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恋愛ミステリー小説という名の自己内省本「傲慢と善良」

もう出会って6年目の付き合いになる前職の同僚がきっかけで読んだ「傲慢と善良」

これは恋愛ミステリー小説という名の
自己内省本であった。

最初は仕事から始まり、次第に友達、恋愛のことも話すようになり、もう31〜33といい歳となった3人の最近の酒のつまみとなる話は、人生の伴侶についてだ。

わたしは少し前から付き合っていった人と昨年結婚し、その間彼らから特定の彼女を紹介されたことはない。

この5年の月日は長く、3人とも転職して、仕事におけるポジションは着実に確立させていっている。それなりに年収があって、それなりの身なりをし、それなりの生活ができて、それなりに満たされている。

そのうちの1人が今年に入って、山を買った。
元々キャンプが好きで、最初はキャンプグッズを集めることから始まり、仕事で出世街道を登っていくと共に、ついにキャンプ道でも自分の城を手に入れるところまでやってきた。それに伴い、おしゃれキャンパーだから乗ってもいいと言わんばかりの車、jeepも買ったらしい。

毎週のように城を築きにいくなか、
山に出資した3人のうち、彼を除く2人は既婚子持ちで、いわゆる素敵ファミリー像を目の当たりにするうちに、ついに彼も本気で伴侶を探す気になったのだ。

桜が散って間もない頃、仲間うちの飲み会でいつもよりちょっと久々に会った彼は、容姿やファッションまですっかりキャンプ好きのパパ風に仕上がっていた。伴侶を見つける前にまたスペックから入る彼らしい努力が愛らしく、ついつい笑ってしまった。

そんな彼が人生の伴侶を探すために、出会い系アプリとはじめて真剣に向き合っているという話を聞いたのが、今年の夏。

Googleのスプレッドシートに、50人の女の子を縦軸に、5つの評価軸を横軸に並べスコアリングを行い、スコアが高い10人と会い、そのうちの3人と複数回会ったが、現状、0人。

このやり方が彼らしくて、また思わず笑ってしまった。と同時に、スコアリングしてる時点で本気で恋愛をする気がない。恋愛は気持ちだ。そもそもなんで結婚したいの?など、他人事なのをいいことに、説教じみたことをしてしまった。

そんなことがあり、わたしの一番好きな秋の季節が流れ星のように一瞬現れて消えていった、9月の半ば頃。

彼が、「傲慢と善良」っていう本が、今の自分の状況や気持ちを代弁してて辛い。僕はもう坊主にするしかない。

と言ったのがこの本との出会いとなる。

彼らと出会ってからは6年目。周りの人と比較して私なんて…といつまでも卑下しているわたしに、叱咤激励をし続けてくれた2人には今でもとても感謝している。

そのうちの1人が、ついに本気で人生の伴侶を探す気になって彼なりに努力したのに、それでも自分に合う人が見つからない状況にあるそんな彼の気持ちを知りたくて、本を手に取った。

これは、今まで自分が見たくなかった自分、もしくは見てみぬふりをしていた自分、と嫌でも向き合わされる本だった。

もはや、結婚してる・していないは関係ない。

いくら善良な人であっても、人はみな、自分が育ってきた環境や今の状況から無意識に自分の価値を設定し、その価値より下だと思った人や状況に対して傲慢になるという事実を突きつけられる。

そして、スプレッドシートでスコアリングすることは決して笑いごとではなく、真剣に向き合えば向き合うほど、自然とそうせざるを得なくなる現実を知る。

自分が生涯共に生きていきたいと思い、相手もそう思ってくれる人と、そうなれることが、その関係を続けていくことが、どんなに奇跡なことであるのか。

そして、そうなるためには、自分で自分のことを深く理解し、相手の本質をできるだけ理解することが大切。であり、それが場合によっては息苦しさを感じるくらいの事実と向き合うことになることも知る。

この本は、年齢を重ねるにつれて意識するようになり、焦りにもなる「結婚」に向き合う男女の出会いから結婚に至るまでの今どきのストーリーを解像度高く描くことで、人の奥底に眠っていた本能や欲望の本質にたどり着いている。

自分や相手の本質に向き合うことから逃げているうちは「もう坊主にするしかない」と言ってしまう彼の言葉の意味が、必ず分かるはずだ。

#読書の秋2022

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