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白いクルタの着こなし方

白い上下セットのインドのクルタ。足元はシュッと細身でトップスはゆったりふんわり長い。腕は細身で、立ち襟というのか胸元から首元までボタンがついている。このクルタのデザインがとても素敵で、私が入院していた病院で男性用室内着として支給されていたのだが私もお願いして1セット支給してもらった。(女性にはカラフルな女性用室内着が支給される)

手元に来た白いクルタは思っていたよりも薄手で、何か下に着ないと体の線が透ける(なぜこんなに透ける素材で室内着を作るのか本当に不思議)。胸元のボタンは糸で布に縫い付けるタイプではなく、二つのボタン穴に凹凸のあるピンのようなものを通して留めるタイプだ。足首のあたりの生地にはボールペンで何か印を付けたような後が残っている。ディテールのかわいさと雑さの同居が何やらまた愛おしい。

なんにせよ、パンチャカルマの先輩方が着ていたその白い服がカッコいいなー、いいなー、と思っていたので、いよいよ着れる時が来た!と嬉しくなる。1人で着てみると案の定かわいくて、ニヤニヤが止まらない。

このかわいいクルタで過ごそうと思い、いざ室外に出てインド人スタッフたちと行き交ったりするが、そのうちなんだか自信がなくなってくる。(インドのドレスコードが分からないけど、女性が男性用の服を着るのはもしかして問題だったりするのか?「けしからん」とか思われたりする?)と、一介の入院患者が急に周りのスタッフの目を気にし始める。

だがそもそも男性用クルタを女性が着たら問題になるのであれば病院スタッフは私にこの服を支給しなかっただろうし、問題ないはずだと思いなおす。それでもこの服を来て室外をウロウロするだけなのに、後ろめたさのようなものが背中をべったり覆う。白くてかっこいいクルタへのワクワクは、なんだか部屋を出ただけでしょんぼりとなりを潜めてしまう。

そんなこんなで、なんだか遠慮がちにしか着れなかったクルタなのだが、日の目を浴びる時が来る。ある日、お掃除隊の一人が白いクルタを着ている私をみて、「あれ、クルタじゃん、めちゃいいじゃーん、似合うよー、NICE👍」と言ってくれた。彼女は英語はほとんど喋らないので断片的な単語とジェスチャーでのやりとりなのだが、何度もナイス👍と言ってくれる。白いクルタを着てることを褒めてもらったことが本当に嬉しくて、以来開き直ってクルタを着回すことができるようになった。

私が堂々とした気持ちでクルタを着ていると、それまで気になっていたインド人の目線は全く気にならない。それどころか、「あら、クルタじゃない、素敵ね」とキレイなお姉さんがニッコリ笑ってくれたりする。(言葉は交わしてないので私の脳内変換なのだが)

なんとも不思議である。外国に行くと感じる自由さの一つに「自国の文化コードを気にしなくて済む」ということがあると思うが、今度はわざわざインドの文化コードをしょいこもうとしていた。「白いこのクルタはインドでは男性が着るものである」という豆知識がなければ、それはただただ素敵なデザインの服なのだ。結局のところ、どこにいようと自分が自分のやることに許可を出しているのかいないのか、それだけなのだなぁ…

ところで病院滞在中に「少しフォーマルな場面」というのが何度かあった。インドの独立記念日セレモニーなどである。そんな時、私としては一押しの白いクルタを着て行こうとするのだが、スタッフからは「違うのに着替えなよ、そんなパジャマじゃなくてなんかもっといい服ないの」と言われ、女性用館内着をすすめられる。だが、白いクルタが可愛くて着たい私は譲らない。

そんなに大好きに思っていた白いクルタだが、日本に持って帰ってきたもののなんだか出番があまりない。ところ変われば見え方も変わってくる。でも、自分なりの「かわいい」を養ってきた私は、これまでどうしても後ろめたくて入れなかったメンズ服エリアで買い物ができるようになってきた。メンズ服のシンプルなデザインが、サイズ感が、とてつもなくかわいい。「かわいい」に忠実でいようとすると、私の漁場はメンズ服にも広がる。これまでレディース服にしかなかった私の選択肢が、またたくまにメンズ服にまで広がる。その広がりが、とてもとても清々しくて楽しい。

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