PNMJ もくてき

俺がまだ小さい時。

じいちゃんは、ちやほやされていた。

駅中で始めた無農薬の地元野菜をメインにした

ジューススタンドは、その味はもちろんのこと、

洗練されたデザインの容器や

シンプルだけどお洒落な店構えで

メディアに取り上げられたり、芸能人の

おすすめをもらったりして、瞬く間に人気店と

なり、何店舗も展開する盛況ぶりだった。

店舗の数が増えていくと多くの人が店に

関わるようになる。

じいちゃんは細かなノウハウやマニュアルを作り

店の従業員は家族だと思っているなどと

雑誌のインタビューに答え、

店舗展開の成功を語る講演会などに呼ばれたりもしていた。　

不在の時間が増えると

少しずつ、店の味は落ちていった。

任された人達の中には

仲良しの農家さんの仕入れをねぎろうとしたり

遠くからきた果物をねぎらうことを疎かにしたり

じいちゃんが絶対にしないことを

簡単にしてしまう人も出始めた。

そんなある日。

じいちゃんは、雷に打たれる。

じいちゃんに雷を落とす人はただひとり。

にこちゃんである。

じいちゃんは、今日も取材があると

その日もおめかしをして出掛けようとしていた。

にこちゃんは、一言

断れ。と言ったそうだ。

そして、飲めばわかると、じいちゃんの店で

その日作られたジュースを飲ませた。

じいちゃんは、飲んで一口で気づいたそうだ。

これは、俺のジュースではないと。

甚平、お前の目的はなんだ。

店をやる時に、自分の目利きした野菜や果物で
人を元気にしたいと言ったのは、嘘か？

店を増やして、実業家にでもなったつもりか？
実業家になりたいとは一言も聞いてないが。

ん？有名になって多くの人を幸せにしたい？
ふざけるな。

まずは目の前のお客さんを幸せにするべきだろ。
目の前のお客さんの後ろに、まだみぬお客さんを
浮かべていれば、ジュースの力は分散する。

甚平は消費されている。
あなたの店のためだと持ち上げられて、
名前とありようを提供して、エネルギーを
吸い取られているんだよ。

消耗すれば、自分のジュースは作れない。
人を信じるなんて言葉で誤魔化して、
家族だなんて口当たりのいい言葉で
従業員のメンテナンスも怠って、
このジュースを今、
誰かの今日に手渡しているんだよ。

甚平、それで本当にいいのか？
ちなみに、私はぜんぜんよくないよ。

にこちゃんの啖呵は怖い。

普段のにこちゃんとのギャップがさらに

その佇まいに凄みを加える。

じいちゃんは、その日以降、全ての

マスメディアへの露出をやめた。

店は駅中の1店舗を残し、全ての従業員を

解雇し、店を畳んだ。

働いていてくれた人達の、次の職場を探したり、

じいちゃんのジュースの作り方を教えることも

厭わず、欲しがるものは全て手渡したそうだ。

パートさんであれ、バイトの学生さんであれ

次の道の入り口まではきちんと見送り

始末をつけた。

じいちゃんは、

自分の信じた野菜や果物の力で

誰かを元気にしたい。という入り口に帰ってきた。

じいちゃんの流行らせた店の名は

Jin という名前だった。

甚平のじんではなく、仁子のじんだ。

まずは仁子ちゃんを幸せにする

ジュースを作るから。

じいちゃんは、店を始める前に

にこちゃんにそう言ったらしい。

駅中に一軒店を残した時には、

にこちゃんに、もう私の名前は使うなと

くぎをさされたらしい。

仁義の仁子の名を二度と汚すな！なんて

言うんだよ。怖すぎだろ〜とじいちゃん。

汁の店はこうして今がある。

評価はいらない。

名声はいらない。

お金はそこそこあればいい。

目の前のひとを幸せにしたい。

この出会いに感謝したい。

あなたの元気に寄与したい。

Jinの店はキラキラしていた。

汁の店は冴えない。

だけど、俺は引き継ぐのであれば

汁の魂だと思っている。

じいちゃんは、あの頃を失敗だと言う。

にこちゃんは、あの頃を寄り道だと言う。

ちなみににこちゃんの人生の目的は

甚平を幸せに導くこと。だと言う。

結局、1番かっこいいのは、いつだって

にこちゃんって話。

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#おはなし
#レシーブ緒方さん