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休日の朝は幸せにかじりつく

まだ重いまぶたを必死に見開きながら、両面にバターを塗った、ライ麦入りの食パン。それを、四角いホットサンドメーカーにセットする。

そこに塗るのは、ちょっと奮発したいつもよりお高めのクリームチーズ。もったいないから、長く楽しめるようにちょっとだけ……いやいや、せっかくだからむしろ、どーんとたっぷりと。それから、切ったアボカドを重ねて、更にはほぐした鮭をまんべんなく載せる。

白と、緑と、オレンジ色がそれぞれ鮮やかで、そこにもう一枚パンをセットする。ホットサンドメーカーで、溢れそうになる具をぎゅっと挟んで、コンロの火をつけると、バターのじわっと溶ける良い香り。メーカーからはみ出したパンの耳が、コンロの火でほんのり黒っぽくなってきたところでひっくり返して、もう少し。その我慢の時間の間に、隣のコンロではお気に入りのウインナーを焼いて、ぱちぱちと爆ぜる音に耳を澄ます。

ウインナーの皮に茶色の焦げ目がついてきたら頃合い。両方のコンロの火を止めて、わくわくしながらメーカーのふたを開ける。
出てきたのは、カリッと香ばしく焼けたホットサンド。押し焼きされてはしっこはきゅっと口を閉じているけれど、おもいきり詰め込んだ具ではちきれそう。

あちち、とうめきながら、そっとメーカーからパンを取り外し、お皿に載せるとやっぱりバターのほんのり甘くてしょっぱい、なんとも言えない、でも口の中がじゅるっとするような、そんな良い匂いが強くなる。

包丁をそっとあてて、斜めにぐっと切ってやると、現れたのは鮮やかな断面で。それに気持ちを上げながら、ウインナーをかたわらに盛りつけて、ついでにケトルで沸かしたお湯を使って、インスタントのクリームスープを作る。

役者が出そろったところで、完成。いそいそとテーブルに運んで、寒くなった部屋をけなげに暖めるストーブの前に陣どってかぶりつく--と、言いたいところだけれど、すでにテーブルで待機していたちびっこたちに、まずは提供。この冬の寒さに冷めてしまったら、せっかくのホットサンドが台無しだから。

それから、もう一度同じ行程を踏んでようやく、大人もありつける。
バターでカリカリになったサンドイッチをかじると、最初に感じるのは惜しむことなく塗った、クリームチーズの味わい。余計なものが入っていないというふれこみのチーズは、いつも買っているクリームチーズよりもどっしりとした食感で、少し遅れて口の中が甘いミルクの風味でいっぱいになる。それを、鮭の塩気のあるうま味と、アボカドのまったりとした味わいが、またぐんと引き上げてくれて、口の中は幸せでいっぱいだ。

ジャムが良かったー、と。そう、ぐちをたれるちびっこには、この美味しさはちょいと早かったのかもしれない。でも、更に下のちびっこの方がぱくぱくと食べていたりするので、なかなか分からないものだ。

いつもよりちょっぴり手の込んだ朝ごはんは、休みの日だけの贅沢。ばたばたと慌ただしい、戦場のような平日には、とても望めたものじゃない。

せっかくだから、少し時間の隙間ができる午後にでも、ぶーぶー口を尖らせているちびっこと、残ったクリームチーズを使って、ケーキでも作ろうか。
たっぷりとしたクリームチーズを使ったベイクドチーズケーキは、わたしが子どもの頃から自分の母親と何度となく作ってきたもので、それもまた家族と過ごした休日の想い出のひとつ。
この小さな子たちとも、その懐かしい味を継いでいくのも良い。たぶん、作っている最中はまたばたばたぎゃあぎゃあと騒がしくなるだろうけれど。そんなのもまた、想い出の形で。

そんなことをぼんやりと考えながら、またひとくち、幸せの味にかじりつく。

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