あや・まりの“心”を動かす感性マーケティング ~vol.1 感性マーケティングとは【前編】~
■プロフィール
猪熊真理子:OMOYA Inc. 代表取締役CEO
東京女子大学文理学部心理学科卒業。学生時代に女性の自信形成に興味を持ち、心理学を学ぶ。認定心理士の資格を取得。
2007年(株)リクルートに入社。「ゼクシィ」や「Hot Pepper Beauty」などの事業で事業戦略、ブランドプロモーション戦略、マーケティングなどに携わる。会社員の傍ら、「女性が豊かに自由に生きていくこと」をコンセプトに、講演やイベント、セミナーなどで女性支援の活動を行い、高校生から70代の女性まで延べ3千人を超える女性たちと出逢う。2014年2月にリクルートを退職し、3月に株式会社OMOYAを設立。株式会社OMOYAでは、主に女性消費を得意とした、経営・ブランドコンサルティングや企画マーケティング、組織のダイバーシティーマネージメント改革、企業内の女性活躍推進などを行う。
社会人女性の学びの場「女子未来大学」ファウンダー。多様な価値観の多様な幸せを女性たちが歩めるような未来を目指して女性のキャリアや心理的な支援活動などを行っている。
OMOYA Inc. http://www.omoya-inc.com/
女子未来大学 http://www.joshi-mirai.com/
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大関綾:Noble Apex Inc. 代表取締役CEO
1992年、東京都世田谷区生まれ。小学生時代からPCが好きで、Photoshopを使用した画像加工やHTMLでのサイト制作などを行っていた。経営者になることに憧れ、中学3年(14歳)で神奈川ビジネスオーディションに出場、2賞の受賞と最年少記録を樹立。
2010年1月、高校2年(17歳)で現Noble Apex Inc.を設立し代表取締役CEOに就任。
自身で企画開発したネックウェアを全国百貨店、量販店や海外で販売。その後、若手女性チームの感性を活かしたソリューション事業としてマーケティング、PR、商品・サービス開発事業を立ち上げ現在に至る。
Noble Apex Inc. http://nobleapex.co.jp/
■「あや・まりの“心”を動かす感性マーケティング」とは?
大関:この記事をご覧の皆さん、こんにちは!大関綾です。
この「あや・まりの“心”を動かす感性マーケティング」は、私の大好きな尊敬する女性経営者である猪熊真理子ちゃん(以下・まりちゃん)と一緒に、月1回ペースで各界の最前線を行く方々と対談インタビューを行い、若手女性である私達の感性・感覚でそれを今の時代観とあわせてキュレーションしたものをオンラインでお届けする企画です。
まず今回、まりちゃんとマーケティングを一緒にやろうと思った背景として、弊社が主幹事業としてやっているのが、若い女性スタッフ達の感性を活かしたマーケティング、PR、商品・サービス開発をクライアントさんに対して提供する事業です。
もともと私が会社を起業したときは、アパレル商品の企画開発をして販売するという、アパレルメーカーをやっていたんですけど、その中で、高校2年で起業したので、いきなり学生起業でこの世界に入って、全く就労体験がなかったので、マーケットを知らなすぎるなと、商品開発をしていくにしてもそのうち詰まることもあるだろうなぁと思っていて。会社としても私としても、一度しっかりマーケットを理解する必要があると思ったのね。
それから企業としては、商品を通じて女性ものの商品も出していて、その辺に対する感覚値は社内でもあったので、そこを活かす形で事業にしようということで、今は企業さんがオウンドメディアとかSNSとか新しいチャネルとして販促を立ち上げたいという時に、その企画立案から入ったりとか、ビジュアル面でうまく伝えていくにはどうしたらいいかということを考える仕事をしています。
例えば、今まで「モノ」に寄っていたブランドさんがもっと歴史とか背景、ストーリー(コト)を伝えていきたいという時に、どういうチャネルがいいのか、どういう見せ方をすればいいのか、というところから考えていくことをやっています。
今後も、うちの企業としても新しいサービス開発・商品開発をやっていくので、そこに対する肥やしをしていきたいなというのがあって。
で、まりちゃんとは講演会で会って、最初仲良くなれるか分からなかったんだけど(笑)意気投合して、初めて会ってから結構すぐに「一緒になにかやろう」ということになったよね。なんか、講演会で一緒になる人ってテイストが違うというか、キラキラした感じの女性社長さんが多い気がする(笑)
■マーケティングに絶対必要な「メタ認知」
猪熊:私も講演で出会う女性起業家の方って想いとか情熱が強くて起業している方が多いから、ご自身のストーリーを話すときの熱量ってすごく高いなというふうに思うし、それはいつも憧れながら聞いてる(笑)
一方で起業したい人が講演を聞きに来てるとしたら、聞きに来てる人たちは「自分ごと化」して聞きたいじゃない?
