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今しか雨は似合わない

それは高校2年生か3年生の文化祭の準備の時だったと思う。

1年生ではなかったなと感じるのは、私の記憶の中の私が伸び伸びしているからだ。

高校生になり、1年生の時から伸び伸びできるような健やかな娘ではなかったことに自覚があるので、高校生が板についたころだったと思う。


私は自宅から電車で30分、駅から学校まで歩いて30分ある県立高校に通っていた。創立から日が浅く、若くて自由な校風の学校だった。


普段校内でも厳しいことで有名な部活のマネージャーをしており、毎日部活があったから、行事の準備にもなかなか顔を出せなかったし、祭りの当日に全面に出てパフォーマンスをするような器量や度胸も持ち合わせていなかった。

クラスメイトはいろんなタイプの子がいたけれど、それぞれの持ち味や思考の個性、大切にしているものなどを、みんながみんな尊重していたように思う。

正しいを押し付け合ったり、尖った個性を攻撃したりすることもなく、人それぞれが当たり前なところがあった。今考えるとなんて大人だったんだと思う。

文化祭の準備で、部活がお休みだったのか、今となっては記憶もあやふやだが、その日私は久しぶりにクラスに貢献できるため張り切っていた。

みんなが喜ぶ顔を見るのが好きだ。そのために頭や体を使うことが好きだった。

書いていて思い出したが、民族衣装のファッションショーをした時かもしれない。舞台を作るのに大きな段ボールが必要だった。

大きな段ボールがもらえるところと言えば、駅前の電気屋さんで、学校からはかなり距離がある。

「行ってくるよ」と言ったのは私と陸上部に所属していたMちゃんで、

Mちゃんは子リスのように黒目がクルリとして小柄だけど俊敏な女の子だった。

何とも言えないかわいらしい声の持ち主でもあった。

普段それほど仲良しでいたわけでもないけれど、Mちゃんは誰にでも同じ温度で声をかけ、優しさをそうっと渡す子だったから、私は一緒に行くのにベストパートナーを得た!と気持ちも弾んで、友達の自転車を借りて元気に出発した。1台に二人乗りで向かった。でっかい段ボールを自転車に乗せて帰りは押して帰る戦法だ。行きの時間だけ短縮する。

思えばあの時の空は、もうすでにどんよりとしていて、遠くには薄暗い雲が

顔を見せていた。駅の方角はうっすら青空もみえて、どっちつかずな空だった。おしゃべりしながら、電気屋さんに向かった。

電気屋さんは、思ったよりも大きな段ボールの在庫がなく、しかし店員さんは親切で裏に通してくれて好きなものを持っていきなよと言ってくれた。

これならいいかといくつかを選んで、元気にお礼を言って店を出た。

その頃には、先ほどよりもさらに雲行きは怪しくなり、どこからともなく雨のにおいもしてきた。

「これ降るねえ。早く帰ろう!!」段ボールを自転車に乗せて、押さえながら早歩きした。

学校まであと3分の1ぐらいのところまできた頃、ぽつりぽつりと当たり出した雨は急に勢いよく、振り出した。

「えっ?もしかしてこれスコール?」雨の中を急ぐ私たちは余りの雨足の強さに、徐々に濡れて重くなる制服のスカートに、困ったなあとか嫌だなああとかではなく、なんだか愉快な気持ちになった。

「こんなことあるかなあ、こんなふることあるかなあ」空を見たら雨はまっすぐにこちらに向かってきている。

私もⅯちゃんも二人で顔を見合わせて笑った。びしょ濡れで自転車を押している。せっかくもらった段ボールはびしょ濡れだった。使えるかな。

2人でなんだかおかしくて笑いながら急いだあの雨降りの道で、高校生の私は、

「一生で一番雨に濡れることが似合うのはきっと今だな」と思ったことを忘れない。

小学生が雨に濡れていたら、かわいそうだ、傘を貸してあげたいと思うだろう。

今の私が傘もささずに濡れていたら、準備が悪いみすぼらしいおばさんに見えるだろう。

でもあの時の私たちは、かわいそうでもみすぼらしくもなくて、ただただご機嫌で愉快に駆けていた。

濡れることの不愉快も、寒くて体の具合が悪くなるのではなんて心配も、全部跳ね返して駆けていた。

学校に到着するころ、雨は降りやんで、ずぶ濡れもずぶ濡れの私たちを見たクラスメイトはみんな驚いて、次々にタオルやら着替えやらを貸してくれて、私たちの復旧に全力を傾けてくれた。

段ボールはよく拭いて教室の後ろに立てかけた。この日は使い物にならなかったけれど、それを咎めることも文句を言うこともなく、干しときゃ乾くよ使える使える!と言ってくれたクラスメイトを忘れられない。

Mちゃんとあの時にどんな話をしたかは覚えていないのだけれど、あの時のMちゃんの笑顔は今も思い出すとチャーミングで眩しい。

雨の日に車を走らせているときに、雨に濡れながら目的地に急ぐ高校生を見かけることがある。

傘がなくてかわいそうとは思わない。雨にぬれて似合うのは今だけだよと心の中で声をかける。濡れた制服のにおいを思い出す。

雨降りのお話を読みました。そのお話はとてもしっとりと美しく、少しスモークのかかるような思い出で、私はうっとり読みました。

skyfishさんのこの投稿を目にして、高校生の私が私のところにやってきました。雨降りのあの日の私を覚えているでしょ?と言われました。


見出しは仲良くさせていただいているneLcoさんのお写真です。neLcoさんの写真がとても好きで、この加工が私には不思議で魅力的でグッときます。

大好きなお二人の力を借りて、あの日の私に送るnoteです。

skyfishさん、neLcoさんありがとう!!!







お気持ちありがたく頂戴するタイプです。簡単に嬉しくなって調子に乗って頑張るタイプです。お金は大切にするタイプです。