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【詩】見送り

見送り

十三階の窓から見送る
スクールバスを待つ娘
大きなバックパック できたてのお弁当 水筒
通りの向こうを確かめながら
私を見上げ手を振る

さっき 慌ただしさの中で
中途半端なあくびのようにもどかしく
制服の腰紐をリボン縛りしていた小さな指先が
今は遠くでひらひらと踊り 投げキッス

ゴシック式のバルコニーに一羽の鳩がやってくる
ぽったり佇み首をクックッと小気味良く伸ばしては
無垢な丸い目で一緒に娘を見下ろす
翼を持つあなたにそっと教えてあげましょう

黄色いバスの屋根に向かって目を閉じる
心も身体もずっと守られていますように

バスが行く 
そして食器を洗う 
丁寧に 
ひとつひとつ拭く 
心を込めて
娘のために 
祈ること以外なす術のない時間が
どんどん増えていく私の
泣き笑いに満ちた日常の 
儀式を

(2006年 ムンバイ)

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