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【短編】丸の内女子

小さい公園にベンチが一つ。

10月の末、イチョウの木もすっかり実と葉を落とし、暗闇の中で静かにひっそりとたたずんでいる。

背の低い電灯の明かりがベンチを照らす。

涼しい秋の夜にもかかわらず、棒アイスにかじりつく2人。

虫の声が鮮明に聞こえる。もう日が落ちてからだいぶ時間が経った。

少しずつ肌寒くなっていくのを感じながら、2人はただベンチに座っている。

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A「あ~あ」

B「どうした急に」

A「ちょっと聞いてよ」

B「何?」

A「私さ、丸の内女子になりたいんだよね」

B「丸の内女子?」

A「そう!」

B「ふ~ん」

A「全然興味無いじゃん」

B「いや、興味無いって訳じゃないけどさ…またどうして?」

A「なんか憧れるじゃん!『丸の内』っていう響きよくない?」

B「まあ、なんとなく分かるよ」

A「でしょ?だからさ、憧れの丸の内女子になるためにちょっと実践してみようと思って」

B「うん…?」

A「丸の内女子として生活してたのよ」

B「ちょっと待って、どういうこと?なってもないのに?」

A「形から入るのも大事じゃん?」

B「…まあまあそうかな」

A「だから例えば、朝6時に起きて電車乗って東京駅まで行ったりね?」

B「出勤するわけでもないのに?」

A「うん」

B「そのためだけに朝6時に起きるわけ??」

A「まあね」


A、得意げな表情。
B、あきれた様子でため息をつく。


B「よくやるよ本当に」

A「だって時間だけは無限にあるんだもん。椎名林檎とか聞いちゃったりして」

B「ふ~ん」


B、アイスをかじる。


B「じゃあ就職先その辺なんだ」

A「うん」

B「夢の丸の内?」

A「いやそれが、日本橋なのよ」

B「日本橋のどこ?」

A「人形町」

B「うわ~ぎり」

A「そうそう、春から人形町女子なの」

B「それは渋いわ」


(おわり)

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