週刊食関連ニュース 2019.10.07

当マガジンはじめてテキストとなります。どうぞよろしくお願い致します。日本時間で毎週火曜日の朝に配信するというリズムで開始させてください。

紹介文でマガジンの内容について説明させていただいていますように、フランスを中心にした旬な食関連ニュースを週刊でお届けいたします。10月中はテキスト全開示、無料設定とさせてください。

食関連者の方々はもちろん、それだけにとどまらない多くの方々の、豊かな発想の源、あるいは立ち止まるきっかけとなるような、最新の食ニュースを抜粋してお届けしたいと思っています。伝統から未来を生み出すための、フランスならではの企画力、企業のソリューションの見つけ方や、政府の世界的な問題への目標設定や方法論、人々の社会参加など。あるいは世界で挑戦する日本の企業、クリエーターの方々の仕事の魅力も。

毎回「今週のひとこと」に続いて、「フランスの話題のトピックス」、「フランスにおける日本」の2本立てを中心にご紹介します。

当マガジンは、他サービスから1年半ほどかけて配信していたものですが、こちらNOTEのページにすべて移行させていただきました。新規の読者の方々にも向けて、今まで配信した内容を、再度掲載することもありますこと、あらかじめお断りさせていただきます。どうぞ末永く、よろしくお願い申し上げます。

1. 今週のひとこと

故ジャック・シラク元大統領とパリ・ヴォルテール河岸のある老舗のビストロで、通路を隔てて隣あわせになったことがありました。私たちは1番乗りで、2番乗りの客がシラク氏。小さなマルチーズを連れ、ベルナデット夫人とともに入ってきました。一目散に店を走る犬をなだめて、こう呼んだのを覚えています。「Sumo Sumo, viens toi(すもう、すもう、こっちにおいで!)」。親日家であることは知っていましたが、小さな愛犬に「相撲」と名付けるとは。氏のチャーミングな横顔がうかがえる一幕。噂に違わぬ健啖家で、ステークフリッツ(フライドポテト付きのステーキ)のお供に、ビールをパイントで次々とおかわり。サービス係によると5杯も飲み干したということです。ベルナデット夫人はボルドーのハーフボトル。食事が終わると早々に立ち去りましたが、彼らがエリゼ宮を離れ、ヴォルテール河岸に住みはじめたばかりのころの早い夕食の時間でした。

1995年から12年間2期務めた大統領の時代、パリで毎年開催の国際農業見本市に必ずや足を運んで、半日かけて生産者と集うことを厭わなかった姿は印象的でした。ワインや食べ物を率先して試食し、断ることは一度もなかった、笑顔とコミュニケーション、握手を絶やさなかった。農業従事者との絆は強かったことでも知られています。テット・ド・ヴォーのアンバサダーと言われ、出身地であるコレーズ県のリンゴと選挙のキャンペーンなど、食にまつわる話題の絶えない方でした。「近年に彼ほどフランスを愛した大統領はいたろうか」と今も愛されている故人。笑いを誘いながら真実を語り、国民とともにいた偉大な大統領ではなかったかと思います。


2. 今週のトピックス

【A】フランス国家最高職人章の3名による、高級フード・トラックプロジェクト。

国宝所持者ともいうべきMOF(フランス国家最高職人章)の称号を持つ3名が、フード・トラックを始めるという話題が席巻しています。フード・トラック名はヴァガボン(フランス語でさすらい人という意味)。「シャトー・モン・ジョリ」の料理長ロミュアルド・ファスネ氏、コーヒー焙煎職人ヴァンサン・バロ氏、チーズ熟成士マルク・ジャナン氏の3名が結束し、彼らの本拠地のあるブルゴーニュ・フランシュ・コンテ地方にて、まずはプロジェクトを実現させると発表。サービスするのは高級フードだそう。31歳のエマニュエル・シャムトン氏がヴァガボンのエグゼクティブシェフに就任して、この秋のオープンが待たれるところです。

【B】フランスにおける肉食事情。
フランス畜産・食肉委員会Interbev(フランス全国21つの自治体の委員会からなる)は、フランス世論研究所IFOPとの協力で、フランス人の肉に対する意識調査を進めています。肉食に対するあらゆるバッシングが世界的に広がりつつある中で、フランス人の実際の意識を知ろうというもの。世界的な流れとは裏腹に、フランス人が平均的に食す肉の頻度は7.1回という結果。またオーガニック肉に対する意識もまちまちで、飼料あるいは、飼育方法のみに注視する人に別れ、環境問題に及ぼす影響にまで問題視する人は10%とごくわずか。ただ、来年1月からのEGalim法の施行などにより、フランスにおいても、肉消費に関して今後突きつけられる問題は山積みです。

そこで、Interbevは、90年代のアメリカで実践され始めた、“菜食中心だが、時々肉も取り入れる”という食生活への主義「フレキシタリアン」を取り上げ、肉離れを防ごうとする発表も。90年代のアメリカで実践され始めた主義ですが、まだまだフランスでは認知されておらず、全く知らないが65%。現代に生きる言語を積極的に取り入れることでも知られる仏語辞書ロベールでも、2018年版に、はじめてこの「フレキシタリアン」という言葉を採用したばかりです。ただ「準ベジタリアンとして、肉の消費量を減らす人」という説明があり、本来の意味とは異なる解釈。Interbevとしても、 “すべての食材をバランスよく食すこと”と、本来の主義が浸透していないこの国にてフランス流解釈をすすめ、質よい肉の消費を促しています。


