【詩】魚さん
魚さん
シンガポール人だった彼は
帰化して「魚」さんになった
母国語の名前の音が魚と富を意味し
縁起がいいからとのことだった
日本人の奥様は40歳で妊った
「卵じゃないわよ」と笑った
ご夫妻は
静岡の海沿いの町に魅せられ
身寄りのない地に躊躇わず移住した
ガラス温室のメロン栽培に夢中になり
独自の品種を開発した
パートの年配女性と和む
濁りを知らない海水のような地元人になった
「捨てたわけではない
新しい衣を纏うことを選んだ」と
太陽に目を細める彼は
変わらぬ彼自身のまま
ビルのない豊かさの中で培われる笑顔
陽焼けした皺がまぶしい
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