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【詩】神の街

神の街

太陽の灼熱は
真上からコルカタの中心街を照り付けている
空の青を薄めるスモッグのヴェールが
見掛け倒しだと思い知らせるかのように

イギリス植民地時代に建造され
静かな威厳を纏いながら
淡々と存在し続ける白亜のビクトリア大聖堂を背後に臨み
だだっ広いモエダン広場と
立ち並ぶ高級ホテルやビルに挟まれたチョーロンギ通りは
歩道も車道も 人と車で溢れ返っていた
僧侶も 浮浪者も 大富豪も メイドも
貴婦人も 子供も 芸術家も 勤め人も
誰もがその混雑した大通りを行く
車のクラクションの音が絶え間なく響き渡り
皆 歩きながら大声で話している

道端では 物売りが安っぽいビニールの袋を広げ
声を限りに呼び込みをしている
牛はあちこちでのんびりと横たわり
カラスが身体で休んでも
痩せぎすな野良犬が周囲をうろついても
一向に意に介さない様子で
時折尻尾を動かす

その街は どんな者をもそのまま包み込み
すんなり融和させてしまう強い引力と魔力とを
持ちあわせているようだった
人々は神が全ての者をあるがままの姿で受け入れることを
当然の真理として語る
その日をただ無事に暮らせたことに
毎日感謝の祈りを捧げ
導きと許しと助けを請うのだという

私は突然 
それまで窮屈さにもがき嘆いていた しがらみから解き放たれる
しがらみが
自分の心の鎧であり武器でもあったのだと気付かされる
あらゆるものに対する無力さと
赤子のように無防備なエネルギーとを同時に感じていた

「あなたは何者であってもよい」と
喧騒が奏でるのを聞いた

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