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『きのう何食べた?』という幸せ

『きのう何食べた?』は、たぶん、1番好きな日本のドラマだと思う。観るたびにじんわりと心に染みて、ついつい笑顔になって、そしてたまに泣かされてしまうドラマだ。テレ東深夜帯ドラマは良作が多いとつくづく思う。(ちなみに2番目に好きなドラマは、『まほろ駅前』シリーズである。)
先月からシーズン2が始まり、金曜日が待ち遠しい日々を送っている。

シーズン2開始に合わせて、シーズン1と映画版を観直していたのだけれど、 改めてお互いを深く思っている愛と幸せに溢れているこの作品が大好きだと再認識した。

シロさんとケンジ

さて、この作品はアラフィフのシロさんとケンジの2人の日常を、割と淡々と描いたドラマだ。
大事件は起こらないけれど、日々の些細な出来事や幸せを噛み締めるような作風は、ジムジャームッシュ的だなとも感じる。そしてその「2人の日々の些細な幸せ」の中心にあるのが、ご飯を使ったり食べたりすること である。

私も、料理することも食べることも好きなので、シロさんのレシピは随分と参考にさせてもらっている。手が込みすぎているわけでもなく、日々のご飯作りにちょうど良い。それにドラマだと料理の手順も含めてくれるからよりわかりやすいし、1品だけでなくトータルの献立と段取りがわかるのがありがたい。ちなみに、レシピ本も買った。(ビーフシチューが作りたかったので3冊目)

シロさんの言う、「ご飯が炊けるまでに料理を完成させることができると、難しい案件をひとつ片付けたような達成感がある」にはめちゃくちゃ共感するし、スーパーで安く食材が買えたときはシロさん(もとい西島さん)の顔が浮かぶ。最近は、キッチンに立つと頭の中であの料理中の音楽が流れるようになってしまった。弁護士ではないけれど、私も一応士業と呼ばれる仕事をしていることもあり、なんとなくシロさんには親近感を感じてしまう。(ちなみに、ご飯を食べるときは大抵ケンジが心の中にいて、「ん〜〜〜これさいっこう!」とひとりでつぶやいている)

そんなシロさんの素敵なパートナーのケンジのことは、たぶん嫌いな人なんていないんじゃないかと思う。

「神回」と名高いシーズン2 第5話は、そんなケンジの優しさが大爆発していた回だと思う。
私が1番愛だなあ、と感じたのは、シロさんが親子丼を作ろうとしたとに玉ねぎがなかったとき。勝手に使っちゃってごめんね、と買いに行くだけでも優しいが、シロさんの「親子丼を作りたい」という気持ちまで尊重した上での行動なのかなと個人的には思う。

シロさんの帰宅も遅くて、食材も足りないなら、コンビニでお惣菜でも買っちゃおうか、となっても不思議ではないと思う。それでも玉ねぎを買いに走ったのは、普段から節約してるシロさんの気持ちとか、そろそろ鶏肉使わないとなという作る側の計画とか、料理をするという1日のルーティーンがシロさんにとっては重要であることとか、そういうこと全てを無言のうちに理解して尊重した行動だからだと思うからだ。
たぶんあのとき、「どこか外に食べに行こうよ」でも、「なんかお惣菜買ってくるよ」でもだめだったのだと思う。今から作るの大変でしょ?も十分優しいとは思うけれど、これはそれ以上の思いやりで、相手を深く理解しているからこそできる行動なんじゃないかな。愛だねえ。

料理に関していえば、ケンジの食レポ顔負けの感想はドラマだからだとしても、あんなに美味しそうにご飯を食べてくれるなら作り手冥利に尽きる。シロさんも、ケンジの「美味しい」が聞きたくてご飯を作っている節は絶対にあるはずだ。
クリスマスのメニューを一緒に考えてくれたり、食事の準備をしていたら何したらいい?って率先して聞いてくれるのも嬉しい。
別に、そうして欲しくてご飯を作っている訳ではないし、作る側のエゴと言われたらそれまでなのかもしれないけれど、やっぱり「一緒に食べるご飯」を相手も楽しみにしてくれていて、そして「おいしい」が聞けるのは、嬉しいものだ。