自分のことに応用して聞きたいんだけど、応用して話を聞くのっていろんな知識や経験がないと聞けないから、「この話してくれている女性の起業家の方はすごい素敵なんだけど、自分がどうやったらそうなれるのか」っていうふうに応用して聞くのは難しいので、なるべく主観的な話だけではなく、みんなに応用してもらえるような体系化した話と組み合わせるようにしてる。
講演会の時に大関綾ちゃん(以下・あやちゃん)が話してる時にも思ったのは、自分の起業のストーリーを語ってはいるんだけど、客観的な視点というか「メタ認知」を持っている女性だなと思って(笑)。マーケティングには主観な視点、客観的な視点の両方がすごい大事だよね。主観と客観を行き来することで真理に近づけていく感覚。
あやちゃんは、この人じゃなければできないようなストーリーではなくて、他の人にも応用できる話し方をしている希有な起業家だなと思って聞いてた。
情熱だけで自分のストーリーを話せる起業家もすごい憧れるとは思うんだよね。私どちらかと言うと淡々としゃべっちゃうし…。
大関:私もその点は冷めているというか、表に出るのがあまり得意じゃないので、そこに対して「私が」って話すのは苦手かな。
猪熊:私、「メタ認知」ってキーワードだと思っていて、客観的な視点という言葉でもいいんだけど。
マーケティングでいつも虫の目、鳥の目、魚の目ってあるじゃん。ビジネスでなければ自分の人生以上に、主観だけでなく客観的な視点が求められるよね。
女性を知ろうとしてきて時々思うのは、女性って「自分が見える範囲が幸せだったら十分幸せ」というのはあるのじゃないかな。答え合わせはないわけだし、自分の見えない世界にある面白そうなものは見えない方が幸せな場合もあるし。
でも、結局マーケティングをやろうと思うと、誰か1人の事だけを理解しようと思ってもマーケティングにならないし、いろんな虫さん(一人の人)の気持ちを理解できないとマーケティングできないから、その時に必要なのが鳥の目の客観の目だよね。
この鳥の目は、ある意味私は「メタ認知」だと思っていて、自分を飛び出した客観的な視点から冷静に分析ができたりするという、主幹と客観の視点の行き来が、あやちゃんは上手だなと。
■“マーケティング”も“教育”も“カウンセリング”も実は似ている。
猪熊:私自身の背景は、もともと女子大で心理学を学んでいて、リクルートで7年勤めて、その時は経営戦略とか企画とかマーケティングをやっていて、今は株式会社OMOYAという会社を創っています。経営コンサルやマーケティング、女性活躍支援やダイバーシティマネジメント、また『女子未来大学』という社会人女性向けの学びの場という教育事業をやっているんだけど、私の中では心理学の「カウンセリング」も「企画マーケティング」も「教育事業」もやっている事の根幹は一緒だなと思っている。
1つは「心に触れる」取り組みであるということ。
もう一つは、マーケティングも教育もカウンセリングもそうなんだけど、基本的には現実と理想とのギャップを埋める取り組みなんだよね。
カウンセリングも「現状どうなってるか」という現状と向かい合った時に、そこに出てきた課題とか、「本当はどうなりたいのか」っていう思いがあって、そこに対してカウンセラーが答えを教えるんではなくて、本人が自らの意志を持って決定をして、理想に向かっていくというのをサポートしていくのがカウンセリングの役割。
教育もマーケティングも一緒で、「現実のマーケットがこうなっている中で、企業としてこういうものを作りたい」と言うビジネスサイド側の思いがあるときに、その現実と理想の間のギャップをどうやって埋めていくか、どうやってマーケットを創っていくのか。その時に、ギャップを無理矢理に企業側が埋めようとするとサステナブル(継続的)ではなくて、消費者が自然と選び取ったりとか、自発性を持ってワクワク感とか喜びを持って理想の状態に近づいていくようになると、マーケットも消費者もそこに対する新しい価値や成長が生まれる。
根幹でやってる事は全部一緒だと思っていて、人の心に触れるという仕事ってすごい面白くもあり大切な仕事。土足で踏み入れられないところもあるし、「共感力」も人に対する「思いやり」もすごく大事。今ある現実から理想の未来に向けて、そのギャップを埋めていくための成長に寄り添う取り組みというのが根幹でやりたいことで、それが今の事業に繋がってるかなと思ってる。
■「感性マーケティング」とは?
