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【あべ本#33】齋藤芳弘 (文)、矢吹申彦 (絵)『嘘つきシンちゃんの脳みそ』

■「あべ本」ウォッチャーとして不覚でした

いやー、やはりコロナ禍と言えど、定期的に大きな書店に行かないとこういう本を見逃しますね。政治コーナーにこんな本が面陳されているとは! 思わず二度見しました。こんな本が出ていたことに気づかなかったなんて、「あべ本」ウォッチャーとしては不覚。

本書、当然、反安倍の方々の手になるものですが、なんかもうここまで来ると「愛なのでは?」と思いたくもなります。もはやファンブック。この本を家に置いておきたくないですよね、普通は。安倍嫌いならなおのこと、と思うのは、まだまだ私が「反安倍」の精神メカニズムを理解していないからなのでしょうか。

一体どういう執着心がここまでさせるのでしょうか。ノリは、2ちゃんねらーがやっていた「ルーピー鳩山」キャラのいじりに近いものがあります。ただ、あちらは「ねらー」ですが、こちらは本職のデザイナー・イラストレーターの方。そして一体、どういう執着心で読者はこの本を買うのでしょうか(私以外)。なんとも恐ろしい世界が広がっています。

■「脳科学者の推察」は正しいのか?

内容は、安倍晋三とは明言されていないものの、当然本人であるところの「シンちゃん」が、子供のころからいかに嘘を重ね、そのまま大人になり、総理大臣(本文中では「嘘理大臣」)になってなお、嘘に嘘を重ねてきたかが子供向け絵本の物語の調子で書かれています。モリカケだとか、桜を見る会だとか。で、「かわいそうなシンちゃんは嘘つきが治りません」的なトーンで進んでいきます。

まあ、悪趣味だなと思いつつ、まあそれはそれでいいのですが、問題は「脳科学者からの推察」と題して添えられている文章です。「自己愛性パーソナリティ障害」などという用語を引きながら「シンちゃん」の脳がいかにおかしいかを説明していますが、この文章は脳科学者が書いたものではありません。文章を担当しているのは斎藤さんというデザイン事務所を主宰されている方。せめて「脳科学を踏まえたうえでの斎藤の推察」とすべきではないのでしょうか?

本の最後の方に「ロバート・D・ヘア」の著作を参考にしたうえでの「脳科学から推察した嘘つきシンちゃんの人間性」なる解説が改めて掲載されていますが、調べる限りヘアはサイコパスなどに関する著作を持つ(犯罪)心理学者であって、脳科学者ではなさそうです。

■垣間見えるのは制作側の暗い心理

なぜわざわざ「脳科学者」の推察としているのかと言えば、「嘘つきシンちゃん(=安倍)の脳みそは空っぽだ」と言いたいからでしょう。心理学的なものではなく、「脳がおかしい」と印象付けたいために、脳科学者が推察したかのように見せたい。本書には至る所にピーマンのイラストがあしらわれていますが、これも「安倍は脳が空っぽである」ことをあてつけたいから、というわけです。

しかし……面白いですかね、これ。風刺としても特に面白くはないし、肝心なところで「安倍晋三」と書かずに「シンちゃん」としたり、「安倍昭恵」と書かずに「アッキードちゃん」としたりというのが、また寒い感じをかもしています。「安倍が嫌いで、人間として(特に学歴的に)見下したい人たちが、まったく同じような人たち向けにこれを発刊してキャッキャウフフしたい」本という感じがしますね。そういう意味での「ファンブック」というわけです。

こちらの「あべ本レビュー」をお読みいただければわかるように、私は安倍支持者ではありませんが、なにか一部の「反安倍」の人たちのほの暗い精神をむしろ垣間見る一冊だなあという感想です。

■奇妙な世界への扉はどこにでも開いている

そして本を買って帰り、アマゾンの商品ページを開いて再び驚きました。コメントが33もついている! しかも実に80%が★4以上をつけているというありさま。マジすか……とコメントを読んでいくと、どうも有田芳生議員がツイッターで紹介した模様。

こういうものを読んで喜んでいるような層である、と世間に知られたくないと思うのが一般的な心理ではないかと思いますが、「めっちゃ笑える!」「素晴らしい本が出たぞ」とあえて表明することで結束できる「反安倍ワールド」というものも世の中には存在しているのだな……と感じるとともに、「世にも奇妙な物語」のテーマが流れてくる思いがしています。

『次に奇妙な世界の扉を開けてしまうのは、あなたかも知れません……』(byタモリ)


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