見出し画像

歴史に刻まれた魔術師たち No.1 放浪の武闘派錬金術師・パラケルスス

こんにちは。綾地研究室・室長の綾地です。

私は普段、教育関係の仕事と並行して前世療法などのヒプノセラピーをしています。ヒプノセラピーとは、催眠状態を利用して行う非常に効果の高い心理療法です。(※ヒプノセラピーについては別の投稿で詳しく触れていますので、ご興味の向きはぜひそちらをどうぞ。)

そして、ヒプノセラピーとは別に、私にはもう一つライフワークがありまして、それが魔術の歴史の研究です。

一般人にも手軽にAIが使えるようになっているこのハイテク極まる現代に、なぜわざわざ魔術の歴史を学ぶのか。実は、ヒプノセラピーと関係があります。

ヒプノセラピーは、今でこそ医療現場でも使われ、心理学的・脳科学的な裏付けもある技術ですが、起源はかなり古く、一説には少なくとも紀元前4世紀ごろまでは遡れると言われています(もっとずっと古いとする説もあります)。

そしてこの技術の背景には、そうした何千年も前の魔術的な思考がバックボーンにあるんです。なので、魔術的な発想や思考のフレームワークを理解することは、ヒプノセラピーをより高度に使いこなすことにもつながる。そんな理由で、魔術の歴史についても学んでいるわけです。

「そうはいっても、魔術なんて、大昔の迷信かファンタジーの中の絵空事だろう」と思う方も多いかもしれません。私自身、日々、仕事で統計データを分析したり、AIを使い倒したり、科学の恩恵に首までどっぷり浸かって生きていますし、現代の高等教育を受けた人間なので、「魔術なんて」という感覚はとても良く分かりますし、健全だと思います。本音を言えば私も、いわゆるスピリチュアルな人たちのほとんどとソリが合わないタイプですしね笑。

でも、科学には弱点があります。「人は死んだらどうなるのか」とか、「なぜ生きるのか」とか、そういう命題に向き合うには不向きな枠組みです。数値化し客観的に観察することによってはたどり着けない境地に近づいていくためには、それに向いた、科学とは別の枠組みを持つことが必要なのでしょう。

魔術というのは、人間が世界と関わり、世界を理解し、変容させる方法を追求した知恵の集積です。そして、科学よりはるかに長い歴史を持っています。古代エジプト人が巨大ピラミッドを建造できたのは主に数学と建築技術、つまり科学の賜物です。しかしそのはるか昔、何万年も前から、人間は、自分の生を少しでも良きものに変えようとして、さまざまな形で魔術を行って来ました。

魔術の歴史を学ぶことは、科学だけでは難しい、より健やかでバランスのとれた、世界に対する視点をもつ助けになると思っています。

というわけで今回は、

「歴史に刻まれた魔術師たち」


と題してお伝えします。

第1回は 

放浪の武闘派錬金術師・パラケルスス


です。

パラケルスス(1493-1541)は、ルネサンス期のスイス出身の医師であり、錬金術師です。史上最も有名な錬金術師のひとりと言っても、さほど異論は出ないでしょう。

「え、医者で錬金術師って、それほんとに魔術師なの?」と思った方。魔術の定義については諸説ありますが、とりあえず錬金術も魔術の仲間ということにしてください。このシリーズでは、錬金術や占星術、神秘主義思想などを含めた広い意味での魔術について扱っていくつもりです。歴史上に名前が残っている魔術師には、数学者、哲学者、医師、錬金術師などが結構多いのです。要するに科学と魔術の境界は今ほど明瞭ではありませんでした。

パラケルススは、スイスのバーゼル大学やイタリアのフェラーラ大学で学び、医学の博士号を取得したと言われています。が、大学で学んだことがあまり気に食わなかった(?)ようで、その後ヨーロッパ中をあちこち放浪して、時には軍医になったり、行った先の町医者として働きながら、その土地の民間伝承を集めて治療に取り入れていたようです。当時流行していた梅毒や鉱山労働者の職業病である鉱山病、精神病理などの研究も多く行い、錬金術や占星術も放浪しながら学びました。

