家族を鬼だと思っていた。 祖父母と父母、私と妹弟の七人家族。東北の古い家は馬鹿に大きく、改築されて半分が素泊まり旅館になっていた。 様々な商売に手を出した祖父が景気の良い時に建て、景気が悪くなり無理やり改築したという、住居と旅館のつなぎ目はいびつだった。半二階の部屋や、階段の手すりを越えないとふすまが開かない部屋が日当たりの悪い中、座布団部屋として使われていた。 そんな旅館に泊まりに来る人はろくでもなく、朝気が付いたらもぬけの殻ということもよくあったらしい。私が小学生
頭上の太陽が首元を容赦なく責めつけ、流れる汗をライブグッズのタオルで拭う。 新潟県苗場で真夏に行われるロック・フェスティバル。フジロック。 「こんな大きな所で演るんだ!」 私は寝ていないテンションで出た自分の大声にびっくりする。 ライブの転換中、ライブ仲間のYとKと共に、私はステージの前方に向かっている。できるだけ近くで見たいので、BGMに体を揺らせている人達の間を抜けていく。人との間には余裕があり、ゆっくり見たいから後ろにいるよ、前で見たければどうぞ行ってね、という
シナリオ教室に見栄とプライドが渦巻いている。 佐枝と尾藤の発表の日、遅刻した尾藤は菓子折りを持って教室に入って来た。 「ほんっとすいません! 書けなくて」 半笑いの顔は日焼けで真っ黒。寝ぐせだらけの髪。短パンの足には下駄が履かれている。 佐枝はほっとした。佐枝は手土産など持って来ていない。作品の評価を上げてもらう為の菓子折りかと思ったら、書けていないだなんて。 講義が終わった後、佐枝と百合はロビーで四人掛けのテーブルに向かい合って自販機のコーヒーを飲んでいる。
耳がかゆい。 駅のホームで耳を引っ張っている。 さすがに耳かきを使うのは気が引ける。午前十時ではまだ人も多く、これだからおじさんは、と思われたくない。 しかしかゆい。 痒みが拷問なら、掻くとは拷問の中にある快楽か。拷問がないと快楽にたどりつけないのがやっかいだ。 営業のカバンの中に忍ばせてある耳かきを取り出して今ここで思い切り掻いてしまいたい。 私は耳かきが好きだ。複雑に曲がりくねった耳の穴に小さな耳かきを沿わせ、奥に向かって進んでいく。 頻繁にしてしま