見出し画像

今、今は今でいいのだと頷く

 出かける予定がぽぽぽと灯り、この道は確かに春へとつながっているのだと思える。術後3ヶ月になるが経過は良好で身体が癒えてゆく力を日々感じる。体勢によって自分の鼓動にふいに気づくあの瞬間だけ身体は生きているわけじゃない。どんなときも絶え間なく古くなり、新しくなってゆくこと、そのことへの惑いはちっともないのだ。身体はそんな感じ。私は、うーん、最近はねむるときが一番好き。でもいつか、眠れない夜のためにものを作りたいと思っている。そうだよ。いつかでいいのだ。いつかは必ず来るとわかっているから、今は今でいいのだ。やっとやってきた今、たった今移ろってゆく今、確かに失われてゆく今の積み重ねの一番上にふとんを敷いて今日もねむる。今がすきだな。過ぎていった今のことが愛おしいからだろうか。どうだろうな。自分が今生きていることを自分の中の特別なところにさりげなく置くんだ。もらった手紙を飾ったりしている壁の近く、ちゃんと目の届くところに置く。この世界がどんなことになっても、そういうことが変わらず大事だと思う。誰もそう思わなくても、大事なことは変わらないよって私は私へ言うよ。

 たとえば撫でること。石のすべすべ、生まれたての人のつるつるの頬、紙の手触り。自分が選ぶ愛おしむ仕草を知っていることで、自分の抱きしめ方もすっと思い描くことができる。愛はここに。私ひとりでつくれる平和を何度でも。私たちは生きている内に何度でも両想いを知りたい。教えたいのだから!

 ひとつずつ、ひとつずつ。あなたのたった今を遠くから抱きしめていよう。遥かな星の一粒として、この屋根を分かつ隣人として、手紙の宛先として、あなたがこの星にいることを今日も頼りにしているよ。

この記事が参加している募集

#今こんな気分

76,871件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?