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イルク・ビティグ(Irk Bitig)~古代トルコのサイコロ占い手順書~

イルク・ビティグ(Irk Bitig)に関する諸情報  

 「Irk Bitig(以降、イルク・ビティグ)」は「占いの書」または「前兆の書」の意味を持つ、突厥文字で書かれた古チュルク語の占いの手順書である。イギリスの考古学者オーレル・スタインによって敦煌敦煌千仏洞で見つけられたこの写本は、英国へと運ばれ、大英図書館に所蔵されている。また、それが現存する唯一の写本でもある。

 本写本は、International Dunhuang Projectでデジタルデータを参照できる。
 また、iOS用のアプリ「Irk Bitig」では、実際にサイコロを振って占いを行うことができるほか、前兆それぞれについて原文のテキストデータや、写本の写真画像データを確認したり、英訳、トルコ語訳、ロシア語訳を確認することもできる。(要課金)

イルク・ビティグの特徴

 占いの手順としては、4面のサイコロを三度振り、その組み合わせに対応する項を参照するというものである。この際、目の出た順番も考慮されるため、1、2、3の順で目が出たとしたら、1−2−3の項を参照することとなり、3−2−1や1−3−2等の組み合わせとは区別して考えることになる。

 イルク・ビティグは、その内容からトルコの遊牧民の庶民が行なっていたものと考えられており、古代トルコの生活文化を垣間見ることができる。  敦煌千仏洞は11世紀初頭に封鎖されたため、写本内で言及されている作成日時の寅年は9世紀か10世紀の寅年であると考えられている。また、マルセル・エルダルは、その言語的特徴に基づいて、オリジナルの成立時期を8~9世紀とし、古トルコ語テキスト群の中でも最も早い時期としている。
 写本には多くの転写ミスやテキスト省略が確認されており、本書がオリジナルではなく、おそらくより古いテキストのコピーであることが示唆されている。
 例えば、以下のような重複や欠落が存在している。

・3−1−3の項は【24】、【25】で重複している。
・3−4−1の項は【49】、【61】、【64】で重複している。
・3−1−1の項および1−2−4は欠落している。

 写本の冒頭と末尾には漢語の仏教詩文が書かれているが、これらは本サイコロ占いとは無関係のものであるため割愛している。これらは、イルク・ビティグの余白のページに後から上書きされたものだと考えられている。

本テキストに関する注意書き

 このテキストは、次のものを検討した上で作成したものである。

  1. 池田哲郎(1983)「古代トルコの占い文書(Irq Bitig)に就いて」『京都産業大学国際言語科学研究所所報 第6巻第1号』pp.81-125 Talet Tekin(1993)

  2. 「Irk Bitig - The Book of Omens」 Harassowitz Werlag Fikret Yildirim, Erhan Aydin, Risbek Alimov(2013)

  3. 「Yenisey-Kirgizistan Yazitlar ve Irk Bitig」 Bilges Yayinlari

 この和訳に関しては主に池田哲郎氏のものを参考としつつ、実際の占いにおいて使いやすい形に翻訳を行った。
 ただし、本テキストの目的は、古代のサイコロ占いの実態に関する研究が目的であるため、できるだけ単語の表現や意味を汲み取ろうとはしているものの、若干の意訳を伴う箇所もあり、言語学的に正確なものでは無いことをあらかじめ断っておく。
 原文において記載漏れがあると思われる箇所には[]で示している。
 原文には占いの番号が書かれているわけではないが、参照性のために【1】、【2】のように示している。
 また、原文におけるサイコロの目は「○」の個数によって記されているが、本テキストでは参照性のためにアラビア数字によって記載した。
 翻訳中に気付いたこと等は「*」に続けて記載しておいた。

なお、本記事は、資料の購入費等を鑑みて、有料で公開としました。
ご了承をお願いします。


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