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築地のうなぎ

*本記事は、以前、自身のブログに掲載したものを編集し直して、noteに投稿しています。

私の両親は、大のうなぎ好きである。父と母、共通のうなぎのガイドブックなるものがしっかりと頭の中に存在していて、うなぎを食すことを目的にあちこち車で出かけている。

そんな両親が探し当てた今までで最も美味しいうなぎのお店は、“日本の台所” 築地場外市場にある。私も時々連れて行ってもらい、贅沢な蒲焼を堪能する。また、外国から友人が東京に遊びに来る際は、ちゃっかり自分のおすすめのお店として案内していた。

そんなうなぎ屋さんのある築地は、平時は観光客でごった返しまっすぐに歩けないほどだ。しかし、多くの飲食店が営業を一時休止していた期間は、築地も例に漏れなく静まり返っていた。ゴールデンウィークにもかかわらず、閑散としている場外市場の前を、独り自転車で通り過ぎるのは、なんとも詫びしかった。

ところが先日、早朝に自転車で場外市場前を通ると、例のうなぎ屋さんが大通りに面したところに屋台を出していて、その前に人だかりができていた!そう、その日は土用の丑の日だったのだ。おそらく、事前にうなぎを予約していた人が取りに来ていたのだと思う。

その人だかりを見て、私は少しほっとした。家の中だけにいると、季節の移ろいを感じにくい。今年の春はお花見もできなかったし、私自身、梅雨になればこれ幸いにとステイホームを逆手にとり、雨の中わざわざ出かけはしなかった。

しかし、家でも季節を楽しめるものがある。それは旬の食べ物。多くの人が土用の丑の日のためにうなぎを心待ちにしてとりに来たんだなぁ。そう思うと「人と人とが、同じ季節を分かち合っている」そんな一体感のようなものが、その人だかりから垣間見ることができ、私も高価なうなぎは買えないけれど旬の野菜をスーパーで買って帰ろうかな、と思ったのである。

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