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「嫌韓メディア」と罵るけれど「リベラルメディア」はすでに敗けているのでは

日韓のもめごとについて知ろうと思ったら…

『週刊ポスト』の韓国批判特集が批判されたのに続き、9月6日の朝日新聞は《過熱する韓国報道、底流に何が 情報番組「視聴率高い」》と題し、テレビ番組の嫌韓論調に物申しています。

確かに、嫌韓本、嫌韓雑誌、TV批判、確かに右寄りの私でも「またか」と思うこともあります。というか、「もうさすがに嫌韓ネタも出尽くしただろう」と思った頃に現在のようなリアル政治のもめごとが起きたわけですが。

しかしこれだけ日韓関係が沸騰すると、普段ノンポリで政治的な話など全くしないような人たちが、右寄りの私でも驚くような反応を示すこともあります。「まったく、韓国ってのは何なのよ」と。これをワイドショーのせいだけにはできないでしょう。実際に政治的軋轢はあるのですから。

また、これまでほとんど知らなかった情報、例えば軍事情報保護協定:GSOMIAについて、「あれは大事なの? どうなの?」と思い、知りたいと思う人たちが出るのも当然。

「実際、どうなの」と思い、心ある方は情報を求めて本屋に行く。あるいはamazonで検索するかもしれません。「いま」の話題だから雑誌かなと雑誌を見て、「韓国」「日韓」の見出しがあるものを選ぼうとしたら、右派(保守)雑誌しかないわけです(そもそも左派雑誌自体が少ないのですが……)。

だからこそ、その影響力を考えろ、責任を持てという話にも当然なるのですが(その話はこちらをご参考ください)、一方で「では、現在の日韓関係を整理した、嫌韓でない読みやすい媒体があるのか?」と言えば、そう簡単には見つからない。日韓がもめだして結構経ってるんですがね。『週刊朝日』や『AERA』も、表紙を見るに日韓関係を特集している気配がない。

例えば9月6日発売の岩波書店『世界』は日韓関係を特集していますが、タイトルは「日韓関係の再構築へ」。タイトルを見る限りでは、「いやいや、まだいまの問題の経緯が分からないから知りたいのですが」という人は置き去りの「再構築」ありきに見え、「そもそもどうなの」って人のニーズには「答えてくれなそう」な門構えです(しかも発売後なのに、amazonに至っては表紙画像すら更新されていない。前号も仮画像がはまったまま。売る気があるのか?)。

読んでみたら、韓日議員連盟会長の姜昌一議員のインタビューなどもあり勉強にはなりましたが、取り合わせも含めて、正直「通好み」の誌面。ここに、「リベラルメディアの思考停止」を見てしまう。読者の「なぜ?」を掬わず、あるべき姿だけを提示しようとする姿勢が透けて見えてしまう。

もちろん、嫌韓派に「断韓だ!」という結論を推してくるものはありますし、「韓国が悪い」という結論を求めて買う人もいるにはいる。それでも、左派のものは数が少ないうえに、「未来志向で」「大人になって」「加害者(日本)は謝り続けるべき」というお決まりの結論なんだろうなと思うと、読む気もしない人が多いのではないか。

いや、結論はそうであっても「そこに人々の気持ちを持っていくまでの工夫が足りない」のでは。amazon上の雑誌の扱いを見ても、「ひとりでも多くの人に読んでもらいたい」「こんなに面白い記事が載ってますよ!」というアピールさえ、なされていないわけですから。

その点、「そもそも『徴用工』問題って何?」と表紙に銘打った『週刊金曜日』は、読者からの「そもそも論を知りたい」との声にこたえたものだそうで(編集長後記より)、時宜にかなっていると思います。もともとは安倍外交を評価していたという東郷和彦元外交官を登場させているのも、意見の幅があってよかったのではないでしょうか。

……この号をリベラルは「買って応援」してくれるのだろうか? 

リベラルは「お高くとまっている」

「売れるからって憎悪を煽りやがって」と反嫌韓本派は言い、その懸念は一部、分からなくもありません。が、リベラルメディアは「どうしてこうなった?」という読者の疑問を見据えて、それに応えているのかと言えば疑問。「賢い人の考えた日韓のあるべき姿」「とにかく日本は大人になって~」では飽きたらない人たちの受け皿がないのでは、と疑問に思うのです。

実際、私も「嫌韓ではなく、しかしお決まりの結論になるだけじゃない、あるいは右も左も様々な論が載っているムックや読みやすい新書なんかがあったら、読みたい」と思いますし、読んでためになれば(自分の思う結論とは違っても)人に勧めもすると思います。

某「反ネトウヨ」ジャーナリストがある本で、「右派の本は粗雑な分、どんどん出る。リベラル側もお高くとまってないで出さないと」という趣旨のことを述べていました。粗雑、と言いますが、どんなものであれ本を一冊書いて出すとなれば、手間も経費もそれなりにかかるわけです。

「(ジャーナリスト氏が言うところの)嫌韓本がどんどん出てしまう」というのは、言い換えれば「機を見て動く」点において嫌韓勢力のほうが優れているのであり、あるいは読者のニーズを掬って速攻でそこに当てていく、という熱意やシステムの点、読ませる「工夫」の面で、リベラルが敗けている、その面をもう少し真剣に考えた方がいいのではないだろうか。いま、日韓関係を解説するリベラル基調の緊急増刊号などが出ていたら、それなりの需要が見込まれたと思うのです。しかし出ていない。

もちろん、複雑な問題を単純化すればいいって話ではないし、良質な本はそれなりに時間がかかる、というのも当然です。が、「徴用工問題ってそもそもどうなの」と思って本屋に行く、あるいはアマゾンで調べて、どれを買うか。安くて読みやすそうな本をまずは買うでしょう。先のジャーナリスト氏の言にこれはある意味賛成で、論調にしろ出し方にしろ、「いまは嫌韓モノしか売れないからなあなんて言い訳したり、お高くとまってると敗けますよ」ということです。

急げ、リベラル系出版社!

私は右寄りですが、事実であれば情報の供給源は右左どちらでもいいし、どちらの情報も世間に流通していてほしいと願っているのですが(どう受け取り使うかは自分次第なので)、どうも一部のリベラルメディアには鼻につくところがある。それは私が右だから、ということだけではないのでは。冒頭にご紹介した記事を、ぜひもう一度ご覧ください。

結局「本音を言う軽さ」「韓流エンタメ的」「俗情」だといって、今の日韓問題について知りたいという視聴者を小馬鹿にしているフシが全く隠せていないわけです。ましてや露骨な韓国擁護・日本批判はOKで、厳しく韓国批判をするのは「差別」「俗情」って、なにそれ、と思う人を、嫌韓に追いたてている面については全く顧みもしないのだから恐れ入ります。

嫌韓モノに敗けているとしたら、そういう点なのではないでしょうか。「どうして日韓はこんなにもめちゃったの? その影響は?」という疑問に速攻で、しかも読みやすく、まとめてざざっとお答えする媒体の緊急刊行を期待します。『週刊朝日』さんとかどうですか。

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梶井彩子
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