ドラム

だから、バンドは面白い

バンド。ボーカルや楽器の演奏者から構成される、集団。今、会社にも「音楽同好会」なるものがあり、わたしはそこでバンド活動を楽しんでいる。

この楽しさについて、お話ししたい。

しかし。わたしがバンドについてのお話をするには。まずは、あの恥ずかしい思い出について、語らなければなるまい……。


わたしは高校生のとき、クラスメイトに誘われ、バンドに入れてもらった。そこでドラムを始めたのが、スタートラインだった。

小さい頃からピアノをやってはいたけれど、ドラムは全く勝手が違う。

今思えば、わたしは本当に下手くそだった。よくもまぁ、バンドメンバーのみんなは、わたしを最後までメンバーに入れておいてくれたものだ。クラスメイトも、誘っちゃったんだからと、義理で置いておいてくれたのかもしれない。

とにかく、わたしは練習でも自信がなくて、自分の音は間違っているのではないかと不安になる。だから大きな音を出すのが怖かった。

「もっとバシバシ叩いていいで!」と、よく言われた。


そして、初めてのライブでのことだ。いざ、自分たちのバンドの本番。

慣れない、暗いライブハウスで、スポットライトを浴びる。あまりの緊張に、スティックを握る手が汗びっしょりになった。

たしか2曲ぐらいしかやっていないと思うけれど、演奏している間にだんだん、握力が弱ってきた。

手が、だんだん、プルプルしてきた。

汗も影響してか、スティックが滑る。どうにもスティックを制御できない。

それでもなんとか耐え続ける。頑張ってグッと握る。しかし。

「も、もうダメだ……!」

挙句、演奏している真っ最中に、スティックはするりと指の間をすり抜け、豪快に空中を飛んで行ったのだった。

わたしの目の前を、スティックが、スローモーションで、くるくる〜くるくる〜と、飛んで行く。

そして、コロコロン! と、メンバーの足元に落ちた。


多分バンドメンバーのみんなは、びっくりしたと思う。

でも、間違いなく、わたしが一番びっくりした。

それ以来、余分のスティックを専用のケースに入れて、手の届くところに備えておくものなのだと、重々、学んだ。世の中には、便利なグッズがあるものだ。

そんなわけで、とにかく高校時代のバンドについて思い出してみると、音楽を楽しむとか味わうだとか、そんな余裕は全くもって皆無。

緊張しかなかった。


それから15年の時が経ち、わたしは31歳の大人になった。

あんなスティック投げ飛ばし事件を起こしても、わたしは懲りずに、今も会社の仲間たちとバンドを組んでいる。それはなぜか。

メンバーとの演奏が、井戸端会議のように楽しいものだと、知ったからだ。


一つの曲には、ドラマがある。

例えば……、インパクトのあるイントロ。淡々と進めるべきところ。じわじわと盛り上げて行くところ。大盛り上がりで大団円。

そんな一つのドラマを作るために、メンバーたちは歌ったり、自分の楽器を弾いたりする。

メンバー全員揃って合わせる演奏は、さながら、「ドラマをどのように仕立て上げるか」を語り合う、井戸端会議のようだ。


「おお、そんな小気味よい感じで来ましたか!」

「ここのキメ、大事に! 音をしっかり短く切って!」

「ドラム、ちょっとテンポ早くなってない?」

「そうかも……ベースに合わせて行くわ」

「今ここ、休符を感じろ!」

「いいですね、そのギターの音!」

「このフレーズは、メロからサビへの橋渡しだ!」

「ごめん! ミスった!」

「何やってんねん!」

「準備しろ! 最後の大サビ来るで!」


ペチャクチャうるさいようだが、実際のところ、演奏中は全く喋っていない。それでもこれ以上の情報をやり取りしている。

自分も精一杯、ドラマを演出できるように頑張る。そして、どんな無口な人も、演奏を通して、思いをぶつけて来てくれるように感じる。

最初は、みんな好き勝手に喋っているだけのような状態だ。

でも練習を重ねて行くことで、たまに、「今みんなの意思が通じ合った」ような気がする瞬間が、ある。

これがなんとも言えず、面白いのだ。


高校生の頃は、間違った演奏をしないようにと、必死だった。自分のことで精一杯で、メンバーの発するメッセージを聞く気持ちもなかった。

でも、今思えば、緊張なんかしている場合ではなかったのだ。

メンバー同士の音を、お互いによく聞いて、だんだん、どうすればいいのか分かって来る。そういうものだった。


あのとき、スティックを投げ飛ばして、あんなに恥ずかしい思いをしても、やっぱりみんなで演奏するのが面白かったから、辞めなかった。


あの日の、ちょっと泣きそうなわたしに、教えてあげたい。

下手くそでも、恥ずかしくても、続けていけばいい。その経験が、未来、たくさんの楽しいメンバーたちとの巡り会いに、つながって行くと。

読んでいただき、ありがとうございます!