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掌編小説または詩

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2024年1月の記事一覧

アケミちゃんのこと

アケミちゃんのこと

アタシいじめられてんのよ、とアケミちゃんが笑う。

アンパンマンのようなまん丸い顔にびっくりするくらい
濃ゆいパープルのアイメイクと青みがかったピンクの口紅。
昼間に顔を合わせるのはチョット時間を間違えたかな、と
思わせるような気合いの入ったお化粧は、かなり時代も
間違えてるかも、しかしそれがなんとも彼女には自然と
馴染んでいて妙なのである。

この間友達の結婚式に出るという話をしたら、アタシが

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手紙と記憶

手紙と記憶

おぼえていないよおぼえていない

よみかえしても、よみがえらない

けれどもたしかにそのときはあった

手紙にはつづられていた

わすれないとおもっていたけど

水面

水面

波紋が広がっては
消え

広がっては消え

その繰り返しの中に
つながれている安堵

ちいさいけれどもそれはうねり
さざなみ

なにかを届ける

だれかにいつか

満ちる

満ちる

ほかにどう伝えたらいいか解らないんだ

つぼみが笑うみたいに

きみの頬に触れるよ
ふんわりと 溶けて

その日の夕焼けはあたたかく空を包んで
満ちる

きのう、知ったの。
ことばにできないきもちがあるんだね。
唄ってないと泣いちゃう
ような

どんな名前をつけようかしら、
呼んでくれる?
暗くなったら探しにきてね。
ラララハミングしながら

きみの頬に触れて溶けた
名前を呼んで

ゆうやけこやけ

未来

未来

ほらごらん、坊や

この雲を抜けたら
青い空がどこまでも広がっているんだ
七色の虹だって架かってるのさ

本当とうちゃん?

この雲を抜けた先に
何があるかなんて
どうして
未来のことが解るのだろうなあ

かあちゃんはねえ

たとえばこの雲の向こうに
烈しい雷雲がまたどこまでも広がっていて

おまえがそこへ飛び込んでいっても

いつかは美しい虹と出会えることを
識っているのよ

そうか、
じゃあぼ

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ふたり

草いきれがむっとする
息を吸い込んだ
笑いが止まらなくってさ
駆けていくよ
手をつなご
あなたの右手と
私の左手

海が好き?山が好き?
海は詩人で
山は哲学者だよ

さみしいときは海に行った
どうしてさみしかったか忘れちゃったけど
センチメンタルは嫌いだから黄昏れたりしなかったよ
大声で泣いたかもしれないな
夕日は美しかった

山には行きたくない
でも遠くからこうして眺めていたい
春のはじめのも

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ヴァケーション

その手を腰にまわすのはやめてと願うけれど
彼の欲望はこれぽっちも耳を貸そうとしていない。
おそらく、だ。
聴こえない声は聴こえるはずなのだ。
ただ手をつなぎたいと、言葉に出せばよかったのか。

息を吸い込む。
9月にあじさいが咲くなんて知らなかった。
信号機の三色が縦に並んでいる意匠も
はじめて見た。

どこに行ったってあじさいは梅雨になったら当たり前に
咲くんだろうという想定しかできない想像力の

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