猪熊:今回、感性マーケティングというテーマだよね。感性マーケティングって何だろう?そもそも「感性」って何だろうね?辞書で調べるとこうだね。
「感性=印象を受け入れる力。感受性。また、感覚に伴う感情・衝動や欲望。」
感性マーケティングって普通のマーケティングと何が違うんだろう?
大関:まず1つあるのは、まりちゃんもその言葉を使っていて印象的だったんだけど、人の傾向を知る中ですごく“感性・センス”が大事だなぁと思っていて、経験に裏打ちされるものと同じ以上にその人が生きてきた中で培ってきたセンスっていうのが服装や行動につながってくると思っていて、その人のセンスはどうなんだろうっていうのが1つの指標としてあると思う。
すごくその視点を重視してるんだなっていう部分に共通したものを感じていて、同時にそういった目に見えない視点が今後のマーケティングでも重要になるのかなと。
あとは、今のマーケットを考えたときに、企業サイドの発信というより消費者サイドが自発的な発信をしていく市場にしなければ浸透しないなというのをすごく思っていて、商品が広まるかどうかが消費者の手に委ねられている感じがさらに強くなってきているなと。
セグメントが細分化していることもそうだし、情報が多すぎて企業の情報が刺さらない。だから、いかに消費者が伝播していってくれるかっていう視点が必要不可欠だと思っていて…
「感性」の対義語ってなんだろうね?
猪熊:「理性」っぽいよね。さっきのあやちゃんの話を聞いてて思ったんだけど、消費者サイドの感性に響いて、自発性が生まれる瞬間を表した日本らしい言葉ってあるよね。
“琴線に触れる”って言葉があるじゃん。私、マーケティングの仕事で「琴線に触れる」って結構使うんだよね。
琴線に触れるって、消費者サイドが独自のアンテナみたいなものを持っていて、このアンテナが「琴線」なんだけど、ライフスタイルが多様化しているから、持ってるアンテナの感度も種類も違うし、どの周波数に反応するかも違っている。その中でどうやって琴線に触れさせるかというのがある意味、感性マーケティグのテーマの一つだよね。それに触れると凄い自発性が生まれて、買うとか周りに伝えるとか、発信するとか全部につながってくるし、その琴線に触れるレベルみたいなものがあると思うんだよね。
凄い強いレベルの琴線に触れるとすごい深いアクションを起こすし、ちょっと触れると、買うまではいかなくて「いいなぁ」みたいな感じで止まっちゃうと思うんだけど、琴線に触れさせるみたいなことが感性を考える上ですごく重要なことだと思う。
この感性マーケティングって言ってる感覚が、日本の市場において本当に響くのかというのを、昔に遡って考えると「情緒」の考え方に近いかもしれないよね。
情緒って感性・センスとも似てるんだけど、核がここにあるなら核の周りに柔らかい流動する範囲みたいなのがあって、核ダイレクトじゃなくていいというか、ダイレクトじゃない触れ方みたいなものとか、そこにある空気感自体に共鳴を起こすみたいな、目に見えない波動みたいなものに近い価値観だなぁと思っていて。
大関:「琴線に触れる」というのはまさに感性で、そこに“ストーリーテリング”が来るのかなあと思っていて、対して「理性」と言うと商品に落とし込むと価格とかスペックに入ってくる。
「価格はどうか」「今の自分に本当にそれが必要なのか」とか。数年前まではより安価で高品質なものが選ばれていたのが、今はその商品の背景にあるストーリーで人はものを選んでいる時代なのではないかという想定のもとに、これからのマーケティングはその理性に語りかけるのではなく感性に訴えかける必要がある。
猪熊:なんか理性って手法として“訴えかける”っていう感じがして、感性って“語りかける”って感じじゃない?
