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#思い出の夜

「#書いてつながろう」

外出自粛でなかなか外に出られず、
たくさんの暗い情報で頭がいっぱいいっぱい。

こんな状況だけど、みんなで「書く」ことでつながったり、
楽しい習慣になったらいいな。

そんな企画に賛同したメンバーで、毎週テーマに沿って投稿しています。
参加したい方がいましたらコメント欄にてご連絡ください。

今週のテーマは「#思い出の夜」です。

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時計が0時をまわった頃、人々は終電を目がけて駅へ足早に向かう。
無事に改札を通り抜けた後、名残り惜しそうにしながら手を振って、それぞれの家に帰る。

・・・これが、普通の終電間際の光景である。

あの日の私たちは違った。
まわりの人々は明らかに一日が終わったような顔で帰宅の途についている中、まるでこれからテーマパークに行く朝みたいにして、私たちはうきうきと同じ方向に向かっていたのだ。

その行き先は、高尾山。

これは私が学生時代、東京に住んでいたころの話である。その時は学生が集まる建物に住んでいた。いわゆる学生マンションだ。その建物は一風変わった面を持ち合わせていたのだけれど、それはまたいつか書きたいと思う。

***
その日は、これから富士山に登山に行くという友人たちを、家から見送った日だった。それはそれは重装備で、いかにも登山ルックな彼らを、私はただただすごいなと思いながらいってらっしゃいと見送った。

夕食の後にはいつものように部屋から出て、共有の空間で住人たちとおしゃべりしていた。

それを言い出したのは一体誰だっただろうか。たしか男子のうちの一人だ。
「俺も山に登りたい。」
もちろん富士山に登るという話ではない。そんな急な思い付きで登るような山ではないことはみんな重々承知しているし、第一、お見送りしたばかりだ。それでも昼間の富士山登山組に影響を受けた彼は、
「高尾山に登ろう。」
そんなことを言って、有志を募りだした。

私は山なんて登ったことはなかったけれども、そこで手を挙げなければ一生登らない気がしたし、幸いその日の体力は十分に残っていたから、気づいたら行きたいと手を挙げていた。
結局、手を挙げたのは6人。
「じゃあ1時間後に集まって、終電で向かおう。」
そう言って、それぞれが部屋に戻って支度を始めた。

そうは言っても、元々そんなにアウトドアではない私は、登山に適した服装なんて持っていなかった。なんとなく動けそうなスポーティーな服と運動靴、リュックサックを携えて、皆の集まるところへ向かった。

そして冒頭のように、終電で高尾山へと向かったのである。

高尾駅から降りたあと、高尾山の登山口へ向かう。当然あたりは真っ暗である。なぜかヘッドライトを持ち合わせていた人と、それぞれの小さな懐中電灯を頼りにして、私たちはてくてくと登り始めた。

歩いていても、全然景色は見えない。ただうねる道と、標高がどんどん上がっていくことはよく分かった。途中で休憩スペースを見つければ、座って休み、コンビニで購入しておいた缶の飲み物をさわやかに飲んだり、木々のすき間から見える街の明かりに思いを馳せたりした。

時折現れる虫に驚きながら、なんとか頂上らしきところまでたどりついたころには、満点の星空が私たちを待っていた。ぼーっと空と街を眺めた。

ライトで遊んだり、じっと星空を撮ったり。そこには邪魔するものは何もなかった(当然のことながら、他には誰もいなかったように記憶している)。

しばらくすると、ほの明るい景色が現れた。さながら富士山の日の出を見た気分だった。
日の出を拝んでから、私たちは山を下りた。登った時には見えなかった鮮やかな緑と花々を見ながら下った。普通は登るときに感じるものだろうな、と思いながら、ぱちぱち写真を撮る。

そして、始発の電車で私たちは帰宅の途についた。乗ってくる人たちとは明らかに違う雰囲気を発しながら。疲れているはずなのに、どこか高揚したような気分だった。

***

今のところ、私が思いつく限り、これを超えるような思いきった夜はない。
またいつか思いきった時間がやってくるとしたら、それは始発電車から始まるのかもしれない。

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来週のテーマは「#ちょっとおめでたい話」

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