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god wind of yoshiwara

現在私が居住している静岡県富士市にある吉原商店街エリアに2022年秋にオープンした飲食店「色男とチャイコ」の2周年を記念して作られたクラフトビール「GOD WIND」。発売を記念してエッセイを書かせていただきました。

1液種で5種類のパッケージ展開というクリエイティブも◎

「色男とチャイコ」はスコーン、チャイ、カレー、和風出汁の効いたフォー、クラフト梅3種といただく豚角煮汁など、アジアを中心に据えつつも無国籍なメニュー展開がすごいです。お店は空き店舗・廃墟となっていた場所にもともとあった可愛い壁紙や備え付けの什器を洗練させて活かした素敵な内装で、おまけにお店に置いてある本のセレクトもかなりグッとくるものがあります。吉原と東京を往来し始めた当初からお気に入りの、オーナー2人のセンスが詰まった基地のような場所です。

GOD WINDは醸造を担当したBADASS BEER BASEのオンラインストアでもお求め可能です。なんとスコーンはGOD WINDの麦芽カスがアップサイクルされて作られています。飲みの席で冗談で色男さんが言ったかと思ったら2週間後くらいにはできていた気がします。こういうフットワークの軽やかさもすごい。

富士に引っ越してから、「風土」が何によって作られるかを如実に体当たりで感じる日々を送っています。場所はやはり人なのです。そして、人もやはり場所。
このことは今年7月から私が運営チームに携わっている「紙内田ビル_for now」(今は真っ只中であまり俯瞰してこの取り組みについて書けないので、またの機会に)での様子を見ていっそう感じています。ここにBADASS BEER BASEが出店していたり、色男とチャイコさんも頻繁に顔を出してくれたり、私がこのエッセイを書くにあたって思い浮かべたたくさんの人々が来て、いい風を吹かせて良きようにかき混ぜてくれました。

このエッセイは、味の展開が風のようにくるくると変わっていくチャイヴィエナラガーGOD WINDのことを思いつつ、吉原商店街でこれまで経験してきたさまざまな風景、会話、経験、人間関係への感謝を込めた手紙であり、まだこの場所を知らない皆さんへの招待状のような気持ちで書きました。かといって「全員おいで、全員好きになるから」とも言い切れない、ヘンテコでディープでデコボコな、時々離れて旅をしたくなってもなんだかんだ帰ってきたくなる。そんな吉原です。



汗ばむ首筋を涼やかさがサラッと過ぎていく。生ぬるいパルプ臭に海潮が混じり鼻先をモヤリと包んでいく。先がほつれたアーケードの旗が頭上でゆらめく。コンクリートの隙間から唐突に伸び出たケイトウがうなずく。最後いつ開いたか分からないシャッターが少し唸る。アヒルたちが波紋を背に和田川に身を委ね浮かんでいく。愛鷹山を照らす影が刻一刻と移ろっていく。そし富士山は、雲越しに隠れんぼを繰り返しては日ごとに顔を変えていく。
 
私たちは日々、どうやって風を感じているだろう?
 
風の始まりは、誰かのささいな言葉。
「おはよう」「げんき?」「たのしそう」「やってみよう」心が乗った声となってあたりに響き、さまざまな人間関係に温度を与える。その熱は、それぞれの風を前進させるためのエンジンとなり、商いや衣食住、文化の営みを生む。ひとは場所を作り、場所はひとを作ると言ったのは誰だったか。
最初は誰もが、髪が頬に寄り添って初めて気づくほどのそよ風程度で、かろうじて匂いを感じ取るのがやっと、なんてこともあるかもしれない。たくさんの小さな風が絡み合って初めて、木々を揺らし、石を転がし、地形をも変える大きな風となることができる。やがて風が耕した土から薫り、目に見えて育つものが、長い年月をかけて巡っていく。一瞬で色や形を変え過ぎ去っていくもの、変わらずそこにあり続けるものに囲まれて生きる人々がいるから、風土は育っていける。
 
2023年の吉原商店街に吹く風たちは、それまでの数年にわたる災厄を生き延びた風たちでもある。むしろ災厄の中だからこそ生まれ、自由に勢いよく吹きわたる時を待ち構えていた風もあるだろう。
今日もこの土地で、自らつくり出せる風を信じて吹かせ、また自分以外の風の影響も受けて、ひとつの大きな渦をつくっていくことに前向きな人たちがいる。でも風を感じる身体がしっかり地に足をつけて五感をはたらかせなければ、風は風として存在できない。吉原は誰に出会い、どこに足を運ぶかで『元気がない』『盛り上がっている』『お洒落』『ディープすぎる』…と表情を変える不思議なまちだ。
 
もし今のあなたが感じている吉原の風が、万華鏡のようにいろんな薫りや表情を見せてくれて、肩肘張らないと見せかけて無我夢中、真っ直ぐでいてうねりもあって、笑顔とアツいハートで溢れているなら―あなたはもう、このまちに巻き起こり躍進する渦の一部になっているのかもしれない。

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