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劇場 天丼 帰り道


その人は美しい人だ。

私の中の辞典には、容姿端麗の項目に

(例)でその人が掲載されている。

高校の同級生である彼女と、何がきっかけで
仲良くなったのか。

タイプも違う。部活も違う。品性が違う。

それでも、互いに映画が好きだった。

お芝居も好きだった。

フリーペーパーを作る友人が真ん中にいたかな。

書くことも好きだし、本を読むのも好きだった。

拾い上げたら仲良しの種はあちらこちらに転がっていた。

ある日。

私が好きな石井隆監督の映画に

彼女の好きな根津甚八さんが出演していて

一緒に観に行った。

ヤクザで仁義でアクションな映画を一緒に見てくれる友達は貴重だ。


結果、二人揃って椎名桔平さんにメロメロになる。

まだ若く、知名度は今ほどではなかった椎名桔平さんは、本当に閃光のようで、帰り道、その素敵の理由を2人で数え上げた。

あの日の新宿の夕暮れのざわめきと、映画の余韻は、身体の奥にいまだ揺蕩っている。

また、別のある日。

私達は下北沢にいた。

なんとなく制服だったような気がする。

竹中直人さんのお芝居が上演されていた。人気がありチケットは完売だった。どうしても観たい私達は当日券に並んでいた。

本多劇場は憧れの場所だった。

そこで私達が大好きな竹中さんのお芝居が見たい!とウキウキしていた。

あれは、抽選だったのか、もしくは並び順だったか、今となっては定かではない。

ただ、私達はたった一枚当日券を手に入れた。

2人で観られないのなら。

多分並んでいて1人で来ていた別のお客さんに、
譲った気がする。

しばらく粘って、誰かもう一枚譲ってくれないか?なんて頑張ったかもしれない。

それでも、どうぞと譲ったあとは、なんだかスッキリした。

あの時、まだチェーン展開を始めたばかりの

天やで2人で天丼を食べた。

えびもあなごも大きくて、野菜がみんなパリサクで、こんな美味しい天丼が私達のお財布でも食べられるのか!と感激した。


私は今も、下北沢や天やを見るたびに彼女を思い出す。

椎名桔平さんの活躍を目にするたびに、2人で観た
GONINという映画と新宿をおしゃべりしながら歩く私達がちらりと横切る。


彼女と会って帰る頃になると、いつも無性に寂しくなった。

帰りの電車で別れる駅が近づいた時。

私はいつも本当に寂しくて、まだ着かないで欲しいと思って、沢山おしゃべりした。

プシューと扉が開き、彼女がホームに降りて手を振る時

本当に少し泣きそうになる。

電車が発車してしばらくすると落ち着くのだが、
今でもバイバイは苦手だし、だから一切振り向けない。

一度、彼女が駅のホームだったか電車だったか

なんか寂しくて悲しいから少し一緒に乗っていこうかな。

と言ってくれたことがあった。

ちょっと送るよ。みたいな言い方をした。

お喋りが楽しくて。2人の時間が心地よくて。

えー!!いいの!!本当に!!

私はきっと子供みたいに喜んだと思う。

そしたら、私も送るよ!!

というと、

そしたら永遠に帰れないよ。と笑っていた。

あの日の彼女の優しさを今もぎゅっと大事に持っている。


私だけが楽しいのではないことを、こっそりはっきり教えてくれた。

バイバイが同じ分量寂しいだなんて幸せでしかない。


昨日、荷物が届いた。


容姿端麗は、字にも波及している。


彼女の字から彼女が浮き上がり、文章から滲み出る。


プレゼントには彼女が詰まっていて、いつでもその心意気とセンスにため息が出る。


好きなものだけ入っていて、心が綻ぶものだけを
詰め込んでいた。


ありがとう。もう。いつもステキなんだから。
隣にいたらちょっと小突きたい。


私には容姿端麗な友人がいる。


その人は、私にとって

劇場と天丼と帰り道にいつも浮かび上がる人だ。




この武将、嫌いな人いないよね。

#日常
#エッセイ
#友達のこと

お気持ちありがたく頂戴するタイプです。簡単に嬉しくなって調子に乗って頑張るタイプです。お金は大切にするタイプです。