見出し画像

female #002

female #002
更紗さん/30代/ギャラリー勤務・モデル


「自分の中にいくつもの顔があること自体が無意識の媚態のような。
“女性性を自覚することのナルシシズム”みたいなことも、あるかもしれません。」


 とても天気の良い、少し汗ばむような日にお会いした更紗さんは、白シャツにデニムパンツというとてもシンプルな服装で来てくださった。メイクも、ほとんどすっぴんに近いナチュラルメイク。撮影場所も、あまり周囲に何もないような、川のそば。
 余計な情報を排除したような“素”の感じが、更紗さんの提示してくれた女性性だった。


 モデルとしても活動している更紗さん。女性性を意識する機会は多いという。「モデルや表現者は、女性性については日々考えているのではないのかなと思いますが、表現活動をしない人はあまり普段意識しないことかもしれませんね。」

 確かにモデルとしてカメラの前に立つ場合、撮影者が求めていることは女性性であることが多いだろう。撮影者がそのことに対して無自覚な場合もあるが、それを読み取りながら表現していくモデルさんたちは、“いま、どんな女性性が求められているのか”を敏感に感じ取っているのではないだろうか。そこに写っている人物が女性か男性かで、その写真の意味は大きく変わってくる。女性であることの“記号性”は、撮る側にも撮られる側にもつきまとう。



「ギャラリーで働きながらモデルをしているので、切り替えが激しいと思います。“そこで生きることに似合う自分になる”のを意識しているのでTPOに合わせたファッションやヘアメイクをしています。場所に合わせて自分を変えていくのも女性ならではのように思います。」

 女性のTPOにおけるファッションの型は男性のそれと比べて多い。結婚式など、式典の一次会と二次会で着るものを変えるのも女性ならではだ。
 そこに集まる人や目的といった、“場”に求められる何かを感じ取って外装を変えていくことは、確かに女性のほうが強く意識するものだろう。



 更に言えば、私たちは様々な人との関係性の中で、態度を使い分けている。無意識に女性性を使い分けることもあるだろう。友達の顔、恋人の顔、上司/部下の顔、母/娘の顔……。モデルや役者でなくとも、それは“TPOを使い分ける”ということ以上に日常的に行われていることではないだろうか。

「身体的な性別のことは置いておいて、女性性を持つ方に“貴方のような女性になりたい”と言われたことがありました。その中で“媚態が美しい”とも言われたのですが、それは衝撃でした。女性性を持った人ならではの感覚で、頂いた言葉も美しく感じました」
 “媚態”の意味を調べると、男にこびるなまめかしい女の態度、などの言葉が並ぶ。こう書かれるとあまり良い意味として聞こえないが、恐らくその方は更紗さんに圧倒的な女性性を感じたのだろう。“媚態”は、他人、特に異性との関係性の中にある女性の姿を示す言葉だ。

「表現をする人からは、子供のようでもあり大人のようでもあり、女のようでもあって男のようでもある。と言って頂くことが多いので、女性性というのは多様性もあるように感じています。」
冒頭の文章は、こんな話の中で出た言葉だ。

 誰だって自分の中に様々な顔を持っている。関係する人の数ほどありそうなそれを“無意識の媚態”と表現してみると、意外と腑に落ちてくる。その無意識の中から“他人との関係性の中にある女性性”を強く意識することは、確かにナルシシズムとなりそうだ。
 他人との関係性のなかで、“女性性”は滲み出るように表出する。女性性が多様性を持つのは、こういった側面があるからなのかもしれない。



「相手の求めるイメージに応えるために女性性を使い分けることには面白さを感じています。」という更紗さん。

 その日は飾らない状態でお越しいただいたようだったのだが、一連の写真を見返しても、多様な顔、女性性があることが感じられる。表現できる女性性の幅が広いことが、モデルとしても活動する更紗さんの人柄を魅力的に膨らませているのだろう、そんな風に思った。



2017年5月/更紗さん/photo&text: アベアヤカ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?