のときはこんなに感覚過敏に悩まされることは無かった。しばらく休んで考えをまとめたいが、退職を検討している。
……こういうことを怒りを込めた声で伝えた。

私は有給休暇を目一杯使って退職日まで休み、無職(バカンス)気分を満喫しながら転職活動を開始。2週間ほどで新しい職場が決まった。元上司たちからは割と引き止められたが心が動くことは無く、健康保険の切り替え手続きが面倒だなあ、と思いながら退職届を書いた。

【終わりに】合理的配慮<<<<福利厚生

上記の理由で私はオープン就労の特例子会社を退職した。オープン就労を経験して思ったことは「合理的配慮をされてもそんなに働きやすくなるか?」ということだ。
どちらかというと「こっちはできる範囲で合理的配慮をするから、そっちが折れなさい」という交渉の材料にされているようにしか思えなかったのだ。私の場合はB子さんの業務中の私語がきっかけで聴覚過敏が酷くなったが、それに対して職場は「耳栓の使用許可」という合理的配慮を行った。つまり、耳栓を使っていいから我慢しなさい、と暗に伝えているのである。最近判明したばかりとはいえ発達障害当事者からすると「耳栓は万能じゃねーぞ!」と言いたい。私の場合は触覚過敏もあるので耳栓の感触が気持ち悪くてすぐ外さざるを得なくなる。ちなみに私は触覚過敏があるのでスマホの画面を指で触ることができず、使用スマホはずっとスタイラス付きのGALAXY Noteだ。

繰り返しになるが、なぜ社会人としてのビジネスマナーを守れていない人たちに注意を行わず、マナー違反に対してダメージを受けている他の障害者(=私)に我慢を強いる形で解決しようと思ったのか、未だに何度考えてもわからない。「障害特性に配慮して」かれらに注意を行わなかったのだろうか。わからない。

今のところ、クローズ就労で入社した職場は安心できそうなところである。不思議なことに業務中に職場の先輩たちから雑談を振られても全く不快に思わなくなった。先輩たちは「空気が読める」から、雑談をしてもいいタイミングを的確に理解しているのだろう。聴覚過敏もあまり気にならなくなった。新しい職場はしょっちゅう車の出入りがあって騒音がするが、それで気分が悪くなることはない。ああうるさいなーと思うだけだ。

何より嬉しいのは福利厚生が充実していることだ。安心して一人で休める休憩室、様々な休暇制度、割安で買い物ができる購買に食堂……皆、私達が「合理的配慮」として健常者に頭を下げてももらえなかったものが、クローズ就労では普通にある。
それは大企業だけだろう、との反論もあるだろうが、私が勤めていた特例子会社だって母体は大企業である。でも大企業にあるような福利厚生は何もなかった。せいぜい耳栓を使わせてくれる程度のことしかなかった。

仕事を長続きさせるのが苦手な私だから、新しい職場もどうなるかわからない。でも、食堂が安くておいしいし、終業時間も早くプライベートをゆったり過ごすことが出来るようになったので、なるべくこの環境を維持していきたいと思う。

2024/06/13追記

たくさんの反応をいただき、共感してくださる方がこれだけ多いのかととてもうれしく思う。閲覧及び共感を下さった方に感謝を申し上げたい。
今回の退職については私一人の意思で決めたことではない。最終的には主治医からの「その環境はキツすぎる」という言葉が決定打となった。
「ミスの基準があいまいなのにダブルチェックを任されて、しかも反論が来る。その仕事はキツすぎる。障害者雇用は障害者相手のコミュニケーションが取りにくくて難しい。障害者雇用は障害者が働くにはキツい。少し様子を見て、無理そうなら思い切って辞めてもいい」
主治医のこの言葉を聞いたときにホッとしたことをよく覚えている。うつ状態のときは判断を先延ばしにしなさいと言われるかと思ったが、背中を押される結果となった。

「障害者雇用は障害者が働くにはキツい」
この言葉をよく覚えておこうと思う。

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