彼は、医学に化学を導入した功績が評価されている人です。具体的には、酸化鉄や水銀(梅毒の治療に使った)、アンチモン、鉛、銅、ヒ素などの金属の化合物を医薬品に採用した業績から「医化学の祖」と呼ばれる存在となりました。金属の化合物を医療に使ったのはパラケルススが初めてなわけではないんですが、彼以前は、植物や動物由来の薬が中心だった。金属由来の薬は限定的だったところ、本格的に治療に使いだしたのがパラケルススだった、ということのようです。

医療と同時に錬金術についても研究していたパラケルススですが、錬金術は卑金属を黄金に変えるための術というのが一般的なとらえ方だったんですが、パラケルススは、「錬金術は人間の病をいやし、完全な体にするための技術」だと考えました。

彼の理論の中心にあったのは、大宇宙と小宇宙は対応しているという考え方で、大宇宙(この世界すべて)に対して人体という小宇宙がある。で、小宇宙である人体の不完全なところを癒すことで、対応関係にある大宇宙にも癒しがおきる、完全なものになる、そんな風に考えたようです。非常に面白い世界のとらえ方だなと思います。

30代で母校バーゼル大学の教授になったものの、権威とソリが合わないのは相変わらずだったようで、著名な医学書を学生の目の前で燃やしたりと、古典的権威のある学説に対して反抗的な行動をとり続け、2年ともたずにバーゼル大を追放され、また放浪の生活に戻りました。47か48歳で亡くなるまで、ずっと放浪生活を続けたそうです。

このパラケルススという人、私はすごく面白いなと思っています。理論以上に実践・場数を重んじる臨床家としての姿勢が素晴らしいと思いますし、市井の民間伝承のなかにも、自分がまだ知らない叡智が隠されているんじゃないかと探し求めるその情熱の強さにも、たまらなく心惹かれます。 
 
そして、彼はなかなかの武闘派でもあります。

パラケルススは一義的には医者で錬金術師だったわけですが、ほかにも実にいろいろなことに首を突っ込んでいたようです。放浪生活をしていた先で、なにやら農民の蜂起を扇動してみたり。

あるいは、有力な金持ち一族と事を構えたり。当時梅毒の治療に使われていたある植物があって、それに治療効果がないことをパラケルススが研究で明らかにしてしまった。そのため、その植物の輸入ビジネスで大儲けしていた有力な金持ち一族と敵対関係になってしまったのです。

事程左様に、何かと血の気の多い人物だったようで、そういうところも人間臭くて非常に好きなんです笑。

ちなみに、もう一つ彼の人となりが良く表れているのが「パラケルスス」という名前です。これは実は本名ではなく、彼自身が自分でつけたペンネームのようなものなのです。

古代ローマの医療に詳しかった「ケルスス」という医学者がいて、そのケルススを超えるという意味を込めて「パラ」(超える、越える)と組み合わせたのです。パラケルスス、つまり「俺はケルスス以上だ!」という自負を込めた名前なのです。

ちなみに本名はフィリップス・アウレオラス・テオプラストス・ボンバストス・フォン・ホーエンハイムです。長い笑。

というわけで、きょうのまとめです。

パラケルススは、
・伝統的な医療と錬金術を融合させ、新しい治療法を開発した
・特に鉱物や化学物質を用いた薬の仕様を推奨し、現代の薬学の先駆けとなった
・構成の科学者や医師に大きな影響を与えた存在である


「魔術師の話どこいったんだ??」

という声が聞こえてきそうですが、このパラケルススの話を通じて一番伝えたかったのがまさにその点なんです。

魔術というのは、少なくとも歴史のある一定の時点までは、学問的な側面が非常に強かったということ、世界とは何か命とはなにか、人間とは何かということを真摯に追求し、世界をより良いものにしていこうとする取り組みだったということなんです。

その点が伝われば、このパラケルススのお話を読んでいただいた甲斐があったなあと思います。

お読みいただき、ありがとうございました!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?