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フランスから、食関連ニュース 2020.03.03

フランスにおける旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。

1. 今週の一言

昨夏にオープンした「フルール・ド・パヴェ」という店のオーナーシェフであるシルヴァン・サンドラとは、もう15年来の知己でしょうか。彼が20代の頃、小さなビストロのシェフでありながら、巨匠でクリエーション力に長けたピエール・ガニエールの再来とも呼ばれていました。海外も含めて多くのジャーナリストからも評価を得て、 30代そこそこで「イチネレール」というコンテンポラリーなレストランをオープン。私も両方を体験してきました。2017年にその店を閉め、2年間の充電期間を経て、オープンしたのが「フルール・ド・パヴェ」。新しい店では、今までの店に増して、シルヴァンという人物が本領を発揮する料理に出会え、今年42歳になる彼の、これからも伸び続けるであろう、のびしろのある未知のクリエーション力に魅了されました。何に影響されたわけでもない、彼自身の引き出しから生まれた料理ばかりと感じました。メニューは、コース料理とアラカルトからなりますが、日本人がパリ郊外で野菜を作る山下農園を特に贔屓にされ、個人的にも懇意にされていることもあり、野菜使いの際立つことでも知られています。先日は、この店独自の野菜のメニューを頼もうと決めていました。1階席と2階席があり、1階はカウンター。予約していた1階席に座り、まずはワインを決めてカウンター越しに伝えると、シルヴァン自身が特に好きだったワインと合致したこともあって、ワインにあった野菜料理を即興で作ってくれるということ。そのマリアージュも料理も即興とは思えない素晴らしさでした。

以前、ある人気のレストランで苦い経験をしたことがあります。メニューはおまかせコースのみ。料理に合うワインを選びたいので、どんな料理が出たいか予め知りたいとたずねたら、ソムリエは、うちはサプライズメニューなので、教えられないという。それではワインもチョイスできないというと、店側で好みを教えてもらえれば、それに応えるワインを選ぶと言われる。値段との兼ね合いもあるわけで、すべてを任せるのはどうかというと、それではペアリングがあるというので、仕方なくそれを選びました。このあり方に納得できなかったので、食後にシェフに率直に伝えると、こちらの意向をわかってもらえず、シェフが喧嘩腰になり、驚いてしまった。

近年は、確かに、おまかせ料理が一辺倒で、客も楽かもしれませんが、店も実は楽をしている故のチョイスでもあるということを、客も知るべきで、その上で、自分も乗るか否かを決めた方がいいと思います。ですから、私は、どんな店であってもセットメニューは好きではありません。簡単に言えば、なぜ、サラダやスープがつかなくてはならないのか、それを客側がなぜお得かと思ってしまうか、ということを、もう一度店も客も考えた方が良いと思うのは、少し余談になりましたが、私だけでしょうか。

今年ミシュランの三つ星を取った小林圭が、「レストランは仕入れから製造、販売までもし、お客を喜ばすという、レアな形の企業である。それが一つでも欠けてはレストランとして成り立たないのであり、オーナーシェフとしては失格である」と言っていましたが、まさにその通りだと思います。カウンター越しにシルヴァンを眺めていて、彼のオーナーとしての度量の大きさにも気づかされました。洗い場のスタッフにも会話に参加させることもあり、自分で料理も運べば、我々カウンター客との会話も楽しむ。1階も2階も、ほぼ常連ばかり。それを苦もなく立ち回り、飄々とした様子で、厨房にも客席にも常にいる。充電期間を経て、スイッチの入れ替わった彼の素晴らしさに、驚かされています。今年一つ星を得ましたが、星では量れない価値のある店だと思いました。

もう日本は春を待つ季節ですが、たまたま出会った漢詩に心を揺るがされたので、記憶にとどめたくこちらに記します。

寒梅は美麗を競わず、ただ春を告げるのみ。山の花が爛漫と咲くとき、草むらにあって一人微笑む。

写真はシルヴァン・サンドラ作「ポワロー葱のタルトタタン。マスタードソース風味」

2. 今週のトピックス【A】ギャラリー・ラファイエット」X調理師学校。【B】ジョエル・ロブション・インターナショナル、新展開。【C】「フォーション」調理師学校、2021年開校。【D】ベルギーのデザイナーによる「シュールなディナー」

2. 今週のトピックス

【A】ギャラリー・ラファイエット」X調理師学校。

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