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PNMJ せいかつ


じいちゃんの思いつきのような提案は


家族を大喜びさせた。


普通、誰か1人ぐらい止めないか?


17歳の中退の俺には無理だとか


考え直して別の学校に行けとか、あるよね?


りょうた、よかったなあ。


あの店もらえるなんて、ラッキーね!


父親も母親も、ねーちゃんも。


俺はどうしたいか?なんて聞かずに


じいちゃんちに引っ越す準備を


手伝ってくれた。


とは言っても持っていくものは、殆どない。


だから、家族がしてくれたのは心を


羽ばたかせる準備だ。


俺の好きなごはんを食べさせてくれた。


気持ちの良い清潔な布団で休ませてくれた。


みんなでごはんを食べて、りょうたなら


あの店を切り盛りできると盛り上げた。


じいちゃんちに行くだけだから と思って

いたけれど、あの日、俺は確かに家を出たんだ。


母ちゃんは笑いながら泣いていて手を振っていた。

行ってきますと言って、前を向いてから振り返ることはしなかった。


だから、それは そういうことだ。


じいちゃんのうちにはばあちゃんがいる。

ばあちゃんは仁子という。

じんこという名前だが、小さい時から

にこちゃんと呼んでいる。

明るくてひたすら働き者のばあちゃんは、

初日からガンガン俺を働かせた。

掃除、洗濯、ごはんの支度。


「りょうたは、いい!!なんもできないから

にこちゃん色に染めちゃうぞ!!」と

にこにこしながら、テキパキと指示を出す。

なんもできないからいいとかある?

にこちゃんは、俺のことを

伸び代しかないし、

りょうたの空っぽんとこは、柔らかいから

なんでも入って面白い。と笑う。

「にこちゃん、褒めてんの?けなしてんの?」

と聞くと

「真実だけを話してんの。」

と言う。 目がまじ。 目力半端ないから。


「にこちゃん、俺が来て迷惑じゃない?」

と聞くと

「楽しいしかない」

と笑う。

「りょうたと暮らすなんて、人生のご褒美だよ」


俺はにこちゃんのご褒美になれんのか。


学校を辞めたことが、ずっとずっとずっと


自分を傷つけていたことに初めて気づいた。


ああ、俺はこれから。


自分で自分を作っていくんだな。


じいちゃんやにこちゃんに力を借りながら


今を作っていくんだな。


にこちゃんは、こっそり俺の心に


絆創膏を貼ってくれた。


もう、治るしかない。


身体を動かせ。汗を流せ。飯を食え。

身の回りを整えろ。

見ている景色を焼き付けろ。


2人は言葉は違えど繰り返し繰り返し


俺にそう伝える。


そんなことを言われて、

反抗できるほどの器量がない自分を


俺はかなり好きだと思った。 



りょうたの全てで生きてみろ。


そう言われていたのかも知れない。


慣れない家事も畑仕事も、嫌だと思う暇が


なかった。空っぽがうまっていくことに


なんとも言えない安堵があった。


じいちゃんとにこちゃんは、まず、俺を


2人の生活に馴染ませることから始めた。


暮らすことではじめてわかることもある。


俺が、じいちゃんとにこちゃんの暮らしに


なんとなく参加していると自覚ができた頃


じいちゃんは言った。

夕飯のカレーを食い終わり、テレビでは

野球の中継が流れていた。


「りょうた、明日から店も手伝ってくれよ」


にこちゃんが、笑う。


「とうとう、私のりょうたが、みんなのりょうたになる日がきたか。」と。


じいちゃんが言う。


「大丈夫だ、じんこちゃん。俺はいつでも
じんこちゃんだけの甚平だよ。」


にこちゃんは、全く聞かずに、カレーの皿を
台所に運んでいった。


テレビの中では、怪我を乗り越え復帰した


選手がホームランを打っていた。


つづく


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