この間、資生堂の「プレイリスト」っていう新ブランドの発表会に行ってたんだけど、「プレイリスト」ってローンチ時はネットでしか売らないらしいの。コスメ業界って今まで、コスメ自体のモノ=プロダクト(商品)の技術や進化を打ち出して、消費者にアプローチしていく時も、科学的なデータのアプローチで「◯%はこの成分が入っている」とか理性的なアプローチが多かったような気がするよね。
(画像引用元:https://www.shiseido.co.jp/playlist/)
だけど、プレイリストの場合は、コスメ自体もプロダクトとして進化してるんだけど、メイキャップアーティストが生み出すコスメっていうコンセプトだから、メイキャップアーティストがダイレクトにone to oneでその人に合うメイクをWEBを通して提案したりするんだよね。
今まではマスプロモーションのイメージだけど、WEBを上手く使うことでone to oneのダイレクトプロモーションができる。自分自身の写真と簡単な3つの質問を送ると、それを見たメイキャップアーティストがおすすめのメイクを提案して、そのコスメの試供品のようなメイクキットが送られてくる。ブランドサイトでメイクのデモンストレーションの動画も配信してたりとか。そうなると核となるのはコスメのスペックだったとしても、デモンストレーション動画とかプロがカスタマイズしてくれるとか、そこが全部含めてこの商品の価値になるよね。
もちろん核となるモノも進化してるんだけど、その周りに付帯するフリンジサービスも核であるプロダクトとちゃんとストーリーで紐付いているところがポイントだよね。これがバラバラになっていると、ストーリーを提供しているようで、フリンジサービス(付帯サービス)もついてるけど、あんまり核と関係ないみたいなところもあるよね。
そうすると本当の意味でストーリーテリングではない。そこが紐付いていると新しい感があるなって思った。ターゲットがプレイリストの場合ははっきりしていて、2〜30代のデジタルネイティブな世代だから、無駄なものを買わないし、ネットショッピングや情報検索もするし、だからオンラインの行動特性に合わせたアプローチとストーリーの組み方をしているのも面白いよね。
大関:すごい市場が高度化してるなと思うんだよね。昔は商品のスペックで戦うことができたけど、今はフリンジサービスが核のようになっていて、コアの部分ではあまり差がなくなってきている。化粧品も百貨店に入っているブランドものだったら、どれを買っても結構いいじゃん。その中でじゃあどれを選ぶかって、そのストーリーとか背景とかになってくる。
猪熊:市場が高度化するとプロモーションのアプローチ、マーケティングのアプローチが難しくなって、複雑化していくよね。理性で動くマーケットだったら、スペックの価値をきちんと訴求していけばスペックの価値に響く人が動いてくれるけど、コアの部分の差がなくなってて、ストーリーで売ろうとするとストーリーを伝えることって情緒的な意味合いになるから、センスでも微妙な感覚で曖昧になるじゃん。
大関:でも、ものづくり出身の私からすると、あまりにストーリーを語ることがメインなりすぎて、核となる商品がないがしろになっていくのってどうなんだろうとも思うんだよね。本来は健全でシンプルな市場って商品の品質・スペックとかコアの部分で戦うっていうのが本質的かなと思っていて、仮にそのブランドがフランス生まれだろうが、日本だろうがより良い商品をより顧客の納得する価格で売るっていうのがコアだと思う。でも、そこがあまり響かなくなってきて、場合によってはイメージを捏造していく場合もあるわけじゃん。それって本質的なのかどうかって紙一重になってきそうだなぁって…だからそのバランス感もすごく大事だよね。
【後編】へ続きます。