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お母さんへ

3.19.2022




お母さん
元気?


日本はようやく
桜の開花が始まったみたい


あれから10年が経ったね



私は今
癌と闘ってる


キモセラピーの副作用で
一時は全部抜けてしまった髪も
少しづつ生えてきたよ


今は放射線治療を受けに
毎朝病院に通ってるんだ


最近左胸の表面が赤くなって
ズキズキしてきた



表面の皮膚が乾いて
突っ張るような違和感も出てきたね


専用のクリームをオーダーしたから
塗りながらなんとか最後まで
乗り切るよ


お母さんは癌の治療
途中で諦めちゃったけど
私は絶対に諦めないから





天国はどう?






あなたの大好きなお花が
たくさん咲いているといいな





病院のベッドの上で
苦しそうに息をしてた姿が
今も脳裏に焼き付いてる





お母さん


毎年お母さんの誕生日と
母の日に花束を贈るのが楽しみだった

お母さんのほころぶ顔が見たかったから


今はお母さんを苦しめていたもの
すべてから解放され
笑顔で過ごしている事を祈ってる



お母さんが天国に行ってしまった後





日本に一時帰国していた私は
ロサンゼルス行きの飛行機のチケットが
切れてしまった事も
仕事に復帰する事も
何もかもどうでも良くなってしまってさ



数ヶ月もの間
糸の切れた凧のように
ただ彷徨っているだけの
時期があった

そしたらある時から私の頭の中を
お母さんと一緒に見た
いつかの桜の情景が
優しく包み込むようになって



その中にお母さんが佇んでた





SAKURAという曲を書きたい





急いでロサンゼルスに戻り
この曲を夢中で書き始めた



取り憑かれたかのように
徹夜で歌詞とメロディを考え
納得するまで何度も何度も歌い直して


気づいたら声が潰れてた




喉が癒えるまでひと月待って
また一から全部
レコーディングをし直して




そうしてようやく完成させたのが
SAKURA



この曲を完成させることが
あなたへの想いを
浄化させる唯一の方法だった






あれは五条川沿いの桜並木





大きな桜の木の下にゴザをひいて
名古屋の叔母さんたちと一緒に
お弁当を持ち寄って
ワイワイ花見をしたよね

雲一つない晴天


頬を撫でる春風



今でも鮮明に覚えてる






あの日


わたしは辛い事があり
「明日帰るね」とだけ電話で伝え
東京から岐阜の実家に
理由も言わずに帰った


あなたはそんな私に
なにも聞かず





明日一緒に桜を見に行く?」
とだけ言ってくれた




花見当日も私は終始無言で
会話にも同調せず
心ここに在らずだった




花びらが舞い散る中
あなたは一言


「辛かったら
いつでも帰って来ればいい」




と言ってくれた




視界が涙で歪んでいった



ここじゃないどこかに
きっと自分の居場所があると信じて
家を飛び出して行ったくせに



窮地に立たされると心細くなり
そのたびに実家に帰っては
お母さんに心配かけて




あなた以外に頼る人など
どこにもいなかった





それなのに顔を合わせれば
生意気な態度をとり
口答えして喧嘩ばかり




どうしてあなたの前では
素直になれないんだろうって
ありがとうって言えないんだって
自分が情けなくて
涙が止まらなかった




だからこそこの曲は
私の偽りのない素直な気持ちを
あなたへまっすぐに
届けたいと思って書いた



歌手としてデビューした後
ファーストアルバムを引っ提げて
初めて地元名古屋でライブをするとき



私は達成感に満ち溢れ
嬉しくて真っ先に
あなたに連絡をした


それなのにあなたは電話口で
素っ気なかった


心底落胆した



ライブ当日


来ないと思っていた
お母さんが来ていた


岐阜から電車を乗り継ぎ
夜の名古屋の
騒々しいCLUBに




電車の移動中には椅子には座らず
私のロゴが付いたTシャツを着て
最前列から最後列まで
延々と練り歩きながら

「aileをよろしくお願いします
‼️
大声で宣伝してここまできたんだよ」


と同行した姉から聞いた時 
あなたが誰よりも私を
応援してくれていたのだと
初めて気づいた瞬間だった


嬉しくて感動で震えたよ




それなのにカッコつけて
ありがとうも言えなかった




上京し数年経った頃
今渡(イマワタリ)の叔母さんと二人で
長距離バスに乗り何十時間もかけて
ほんの数時間私とランチをするために
会いにきてくれた事もあったよね




本当は前の晩
眠れないくらい嬉しくて
会ったら抱きしめて会いたかったって
言いたかったのに






その時もくだらない事で
お母さんを責め
そそくさと自分だけ帰った




きっと行きも帰りも
何十時間も狭いバスの中で
私のことを考えて
心配で眠れなかったはず





今思えば
なんてひどい事をしたんだって思うよ




お母さん
ごめんね




素直になれなくて


あの花見の時に
言ってくれたあなたの言葉は
行き場をなくしてた私を
心から救ってくれたよ






ありがとう





ありがとう




お母さんが私にしてくれた全てに
ありがとうを言うよ





あなたを悲しませてしまった
私の事を許してほしい




あなたに言われて
傷ついた過去なんて
もうどうだっていい



もっと前に遡れば



私が高校生の時キセルをして捕まり
家に駅の関係者が何人も来て
私を犯罪者扱いした

300万円払えば許してやるとも言われた

シングルマザーで
真面目にコツコツ働いていた
お母さんの面目を丸潰れにしてしまい
どう弁償すれば良いのかと
あなたの顔を見る事もできなかった



でもあなたは毅然とした態度で



「人を殺したわけでもない
こんな高校生相手に
高額な請求をして虐めて
何が面白いんだ
さっさと帰れ!」



と彼らを前に私をかばってくれた





私は私の息子が
もし同じことをしたら
同じようにかばってあげられるだろうか



強くて頼もしいお母さん


あの時のことも一生忘れないよ





お風呂から出ると
いつも裸ダンスをして
私たちを笑わせてくれた
ひょうきんなお母さんも
大好きだったよ






この気持ち
お母さんに届いてるかな




お母さん




愛してる


会いたい

会いたいよ

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