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ふたつ先の季節に向けて

じりじりと、びりびりとした鈍い痛みが喉を走る。まるで警告音を鳴らすかのように。

4月の終わり。来たる大型連休を目前にして、私の身体は白旗を振っていた。

実家への帰省を終え、「さあ、ここから」と足を踏み込んだばかりのことだった。

もともと喉が弱く、季節の変わり目には絶対と言っていいほど扁桃炎になる。しかしここ数年のマスク生活のおかげで、その扁桃炎との付き合いも減っていたのだが、近頃の寒暖差にやられてしまった。

約2、3年ぶりの扁桃炎。

ただの乾燥かと思っていた喉の痛み、なめたらあかんかった。

体温が上がってからは、布団の中で突っ伏し、時折り水を飲んでは寝込み、上がったり下がったりする体温計の数値を見ては一喜一憂し、希望と絶望を繰り返す時間がただ過ぎていた。

そんな布団の中で、4月の定期購読マガジンを更新していなかったことに気づいたのだが、その時の私は荒ぶっている体温と、頭痛、喉の痛みを抱えて若干意識朦朧としていたから、本も読めず、雑音が脳内に響き渡り、考えることが面倒臭くなっていた。

しかしこれは1ヶ月間言葉を熟成し続けた私の責任。温めた言葉たちを羽ばたかすという使命感に駆られ、布団からぐっと充電コードに繋がれたままのスマホに手を伸ばす。

そしてnoteのアプリを開き、私と同じように寝込んで熟成されていた下書きたちを掘り起こしていく。叩き起こされた下書きたちは、「ようやくか」と言わんばかりに、少し気怠そうに私を見上げていた。

幾つかに分かれて、メモのように書き込まれている下書きの文章をひとつひとつ読み、近くにあった手帳も手繰り寄せ、こちらのメモや日記も読んでいく。

そうして文章の粒のようなものたちを集め、思うままに画面上に言葉を並べていくと、つい数時間前までの気怠さはどこかへ行ってしまった。その不思議な感覚に、わからぬ行先へ視線を泳がす。思えば、文章を書いている間は、喉の痛みも、頭痛も、乱高下する体温もすっと癒えていた気がした。

ご飯も喉が通らず、心も荒みかけていたにも関わらず、言葉と向き合っている時間は、脳内が鮮明に澄み渡る。

しかし言葉を書き終え、また警告音のような痛みが喉全体に広がったのを感じると、なんとも不思議な空間に一時的に迷い込んだ気がした。

そして身体も快方に向かった頃、もうひとつ熟成させていたことを再開した。

それは4月初旬に参加した友人の刊行イベントの、イベントレポート。

もともとはnoteに書こうと思ったのだけれど、なんだかしっくりこなかった。どうしたら友人が喜んでくれるかと妄想しつつ、せっかく書くのならより良いものが作りたいと構想を練って完成したのが、「泊地」という名の、僅か6ページの冊子である。

初めて、論文ではない自分の文章を印刷しては推敲を何度も重ね、縦書きで印刷し、ホチキスで中綴じをして冊子にする過程を辿った。

途中脳内に入り込む、誰かからの評価を期待する妄想をなだめつつも、「作るならより良いものを」と試行錯誤を重ねる時間に、久方ぶりに私は夢中になった。数年間忘れていた感覚を取り戻した気がした。

そして完成した1冊を、友人に届けるためにビニール製の袋に梱包していた時。筆舌尽くしがたい高揚感と共に、友人がこの本をどう受け取ろうとも、友人の周囲の方がこの本をどのように感じようとも、どんな評価が来てもどちらでもいいと思った。今私が出来ることは注ぎ込んだ。そんな、肝が据わった感覚を全身で受け止めた気がした。


体調を崩して、布団に突っ伏して、食べることさえ出来なくなった時でも、書けた。病み上がりの時にでも、夢中になれた。

「書く」「執筆する」ということは、今の私にとって夢中になれて、自分自身を癒すものだというこの認識が、全身に反響した5月前半。

書くお仕事をもっとしたい。書くという営みに今よりも没頭していきたい。

ということで、今年の秋にZINEを作ります。

ふたつ先の季節に向けて、幼い頃から私のそばに居る「紙」という媒体に、今まで以上に言葉を宿していきたい。

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忘れたくない小さな心の動きと無常な日常の記録。言葉で心がつながる瞬間がひとつでもあると嬉しいです。

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