【C】サステナブル漁業をテーマに、錚々たるシェフがコラボレーションディナーを開催。

パリ・マドレーヌ広場にあるフレンチの殿堂「ルカ・カルトン」。現シェフを務めるジュリアン・デュマ氏は、“サステナブルな漁業”をテーマに、フランスの名だたるシェフを招聘してコラボレーションのディナーを開催することを発表しまいsた。デュマ氏はアラン・デュカス・グループ傘下の老舗の魚専門店である「RECH」のシェフに就任したころから、漁師たちと直接話す機会を得て、海の生態系の問題を身近に感じたということでした。もと3ツ星の名シェフ、オリヴィエ・ロランジェ氏が立ち上げたサステナブルを考える魚料理コンクールでも、ロランジェ氏の代理として今年は審査員長を務めています。

第一回目はボルドー地方サンテミリオンの2つ星シェフ、ロナン・ケルヴァレック氏とのコラボレーション。続いてロワール地方2つ星アレクサンドル・クイヨン氏、ローヌ・アルプ地方アヌシー市の3つ星ローラン・プチ氏、シャンパーニュ地方の3つ星アルノー・ラルマン氏と、錚々たるシェフたちのコラボが決定しています。第一回開催は11月6日。サステナブルを意識して料理を作ることは、フランスにおいてもはや必須であり必然となっています。どのような魚料理を、どのようなメッセージで伝えていくのか、追っていきたいと思います。

【D】化学工場の大規模火災で、農業に黒い影

フランス・ノルマンディー地域の首府ルーアンの化学工場ルーブリゾールで26日に火災が発生。翌日ようやく鎮火しましたが、5000トンを超える潤滑油、添加剤や原料などが燃えたことが明らかになり、人体、自然への影響が懸念されています。セーヌ川に汚染物質が流出したばかりでなく、黒煙が立ちこめて刺激臭が周辺約20キロ圏内を覆い、学校は2日間休校に。鎮火に当った保安機動隊や消防隊をはじめ、多くの人々が吐き気と嘔吐にみまわれるなど体調の異常を訴えていますが、政府は人体へのリスクはないとの発表。ルーアンの人々は真実の発表を強く求めています。

黒い煤が降った地域に関しては、26日以降の収穫物に対し販売制限の条例を公布。風向きにより5つの県206の自治体におよび、穀物、野菜・果物、卵、乳製品、蜂蜜、養殖魚などを生産する1800もの農業従事者に影響が出ることが明らかになりました。ディディエ・ギヨーム農業大臣は「被害者であり、賠償を受けるべき」と政府の支援を約束しています。

3. 今週の日本@フランス、ワールド

【A】「ワールド・シェフズ・ツアー」ファースト・ツアーに、ペルーのレストラン「MAIDO」のオーナーシェフ日系2世津村光晴氏が参加。

「WCHT(ワールド・シェフズ・ツアー)」はスペイン・マドリッドで立ち上げられたスペイン企業による企画です。世界中で評価されるシェフたちのレストランはなかなか予約がとれません。そこでWCHTは、9ヶ月をかけ9名のシェフを1都市に集合させてディナーを提供するツアーイベントを企画することに。世界中で評価されるワインやシャンパーニュ、ウィスキーなども一度に味わえるという機会ともし、唯一無二のディナーを体験できます。第1回目はマドリッド。予約は10月8日から始まります。シェフはワールド・ベストレストラン50を一番の指標としながら、世界中の評価を総合して選択。

第1回目の9名には、今年のワールド50で最高位に輝き、今年ミシュラン・ガイドでも3つ星を獲得したフランス・マントン「ミラジュール」のマオロ・コラグレコ氏やアジア・ベストレストラン50の最高位、シンガポール「オデット」のジュリアン・ロワイエ氏などとともに、ペルーの首都リマで活躍する「MAIDO」のオーナーシェフ津村光晴氏の名前も。ラテンアメリカ・ベストレストラン50では最高位、ワールド50では10位につけています。和食のエスプリと技術を巧みに組み合わせたチャーミングな高級料理で世界中の客をつかんでおり、WCHTの初回にふさわしい料理人でしょう。

http://www.worldchefstour.com/

【B】3つ星シェフ、ラーメン店をオープン。

フランスを代表する3つ星シェフの一人、ギー・サヴォワ氏が、セーヌ川沿いのビストロ「ブキニスト」をラーメン店「Supu Ramen」にするという挑戦に踏み出しました。パリ近郊で生産した有機の小麦粉を使って、オリジナルな麺を作り、チキンかカツオ出汁、あるいは牛肉のブイヨンで作ったスープでサービスするというもの。たとえば、鯖+海苔+クレソンで、出汁ベースの辛味ミソスープ。パリ近郊産豚の胸肉+椎茸で、チキン醤油ブイヨンスープ。骨つき牛バラ肉のコンフィ+タマネギのフライ+パクチー、牛のブイヨンスープなどで約15〜18ユーロ。「和食とフランス文化を融合したパーフェクトな食べ物」と謡っています。グラフィティーアートで覆われた店のインテリアは、ファブリス・ヒベール氏が担当。和気あいあいとした雰囲気をテーマとしているとのことです。

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