BL小説レビュー:ジェンダー規範に想いを馳せざるを得ない、丁寧な暮らしBL 『薔薇色じゃない』凪良ゆう

評価

出来事プロット ★★★☆☆
心情プロット  ★★★☆☆

こんな人におすすめ

・リアルな生活と感情の機微を感じたい
・丁寧な暮らしBLを読みたい
・食にこだわりあり

あらすじ

磁石の両極が引き合うように、怖いくらいスムーズに恋に落ちた水野と阿久津。大学卒業後、同棲を始めるが、会社員となった阿久津とフードスタイリスト修行中の水野は少しずつすれ違い、水野がふと漏らした一言が決定打となり別れる。一年後、再会したふたりは友人としての関係を築く。迷いと過ちを繰り返しながら辿りついた先は…?

レビュー

一緒に暮らすとなると、惚れた腫れただけじゃない家事の役割分担やら家計の支出割合やらリアルな生活が絡んでくる……これは同性カップルだろうが異性カップルだろうが同じ。ここのところの微妙さを写し取っているBL小説を初めて読みました。生活に対する解像度が高い! 後半プロットにちょっと意外なフックもあり、お話としての完成度も高いです。

男女では両方働いていても女性の家事負担が自然と重くなる事例が多いと思いますが、男性同士のカップルならそうはならないかというと……? このお話では水野がフードスタイリストへの弟子入りを目指している間、食事や家事全般を担当し、阿久津が家計を支えていました。水野が弟子入りを果たして働き出してからも、得意の食事はもちろん家事も水野が多く担当しています。阿久津の家事を「手伝う」という言い方にもやっとする水野の気持ちに同感する読者は多いのではないでしょうか。もやもやを感じていたところにタイミングの悪い出来事で関係が破綻してしまう……これもまたリアル。

そして阿久津が〈亭主関白〉な気質という説明があるのですが、〈亭主関白〉って完全に性役割分業(性別により果たす役割が違うという考え。主に女性が家事育児・男性が賃金労働を担うことを指す)を前提とした概念だと思うので、ゲイで〈亭主関白〉とは? と思ってしまいましたが……そんなことないですか? それに〈男らしい気質〉というようなポジティブなニュアンスで使われるのにもちょっと違和感が……。2016年発売の作品ですが、家事や役割分担というテーマでいうと、『逃げるは恥だが役に立つ』の連載が2012年から2017年、ドラマが2016年放映開始なので同時期ですね。

個人的な感想として、阿久津が全然好きになれなかったのが痛かったです。阿久津は幼い頃に父を亡くし、母親が苦労して一人で育ててくれたという生い立ちなのですが、そのお母さんがシンママにも関わらず昆布や鰹節で出汁を引いていて(!)、しかも、水野と別れた後にできた恋人が顆粒だしで味噌汁を作っていて、「母親は昆布や鰹節で出汁を取っていた」と言っちゃったとか。そして私生活でも料理にこだわる水野に対しては、古風な母親と恋人を重ねて肯定……(頭痛)。なんか色々、阿久津お前……という感じで、本当に好きになれなかったです。

この話自体は丁寧な暮らしという価値観がやさしく肯定されるエンドなのにも関わらず、丁寧な暮らしって、結局経済的余裕があるかそうでなければ家事労働を主に担う人の負担で成り立つものなのだろうな、と考えてしまいました。


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