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「ライターとして認めてくれたら、Twitterをフォローしてください」

「ライターとして認められるくらいになったら、Twitterをフォローしてください」

2016年12月7日、私はとある人にこんな約束を取り付けた。その人は「あはは、いいよ」と笑っていた。

その人は、私にとって憧れのライターの一人だった。整った容姿や影響力ばかり注目されがちな人だけど、読者への心配りが本当にずば抜けてて。その人が語ると、なんでも面白そうに思えた。

「こんな風に受け手に届く言葉を紡いでいきたい」
ライターとしてのキャリアが始まったばかりの私は、純粋に憧れていた。なんなら音楽版その人になりたかった。

その人が登壇するイベントは、ほぼ皆勤賞。記事も公開するたびに全部読んだし、ツイートだって2012年くらいまで遡って読んだ。

その人の視点が欲しかった。その人の思考回路が欲しかった。

イベントに行くたび挨拶をしていたら、顔を覚えてくれて。私の顔を見ると「あ~、わかる」という表情を浮かべてくれるようになった。それに味をしめた私は、イベントで顔を合わせるごとに「一緒に仕事したいです」と伝えるようになった。

どうしても一緒に働きたかった。編集とライターで組むのが無理なら、文字起こしだってやりたい。今思うと心底気持ち悪いが、本気でその人になりたかったんだと思う。

2017年9月29日、とあるイベントにいった。すると、そこにその人もいた。いつものように声をかけた。他愛もない話をして、お決まりの言葉を繰り出す。

「一緒に仕事したいです。なにか仕事ください」

いつもなら可もなく不可もない表情を浮かべるその人の顔が、この日は一気に曇った。そして、予想してなかった言葉が返ってきた。

「あんまりそうやって”一緒に仕事したいです”って言わないほうがいいよ。本当に憧れの人ならなおさら。そういう人との縁って、くるべきタイミングがあるから」

要約するとこんなことを言われた。もう頭が真っ白。
「なんでそんなこというの…?」と、当時の私には全く理解ができず。

ぐるぐると思考が回って深夜。精一杯絞りだした私の声はこれだった。

そこから冷戦のような時間が続いた。その人の記事は読むけど、イベントに行かない。もしどっかで偶然居合わせても、話しかけにいかなかった。
それでも私はその人が大好きで、いたるところでその人の話をした。記事が素晴らしいこと、本当に音楽が好きな人であること、とても尊敬していること。

すると、ある人からこんなことを言われた。
「坂井さんって、その人のファンだよね」
その言葉は私のなかで、とてつもない違和感を放った。
「んー…、ファンではないんですよね」
そういって言葉を濁した。

気づくと、その人のフォローはどんどん増えていった。そのなかには、私が知ってるあの子も一緒にお酒を呑んだことがあるあいつもいて。その数に比例するように、私の知り合いとその人が一緒に仕事して記事もどんどん増えていった。
彼らは認められるのに、私は認められないな。なにが足りないんだろ…。
その人と仲良さそうにしてるのを見るのがつらくて、そういう関係にある人のツイートをミュートした。

一方、私は私で自分のできることを必死にやった。それをその人が見ててくれたかはわからない。でも、気づくと”その人に認められるための頑張り”は、すっぽり抜け落ちていた。私が私になろうとしていたタイミングだったと思う。

事態は急に動いた。
2018年9月6日、急にその人から連絡がきたのだ。なんでも私をきっかけにして、そのかたに新たなご縁がつながったらしい。私がいたるところで「めっちゃすごいんですよ」と言っていたことが形になったようだ。

その人が私をフォローしてくれたのも、その日だった。認めてくれたんだか折れてくれたんだか、詳細はわからない。
でも、私のなかでひとつ決着がついた日に間違いなかった。


そしてなんと先日、その人とお酒を呑みにいってきた。自分が仕事に対して思っていること、音楽に対して思っていること、その人に対して思っていること。いろんなことを話したと思う。
「あなたとの一連の動向を記事にしたいんですけど、いいですか」そう聞くと、「いいけど、拡散はしないよ」と優しく笑ってた。

その人との数年間で学んだことがいくつかある。

まず1つ、どんなに尊敬しててもその人にはなれないということ。企画メシの講義で阿部さんもお話をされていたけど、私は私になるしかできない。そして、何者にもなれない。その人のように生きるではなく、自分が1番輝くように生きるしかできない。

次に、憧れていては仲間にはなれないということ。誰かに憧れて恋焦がれるのは勝手だ。でも、恋焦がれてるだけでは相手に興味をもってもらえる自分になれない。その人が仲間になりたくなるような。憧れの存在としてではなく、対等に並べる存在になるにはどうしたらいいかを考える。

そして、自分を高めていれば時は巡ってくるということ。あのときはわからなかった言葉が、今は身に染みてわかる。自分とちゃんと向き合って高めていれば、本当につながりたい縁とは結びつくべきタイミングで結びつく。結びつけないなら、それはまだ時が来ていないだけなのだ。

ライターを始めたころの私に、この言葉を伝えても届かないんだろう(笑)。それでも、いまこうやって身に染みて実感できているのだから、結果オーライということでいいかな。

「一緒に時代を作っていきたいんです!」
先日、某アーティストにお会いしたとき、こんな宣言をしてきた。その人は「嬉しいね~!」といって、マネージャーさんの肩を叩いた。
今の私の目標のひとつは、このアーティストのチームと仕事をすること。そう決めたし、そうする。

自分のやるべきことをコツコツやっていれば、最善のタイミングで時は巡ってくる。そう学べたから、大丈夫。これからの私も、きっとやれる。




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拝啓、カツセマサヒコさま。

「俺はそんな大した存在じゃないよ」なんておっしゃりますが、私にとっては大した存在なんですよ。すっごく気持ちの悪い、公開ラブレターのようになってしまいましたが…(笑)。
でも本当に、あなたの存在があったから学べたことがたくさんありました。今でも尊敬しています。またお酒でも、もしご縁があったらお仕事でも。
ご一緒できるのを楽しみにしております。

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