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バレエ指導者向けの法律講義

はじめに

今春開講されるバレエ安全指導者資格ティーチャーズコース(第2期)で法律の講義を担当することになりました。そこで、今回は、バレエ安全指導者資格と、私の担当する講義のテーマについて、簡単にご紹介したいと思います。

バレエ安全指導者資格とは

バレエ安全指導者資格は、2021年に発足した新しい資格です。詳細は運営団体(セーフダンスアソシエーション)のウェブサイトをご覧ください。

バレエの資格というと、もっぱらバレエの技能や教授法を学ぶことをイメージされると思いますが、本資格は「安全」「安心」「健康」をコンセプトに、バレエダンサーや指導者も、趣味でバレエを習う人たちも、幼少期から高齢期まで、誰もが安全かつ健康にバレエを続けられることを目指しています。芸術面や華やかさが注目されがちなバレエにおいて、バレエを踊る人の健康や安全を主眼を置いた講習は、とても画期的だと考えます。

私自身、法律の専門職として種々の事案を見聞きしてきて、「安全」の重要さは強調しても強調しすぎることはないと考えています。また、子どもの頃に通っていたバレエ教室で、今から振り返ると危険なストレッチや上半身の反らしを行わされ、最終的には足のケガをきっかけにバレエをやめたという経験があります。このような経験から、本資格の土台となっている関係者の方々の思いに大いに共感しています。

さて、コースの内容は、公式のウェブサイトの「コース紹介」の時間割を見るとわかりやすいのですが、バレエ以外の専門家による座学の占める割合が大きく、かつ、整形外科医、スポーツ医、産婦人科医、理学療法士、栄養士、そして臨床心理士まで幅広いプロフェッションが参集しているのが本資格の際だった特徴です。時間割を見たときの私の第一印象は「ゴージャス」の一言でした。

バレエの華やかさの裏にはダンサーの重い負担があります。ダンサーは身体を酷使し、疲労やケガが絶えません。また、痩身でなければならないというプレッシャーもつきまといます。女性ダンサーの無月経など、スポーツ界で懸案されているのと同じ問題もおきています。本来、ダンサーの心身のケアがもっとはかられるべきなのに、残念ながら現状は、十分であるとはいえません。

加えて、アマチュアや趣味でバレエを習っている生徒に対しても、経験(バレエ経験だけでなく、できればバレエ以外の運動経験の有無やその年数にも目を向けていただければとは思います。)や年代、さらには当日のコンディションに応じた適切な指導が意識されてしかるべきでしょう。筋肉や骨の発育が途中段階の子どもや、筋肉量や骨密度が減ってしまっている高齢者が、健康でバレエ経験の長い若年者と全く同じレッスンをするのは無謀です。

本資格は、このような問題意識を基に作られました。

私の担当講義

本年4月開講のティーチャーズコース(第2期)で私が担当するバレエ指導者向けの法律の講義の内容に少し触れておきます。今回は、本資格のコンセプトに沿って、もっぱら生徒の「安全」の確保ためにバレエ指導者の方に知っておいてほしい法律の基礎知識をお伝えする予定です。

バレエの指導者は、バレエの専門家として、生徒の安全に配慮した指導を提供する法的な義務があり、それを怠って生徒がケガをしてしまったようなときには、指導者には賠償責任が生じると考えられます。もちろん、指導という名目があっても、ハラスメントが許されないことは論を待ちません。さらに、ソーシャル・メディアが普及した現代においては、生徒の肖像権にも一層のご配慮をいただきたいところです。このようなことを、基本的な法律の条文やスポーツ分野の裁判例などを紹介しながら、具体的にお示ししたいと考えています。

もちろん、上記以外にも、さまざまな場面で種々の法律問題が絡むのはご案内のとおりです。バレエの公演(プロの有料の公演に限らず、子どもの発表会であっても)を開催する場合、まずは、振付け、楽曲、舞台芸術等についての著作権やダンサー、演奏者ら実演家の権利、レコード製作者の権利(著作隣接権)等を侵害しないよう留意する必要があります。また、教室運営においては、スタジオの賃貸借契約、アシスタント講師との雇用契約または業務委託契約受講する生徒との業務委託契約等、通常の事業を行う場合と同様に種々の法律関係が生じます。生徒向けに約款を作成している教室も増えつつありますが、法的に有効とならないような問題のある条項も散見されます。このような法律問題に関する知識も、指導者の方にとって有用ですし、大切です。ただ、このようなより実務的な法律問題の解説は、他の機会に譲りたいと思います。



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