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エジプトの蜜蜂が呼び覚ました記憶

エジプト入りした翌日は体調を慣らすため、予定のないvoidの日であった。遅めの朝食で隣り合わせたラクソーというナイルの上流の街に住む女性と話していたら、彼女は蜜蜂とコミュニケートし、そのヒーリングエネルギーを授かっているのだという。蜜蜂といえば、エジプトではミイラと共に紀元前に埋葬された蜂蜜が発掘されているし、象形文字にも蜜蜂がたくさん描かれている。蜜蜂、インフィニテイ、蜂蜜の薬効、蜂のダンスと音。キーワードが琴線に触れて、彼女のセッションを受けることにした。旅は普段なら躊躇いや懐疑心が出てくるところを一っ飛びさせる勢いを持たせてくれる。

宿の私の部屋では、彼女が録音したという蜂ダンスの音がバックグラウンドに流される。横たわって目を閉じ、口には含まされたエジプトの蜂蜜の独特な風味が広がる。彼女の手のひらで息を引き取ったという蜂の亡骸が喉、額、そして胸に生命の象徴であるアンクと共にのせられる。

ブンブンブンと絶え間なく果てしなく続く音。最初は耳障りではないかと思ったが、意外なことにうるさくは感じられず逆に、その音は私を深い瞑想状態にいざなってくれた。その後は意識と無意識の合間を漂うように時間が流れ、ベッドに仰向けに寝そべった私は目を閉じたまま、現実のこの部屋にはあるはずのない、真上にある窓から差し込む光を見ていた。窓は蜂の巣房の六角形のようだ。意識の目でさらに見つめていると、それは未来にも過去にもつながっているようで、、。

その窓は、16年も前に訪れたスペインのアルハンブラ宮殿の6角形の天窓だった。そして私はその窓を遠い昔にも見たことがあった。今世ではない昔に。アルハンブラ宮殿を訪れた若かりし日の私には過去生などという概念には馴染みがなく、ただその宮殿にとても惹かれたのを覚えている。宮殿の外をそぞろ歩きし、街の小さなレストランで外の席(赤と白のギンガムチェックのクロスがかかった丸テーブル)に座ってワインを飲みながら見上げたアルハンブラ宮殿の砦や、街角で投げ銭パフォームされるフラメンコに懐かしさを感じて不思議だった。あれから月日は流れ、2022年にここエジプトという異郷で蜂が呼び覚ましくれた記憶。アルハンブラ宮殿の戦さの歴史や建築様式に残されたイスラム文化の濃さと、それに感じた不思議な懐かしさが、エジプトのモスクから流れるアラーへの祈りを耳にしたことで思い出されたのかもしれない。

これは一体どういう意味なのだろう?エジプトの旅の初日に何故私はこの記憶を取り戻したのだろう。6角形の天窓とそこから差し込む光。その意味を、私はその後の2週間の旅を通してエジプトという地と、そこに宿る大いなる存在から感じ取って行くことになる。

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