勝利の女神と香水の話

noteご無沙汰しました。

なんだかすっかりダイエット記録みたいなnoteですが、おかげさまで今年は役者業に恵まれ、えっさほいさとダイエットを頑張っていたら趣味のバレエの効果もあってかスルリと痩身し、油断してまた元に戻り、相変わらずの今日この頃です。
その話はまたいずれ…。

note久しぶりの今日は素敵な香りの話を。
どうしても年内に言葉にしておきたかったことなのです。


私はよい香りのするものが大好きで、お部屋にはルームフレグランスを置き、アロマを焚いて、ハンドソープを厳選し、出掛ける前にはお気に入りのマスクスプレーをひと吹き。
仕事などでホテルステイする時にも必ず癒しの香りを持ち歩くほどです。

なかでも香水がとても好きで、ルールを決めないと無限に集めてしまいそうなので、
「買って良い香水は月にひとつまで」
と決めて、少しずつお気に入りの香りを買い集めています。

安価なものから目玉が転げ落ちるものまで、ピンからキリまであるけれど、「月にひとつ」と決めたおかげで、毎月毎月たのしみに、それはそれは熟考して、大切な『今月の1本』を決めます。
悩んでいるあいだから手にする瞬間まで、とても幸せな時間です。

毎月選び抜くまでのストーリーがあるのですが、今月の1本はとても印象深いものでした。

選んだのは、OFFICINE UNIVERSELLE BULYのルーブルコレクション『サモトラケのニケ』

数年前にリリースされた、ビュリーとルーブル美術館のコラボレーション作品で、
「フランスの著名な調香師たちが、ルーブル美術館所蔵の代表的な作品にインスパイアされた香りのコレクション」とあります。
有名なミロのヴィーナスなど、ルーブル所蔵の美術品をテーマにした香りが8作。

私は大学で西洋美術史を専攻していたのでこのコンセプトに興味を持ち、リリース直後にさっそくビュリーを訪れ、試香しました。
(ビュリーの店舗には化学の実験のような美しい器具があって全ての香りを試すことができます)

化学実験のようなビュリーの試香コーナー。


当時、一瞬にして心奪われたのは、「かんぬき」という「百合の花とムスクがアップルと栗に調和する豪奢な香り」
白い花の清楚な中に、フルーツがほんのりと甘く、優しい中に可愛らしさのある香りでした。
テーマとなった「かんぬき」という絵画は、美しくも、ともすれば暴力的にもなる激しめの男女の秘めた性愛を描いた作品で、香りの可愛らしさが少し意外にも思えました。

処女性のアイコンである聖母マリアの象徴である百合に、人類の原罪である林檎、加えて栗(これは直接的)などの熟した果実を掛け合わせることで情事のイメージが広がるってことなのかな。
香りの解釈がいかにも西洋的で、実際の香りは上品でロマンティック。
とても好き。


リリース直後、「かんぬきが欲しい!いつかこれを手に入れよう!」と思ったものの、ビュリーは水性香水(アルコール不使用で、肌や髪やファブリックにやさしい)だから香り持ちはそれほど長くないし、パウダーと水分が混和している水溶液を、使用時にシェイクして乳化させる独自処方なので、アトマイザーに入れて持ち歩きもできない。
うえに、決してお安いとはいえない価格帯のため、現実主義の私にはすぐに手がだせず、数年が経過し…………

そしてついに、今年12月31日をもって、ルーブルコレクションが販売終了という時期が来てしまったのでした!
さあ大変だ!



その日、私と友人のレナちゃんは女子会のために集まる予定が、集合時間を間違えて1時間早く着いてしまい、クリスマスイルミネーションに彩られた丸の内をてくてく歩いていた。
折しも一粒万倍日、レナちゃんは私と合流する前にも大好きなお店でお洋服を爆買いしてきたそうだ。
一粒万倍日とは、一粒の種が万倍にも実るという、農業国らしい大変縁起の良い日で、この日に繋いだ縁や仕事は豊かに育つと言われている。

「こういう日に大きいお買い物するのがいいいんや。今日まとめて買おうと思って、欲しいもの取り置いてもらってたんやー」
アパレルの仕事をしているお買い物上手なレナちゃんは縁起を担ぐタイプらしく、いつもいいことを教えてくれる。

