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人間が生きることを肯定したい・25「明かき心②」

『私が屋久島に住めば住むほど
(あなたがたが)この沖縄に住めば住むほど、
他の地域が同じようにかけがえのない地球である、
地域であることが分かってくる。
このことをぼくは、
地球即地域、
地域即地球、
という言葉で言い現わしています』

「アニミズムという希望
講演録・琉球大学の五日間」
山尾三省著 野草社


第24号で日本神話のことを書いた。
しかし、もしかしたら、
「日本神道」という言葉は、
多くの人にとって、
ある種タブーの感覚をもって受け止められるかもしれない。
それは、日本の神話を都合の良いように解釈し、
「日本国は神の国」と国民を煽った軍国主義が隆盛していた時代への猛烈な反省からであろう。

しかし、本来の神道は言うまでもなく、
日本だけを神格化したものではない。
万物・・・日本だけでなく、地球だけでなく、
宇宙までも含んだ全てのものを敬う心がその本質である。

思うに、例え一神教であっても、
本物の宗教であれば、
「万物を敬う心」という本質は変わらないはずなのだ。

しかし、宇宙の理を便宜的に「神」と呼ぶようになったものが、
いつのまにか自分たちの国の行動を正当化するための
絶対的な拠り所となってしまった。

改めて言いたい。
全ての人格神は「ファンタジー」だ。
心が感じた宇宙の理を分かりやすく人々に伝播するための。
そのことを解釈し間違えてきた、
またはわざと曲解した、
その歴史が戦争の歴史だと思う。


ここでまた山尾三省さんの言葉を引用しよう。


『地球という全体を神のように把握して
その上に立つというようなことは、
私達一人一人に出来るはずもない。
それは情報としては入ってくるし、
旅に出ることもむろん出来るけれども、
私達が現実に生きる場所といいますか、
暮らす場所、愛する場所といいますか、
死ぬ場所といいますか、
それはこの地域以外にないんですよね。
ですから、地球の本当のリアリティーというものは、
この地域、この場以外にはありません』


つまり、
愛国心、ナショナリズムというのは自然発生的な情念であるので、
それ自体は少しも悪いものではないのだと言う。

「国境をなくそう。人類皆兄弟」というような考え方は、
理想論としては立派だと思うけれども、
やはりリアリティーを持っては受け止めにくいのではないだろうか。
隣りの家に住んでいる人々と、
明日から同じ家で同じ家族として暮らせと言われても、
やはり困ってしまうと思うのだ。

そうでなくて、大切なことは、
自分が生きているその場所を深く愛することだ。

人には故郷がある。
自分が生まれて育った場所を大事に思う気持ちは、
みんな持っているものだと思う。

逆に、もし自分が今いる場所が好きになれないとしたら、
自分が愛せる場所、
自分の骨を埋めたいと思える場所を
探してみることもまた必要なのではないか。
山尾さんが屋久島を見つけたように。

そして、自分が愛しているその場所は、
即そのまま地球なのだから、
自分の生きる場所を愛することが、
地球を大切に思うことと同義なのだと山尾さんは言うのである。

自分が生きている場所が美しければ美しいほど、
その美しさが即、地球の美しさなのだと感じられ、
見知らぬ誰かが住んでいる遠い地もまた、
ここと同じように美しいであろうことが想像できるのだ。

「自分の国を愛している! 
だからあの国と戦うのだ!」
が、今までの「愛国心」だった。

「自分の国を愛している。
だからあの国の人も、さぞ自分の国を愛しているだろうなあ」

・・・その感覚が、これからの、
本当の意味の「愛国心」ではないだろうか。

それぞれの土地に神がある。
それぞれの土地に生活がある。
それぞれの土地の神と人と生活を、
尊重し合えるようになればいい。

=====DEAR読者のみなさま=====

自分の国を愛する、ということの本質を、
もっとちゃんと考えなくてはいけない時代に来たと思います。

「えらい人」に言わせれば、
それは国益を追求することだと言うかもしれない。

しかし「善い人」に言わせれば、
自分の住む場所が生きて流れていることの嬉しさ、美しさを、深く感じることだと言うでしょう。

山尾さんが自分の著書の中で事あるごとに繰り返した願いは、
「日本のすべての川の水が飲める水になってほしい」

ということでした。
屋久島の森の水を飲むように。

都会生まれで都会育ちの私には、
そんなことは夢物語だと思えます。
でも、そんな日本を想像してみたら、
日本中のどこに住んでいても、
自分の住む場所を愛し、
誇りに思えるような気がするのです。

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※これは20代の頃に発信したメールマガジンですが、noteにて再発行させていただきたく、UPしています。

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