りんちゃん
わたしは20代の半分を水商売に使った。
コンカフェ、ガールズバー、キャバクラ、ラウンジ、クラブ、、、
やったことない飲み屋はないってぐらい。
りんちゃんとは勤めたいくつかのキャバクラのうちのひとつで出会った。
りんちゃんは細い。すごく少食。同伴のとき困るみたい。
好きな食べ物ないの?と聞いたら斜め下を見ながら
「グミ。」
て言ってた。
タバコは吸わないのか、とわたしが続けて問うと、
「あたしグミがあればなんにもいらないの。ほんと。」
りんちゃんはすこし悲しそうだったけど食事制限ができなくてボーイさんにダイエットしろって言われてるあたしからしたらすごく羨ましかった。
指名のお客さんからよくグミの差し入れをもらってたけど実はそんなに嬉しくないみたいだった。
「気持ちは嬉しいんだけどね、グミならなんでもいいと思われるのはちょっと心外なんだ。」
「あたしにはいつものがあるんだけどおじさん達よかれと思ってコンビニの限定のとか、新発売の買ってきちゃうんだもん。わかってないよねー。」
いつものはAmazonで箱買いしてるから切らす心配はないそう。
「これ、前好きだった子にもらって好きになったの。」
りんちゃんの手にはいつもの、ポイフル大粒があった。
「その子のこともう大嫌いなのにこれは好きなんだなぁ。なんか気持ち悪いよね。でもハートポイフル探してた横顔は今思い出してもかわいいんだぁ。」
いとおしそうにりんちゃんは目を細めた。
「あたしね、ほんとは33なんだ。もうぜんぶぜーんぶおしまい。」
りんちゃんはちょっとお姉さんなのかな、と思ってたけど、酔っ払って笑った顔とか赤ちゃんみたいだったし肌もつるつるだった。
それからわたしが出勤してもりんちゃんは出勤かぶらなくて、休んでんのかなーと思ってたらいつの間にかりんちゃんのロッカーは空っぽにされててロッカーのドアにつけてたちいかわのマグネットは外されてた。
飛んじゃったんだ。
りんちゃんを指名しているお客さんはすごく多くはなかったけど全員に店を辞めたことを伝えていなかったらしい。
ボーイさんにりんちゃんはもういないと告げられたためフリーで飲んで行ったお客さんはグミをふたつもみっつも詰め込んだコンビニの袋を握りしめてたっけ。
わざわざ連絡をとることもしないけどきっとりんちゃんは今もどこかのキャバクラでうまくやってるんだろうな。ふと思い出しただけ。
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