#152 ねぎらい
りえちゃん(従姉)は続けた。
「元カレと再会させたのはうちの父(姫の兄)じゃないよ。だって私たちには『この広い東京の街中でばったり再会したのよ。本当に驚いたわ』って連絡してきたんだから。それに父は『タカハシなんて記憶にない』とも言ってた。だから婚約も破談も嘘。その頃から突然友達と旅行をするようになったってやたらと写真を送ってきたけど、いつも姫(私の母)しか写ってなくてね。父が不審がって友達と写ってるものを送れと言ったけどとうとう送ってこなかった。卯月が言うように父は姫にものすごく甘かったけど、不倫を唆すような性格じゃないのは分かるでしょう?ご祝儀を卯月から取り上げてた話だって今初めて知ったもの。姫がでっちあげて自分のものにしたんだよ」
私が伯父に懐かない状況を逆手に取り、伯父を隠れ蓑に利用していたのだ。
「私もそのタカハシって人は全く知らない。姫が付き合ってた人で名前を覚えてるのは池田さんくらいだな」
と言われて愕然とした。ちょっと待って、その人も元カレなの?
強く激しい物言いは嫌いな相手に対する態度ではなく、思い通りに操れる相手に現す本性なんだ。
その夜、私が数年ぶりの訪問だからと親戚一同が集まって宴が始まった。そこで従兄が口火を切った。
「死んだ人悪く言うのもなんだけど、ものすごいお母さんだったなぁ。卯月はちっとも来ないからどんな風に成長したか分からなくて心配してたんだ。お母さんそっくりな性格になってたら大変だって。葬式のしきり方から挨拶まで聞いて安心したよ。お母さんに似なくて本当に良かった。お父さんがどれだけ立派な人だったかよく分かる。卯月がまともな大人で良かった」
私が幼い頃、親戚一同弱みでも握られているのか。なんだってこんな人に揃いも揃って言いなりなのかと憤った。結局それは「大人の対応」だったのを知る。
姫は言い出したらひかない人。自分の考えを曲げない人。怒らせて面倒になるくらいなら、はいはいって従っておけば丸く収まるんだからそれでいいと思っていたのだと。
親戚たちにすれば、ここに滞在している数日間だけ我慢すれば済む話。卯月にしたら切ることも出来ない母娘の縁。どれだけの思いを抱えて母親の世話をしていたのか気が気ではなかったと言う。
「卯月は立派だよ。本当によくやった」
何かあってもみんなは絶対姫の肩を持つよね、親族だから。そう思って積極的に関わりを持ってこなかった。あの母親にどれだけ苦労しているか誰にも理解されなくて結構だと突っ張っていた。
それでも分かってくれていた。真実は誰かが必ず見ていてくれるんだ。
「それにしても」
と従兄は続ける。
「あの兄妹は異常な関係だったな。見てて気持ち悪かった。恋人かって思うほどべったりだったからな。まぁ、変わり者の姫を理解してやる味方が一人でもいなくてはって思いがあったんだろうが」
やはり伯父は気づいていたんだろう、姫の発達障害を。
「仏壇に故人の好きなものお供えするだろ」
別の親戚が話しはじめた。
「食パンの真ん中だけほじって供えとけ」
一同大爆笑。今夜は間違いなく化けて出てくるだろうな、姫。
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