オンライン即売会の可能性を探れ(前編)

以前、これからの同人はダウンロード販売の時代だと書いた。それは感染症の拡大防止のために家で売買する方法として、ではなく経費である在庫を抱える必要がなく、また売り切れの心配も無いと云う部分からだったが。
しかし、ダウンロード販売は効率的だが否定的な声も多い。元々、同人即売会は売り手と買い手の交流会と云う位置付けが有る上に、即売会での価格の名目である「印刷代」が発生しないため、売上が利益に直結することへの批判も有る。
その上で、興味深いサービスを知ることとなった。

先日、pictSQUAREと云う名古屋発のオンライン即売会サービスを知ることとなった。RPGの世界を模した仮想空間を軸にしたWEBアプリで運用されるサービス…だと思う。尤も、自身はWEBエンジニアではなく、詳細は知らないが。
対応したインターネットブラウザさえ有ればスマホでもPCでもOSを問わないと云う利点を持つ。

実際に会員登録をして、デモ会場にアクセスしてみた。自分でイベントを開くことも可能だが、デモでは来場者としての「来場」だった。
アバターとニックネームを決めて「入場」すると、90年代前半のRPGでよく見る町並みが広がる。その町自体が1つのイベントホールで、例えば宿屋や道具屋などの建物がサークルのブースになる。入口の看板にはサークルの情報やサークルカットを載せることができるようだ。
「入店」すると、販売される品が机に並び、そこにタッチすると商品説明と価格が表示され、カゴに入れることができる。
これは自社の自家通販サービスpictSPACE…pixivのBOOTHのようなもの…と連動させ、pictSPACEの在庫を購入し、後日発送されると云う仕組みのようだ。また、pictSPACEはダウンロード販売にも対応しているらしい。

家から出ることなく、また外出先からでもイベントに「行く」ことが可能で、遠方でも遠征費を必要とせず、ただインターネットに接続できる環境さえ有ればよい。
一方で、最大のネックになるのは「所詮は仮想空間のイベント」と云う部分だ。
自身は元々コスプレ側の人間で、コミケでも終始コスプレエリアに入り浸り、サークルを見て回ることは無いことを先に断っておく。

8月と12月、数百メートル、下手するとキロメートル単位で延びる待機列に数時間密集して整列し、休み無く会場内を歩き回り、立ち続ける。会場までの電車は通勤ラッシュ顔負けの混雑ぶり、否臨時ダイヤを組んでもそれだから、もっと凄い。
これがコミケの実態だ。それでも懲りず、また行こうとする。
コスプレ側にしかいない、と云う自身が
「何故お前は、そうまでしてわざわざ大変なコミケに行くのか?」
と問われれば、
「新しい出会いと、フォロワーとの再会が楽しみ。それに尽きる」
と即答する。結局、コスプレから手を引くと云っても、遠征だけは続けたいのも、全てはそこに行き着く。

確かにpictSQUAREは面白いと思う。ただ、どこまで受け入れられるかは未知数だ。所詮「C2Cのeコマース…日本語で言えば消費者間の電子商取引…への窓口」となるサービスの一種でしかない、と思えば、何となく理由は読めるだろうか。
短文で他人と文字をやり取りできるシステムも実装されているものの、それは1つのWEBサービスで起きている出来事。
「対面で現物を取引すること、それにプラスされる一言二言なりの交流」
が電子商取引には無い。その場では取引データと文字メッセージが発生するだけだ。
また、現地に足を運び、自力で欲しいものを見つける、もしくは偶然見つけたものを手に入れると云う、ちょっとした探検も、ネット上では難しい。検索をすれば簡単に出てくるが、それだと達成感は弱い。
その上で、現物はそれらの証拠となる。戦利品とはよく言ったものだ。

そうやって見ると、同人イベントは一部サークルでキャッシュレス対応こそしているものの、それ以外はアナログで非効率的だ。某社会学者風に言えば「コスパは悪い」。自身も最近、コスパとよく使うが。
ただ、オタクは総じて、コスパが悪くても大して気にしない連中だ。手軽さやコスパと引き換えに得られる快楽が大きく、それが生活の糧となることは多々有る。
だからダウンロード販売も、取扱商品数が増える一方で、電子書籍や音楽のネット配信と異なり、普及していないと云う説明は成り立つ。

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