ティファニーとアンディーウォーホルのコラボツリーを見に行こうとキラキラの丸の内を歩くうち、ビュリー丸の内店の前を通りかかって、ちょっと寄って行こうとなった。
レナちゃんは愛用のビュリーのオイル(香水と同じ香りの展開をしていて、全身に使える)がちょうどなくなりそうだったので新調するらしい。

ビュリーといえば化学実験的なおもしろ装置で自由に試香させてくれるのが楽しくて、私も一緒に端からくんくんするうち、そういえば年内でルーブルが終わりだと思い出し、やっぱりかんぬきはいい香りだなぁ…としみじみしていた。
そして、ぶっちぎりで注目していたかんぬきのほか、「サモトラケのニケ」の香りもすごく好きだと気づいた。


が、今月はジョーマローンにしようかなとか、たくさん冬服買ってしまってお財布も少し寂しいし、などともにょもにょして、
「ねえレナちゃん、このニケすごくいい香りだねぇ」
などと話していたら、同じくニケの香りにときめいたレナちゃんが「これにする!」と即断購入。

店員さんとレナちゃんが
「今日は一粒万倍日だからね」「12月は一粒万倍日が3度もあって…」「ニケは勝利の女神だから更に縁起がいいですよ」
と会話をしているのをふんふんと聞きながら、まだ私には現実的ではなかった。

カリグラフィーで飼い猫の名前を書いてもらい、きれいにラッピングをしてもらったニケのオイルを手にしたレナちゃんと、ついで私にも、サモトラケのニケの水性香水をお試しにふりかけてもらってお店を出た。
ビュリーのおもてなしは本当に素敵だ。


女子会の場へ向かうまでにまだ少し時間があって、イルミネーションを楽しむうち、てくてく歩く私たちの髪からふんわりと良い香りがする。
ニケは「チュベローズとマグノリアにジャスミンとミルラの香りが際立つ」甘さ控えめで爽やかな中に少しのセクシーさを秘めた大人のフローラル。

うーん、この香り、すごく好きだなぁ…と後ろ髪引かれていると、レナちゃんはニコニコして

「アリスちゃん、しばらくオーディション続いてるんやろ?ニケは勝利の女神やってお姉さん言ってたやん。女神にあやかってオーディション勝ちにいきなよ」

雷が脳天直撃したみたいに、この言葉がぶっ刺さった。

そういえば「サモトラケのニケ」という彫刻は、頭部と両腕のない翼のはえた女神像だ。
私は常々、「自分の延長ではない、別の誰か」を演じることを目標にしている女優で、顔がないなんて、自分の目指す姿にもぴったりではないか、と、しっくりきた。

年末で少しお財布は苦しいけれど、もう販売終了してしまうし、いましかないのではないか。

今の自分にはビュリーの香水は少し背伸びしているようでうじうじしていた私に、たぶんレナちゃんは気づいていたのだろう。

ハッとした私に
「アリスちゃん、実は明日も一粒万倍日やで」
とどめの追い討ちをかけてくれた。

そして、あえて少し背伸びして、それに見合う自分を目指すことも必要だよ、とも教えてくれた。


なんだかちょっと泣きそうなくらい感動した私は翌日、オーディションに向かう前にもう一度ビュリーへ行って「サモトラケのニケ」をゲットした。

その日は広告のオーディション。
特に広告のオーディションの場合はお見合いみたいなもので、特定のキャラクターや誰かを演じるのではなく、商品のイメージに合致した魅力を持つ人が選ばれる。
だから、ニーズをふまえつつも、私らしくいられることが一番重要で、自分の魅力を肩肘はらずに伝えられたらと願った。


結果、そのときのオーディションで勝利の女神は微笑まなかったけれど、気負わずリラックスして臨むことができた経験をひとつ積むことができた。


実はいま、とあるドラマの撮影合間にこのnoteを書いていて、今日もニケはそっと私の髪に宿っている。
私ではない、けれど、私が演じることに意味がある、そんな人物を演じることができますように。


長くなりましたが、大切な友人から得た金言と素敵なお買い物。

今年もとても良い一年でした。
残り少ない今年と、来年も、誰しもにとって健康で豊かな一年になりますように。


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