一方、シロさんは確かに愛情表現があまり上手くないのかもしれないけれど、ケンジの気持ちには敏感で、ケンジが気にしていないふりをしていても「本当は傷ついているんだろ?」と話を聞いてくれる。シロさんにとって、料理を作ることは愛情表現でもあるから、あいつの好きなメニューにしてやるか、とか、体重気にしてたから肉じゃなくて魚にしようとか、言葉にしなくてもちゃんと相手のことを気遣っているのがわかる。それに、ケンジとの夕食が1日の中で1番楽しみだとうっかり口を滑らせてしまうとか、ケンジが一緒じゃないならと正月に実家に帰らない決断をするとか、なんだかんだでケンジのことを大事に思っていて、シロさんの中心にはいつもケンジがいるんだなということが伝わってくるから、ケンジもシロさんのことが大好きなんだろうな。

休みを合わせて、2人でカレーとナン作りをした日、シロさんが「休みの日に一緒に作ろうと思ってたんだよ」と言ってくれたのには、一緒に過ごす休日をシロさんも楽しみにしてくれていたんだな、と観ているこっちまで嬉しくなる。そして、その休日にカレーとナン作りを提案することも、ケンジも一緒にナンを作ったら楽しんでくれるだろうという前提なのも(そして実際楽しんでくれる)、2人の信頼の証だなあと思う。

幸せそうにご飯を食べる2人の姿をみていると、いつのまにかこっちも笑顔になってくるし、なんだか気持ちが満たされてくる。そして、2人のお互いを思いやる優しさに、ついつい涙がこぼれてしまうのだ。

「うまいな」「美味しいね」という愛

ふたりで食卓を囲んだり、ときには共に台所に立って料理をしたりと、ごはんが縮める心の距離。
たとえ落ち込むことがあっても、
温かい食事を食べて「うまいな」「美味しいね」と言い合えば、少しずつ元気になれる。

これはレシピ本からの引用なのだけれど、この言葉にこのドラマの全てが詰まっていると思う。

同性カップルの日常なので、ジャンルで言えば恋愛ものになるのだろうけど、この2人の愛を身体的に、つまりキスやセックスで表現するシーンは皆無と言っていい。あるとすれば、せいぜい指先が触れる程度の手を繋ぐ(?)シーンか、ケンジのハグをシロさんがかわす といったシーンくらいだ。それなのに、こんなにも相手を深く思っていることを、目線やセリフ、態度で表現していることが本当にすごいと思う。

私はオープニングの自撮り風ムービーが大好きなのだけれど、この2人って本当に付き合ってるんじゃないか?と錯覚するくらい、2人の表情が幸せに溢れている。

インタビューを読むと、西島さんも内野さんも、作品とそのキャラクターを演じることを心から楽しんでいて、ドラマも原作も大切に思っているんだなというのがよく伝わってくる。役者自身も、きっと制作側も大好きな作品だからこそ、作品全体に愛があるし、たまにあるアドリブかな?というシーンまで全てが愛おしい。

料理だけでなく、彼らはクリスマスもお正月も誕生日も、彼らなりにささやかに楽しんでいて、こういう日々の小さな喜びを恋人と一緒に分かち合えたら素敵だなと思う。こういう風に過ごすことができたら、アラフィフになったって、毎日が少しずつ楽しくて、そして幸せなんだと思う。

楽しいことも多いけど、たまに嫌な出来事があった日もある。それでも、「うまいな」「美味しいね」と言い合うことのできる相手がいる。それこそが幸せなのだ。

「きのう何食べた?」
この質問に答えられるのは、相手のことを思いながら料理をしたり、それを一緒に食べることに幸せを感じているからだと思う。

やっぱり声を大にして言いたい。好きな人と美味しいご飯を一緒に食べることは、この上ない幸せなのだ。そんな彼らの姿をみて、私まで幸せをわけてもらっている。

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